「待っ…!」
『待って』と言い切る前に、三匹は消えた。
肩にあったはずの重みも、今は感じない。
「なんだったんだよ…?」
髪が若干ボサボサになった若井が、唖然としてる。
「よし、整理しよっか。」
彼が最後に言った言葉も気になるし。
りょうちゃんは、起きて来るまで放置!
睡眠大事!
「りょうちゃんの守護神はフェンリル。見えてるし、触れるし、話もしてる。OK?」
「OKじゃないけど、OK。」
若井が相槌を打ってくれる。
「赤ちゃんの頃から一緒だったと。オレも見たい。」
ちっちゃなりょうちゃん、見たい。
「元貴、欲望がダダ漏れ。」
「いいじゃんか。で、オレらにはその子供が付いた、と。」
ハティは月を追う者。
スコルは太陽を追う者。
『太陽くん』な若井にスコル。
ぴったりだと思う。
「頭にくっつかなきゃ、かわいいヤツなのに。」
髪をボサボサにされた事を、まだ根に持ってるらしい。
「そして、最後に言ってた言葉が、気になる。宿命って。」
命に宿ると書いて、宿命。
オレや若井が、りょうちゃんの宿命…?
「運命、じゃないんだな。」
「運命だと、運による所が大きいからじゃない?運じゃない、何かが決まってる。あいつ、全部知ってるだろうに、何も教えてかなかったな。」
自分たちで探せってか。
足を組んで、腕を組んで、オレと同じような体勢で悩んでた若井がパッと上に手を上げた。
「分からん!お手上げ!元貴に任せた!俺はいつも通りにりょうちゃんを愛でる!」
視線の先には、口元をむにむにし始めたりょうちゃんがいる。
起きるまで、あと少し。
そもそも…。
「オレらからの愛を、全く理解してないりょうちゃんをどうしろと…。」
『何とかしろ。』
苦笑混じりのフェンリルの声が、聞こえた気がした。
りょうちゃんの手が、宙を撫でてる。
フェンリルを撫でてんだな。
イヤイヤするみたいに首を横に振って、りょうちゃんは目を開けた。
「あ…おはよぉ…。」
「はい、おはよう。ここはどこでしょう?」
これだけ騒いでも起きないくらい爆睡してましたけど、家か何かと勘違いしてます?
「…あれぇ、もときだぁ…。」
声だけで分かるのは、偉いね。
「もとき…もとき⁈」
閉じようとした目をぱっと見開いて、りょうちゃんは飛び起きた。
「そんなに名前呼ばないでよ、照れちゃう。」
気がつきましたか?
「涼ちゃーん、俺もいるー。」
若井のちょっと情けない声が響く。
「…と、わかい。なんで起こしてくれないの。」
ソファの上で、りょうちゃんが膨れっ面になる。
「気持ち良さそうに寝てたから。寝れてないの?」
「そんな事もないけど…最近眠いんだよね。あ!それと昨日の夜は、遅くまでゲームしてたせいかも!」
「いや、寝なさいよ。」
何やってるのよ。
『遅くまでゲーム』につい気を取られて、他に意識がいかなかった事を、後で悔やんだ。
そこを意識してれば、こんな事態にはならなかったはずなのに。
コメント
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むむむ?!なんだか不穏だ... 昨日このお話と出会って面白すぎて一瞬で読み切っちゃいました〜💗