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「連絡が、つかない?」
『そう、電話も出ないし。今から行くけど、その前に一応と思って。』
若井からの電話はあっさりしたものだった。
きっと夜通しゲームやって今爆睡してるか、スマホを忘れたままどこかへ出かけたか。
どっちかかなと思って、追求はしなかった。
もう一回、若井から電話がかかってくるまで。
「連絡ついた?見つかった?」
『起きない。』
「は?」
主語は?
『涼ちゃんが、起きない、何やっても。どうしたらいい?』
「一回そっち行くわ。」
意味不明だから。
そう遠くないし、時間もさほどかからないし、若井がいるから、鍵も開いてるし。
「来たよー、なんなのー。」
起きないって、どういうこと?
ベッドの上、りょうちゃんは寝てて。
若井はその横に座り込んでた。
相変わらず散らかしてんなぁ、洗濯物とか。
「若井?」
「元貴、涼ちゃん、起きない。」
こっちを振り返る事も、なんなら視線を向ける事すらなく、若井が呟く。
オレもりょうちゃんのそばに行って、その体を揺すってみる。
「りょうちゃん、起きて。」
返ってきたのは、りょうちゃんの体温と、ふにっとした柔らかさだけで。
目を開ける事も、意味不明な寝言もなかった。
「りょうちゃん?」
「な、起きないだろ。」
座り込んだ若井がボー然としてる。
「前からよく寝るな、とは思ってたんだけど、これほどなんて。どっか悪い訳じゃないよな?」
昨日までダンスの練習で、一緒に踊ってたのに、どっか悪いなんて事はないと思いたい。
…この状況を分かりそうなヤツがいるにはいる。
「ハティ。」
名前を呼べば、肩に重みが蘇る。
『呼んだ?』
「お前か、お前の父親なら、この状況がどうして起きてるか分かるだろ。説明してくれよ。」
眠り姫じゃあるまいし。
「その手があったか!」
病気なら病気で、教えてくれるはず。
しばらく考えてたハティが父親を呼ぶ。
『パパ、呼んでる。』
りょうちゃんの前の空間が揺れる。
その揺れが収まると、りょうちゃんに寄り添うように横たわるフェンリルがいた。
『呼んだか?』
「呼んだか?じゃないよ。なんでりょうちゃん起きないのよ。」
あなた、知ってるでしょ、この原因。
本当にヤバかったら、コイツ、オレらを呼ぶ気がする。
そのために、この二匹をオレらに付けたんだと思う。
『起きないではなく、起きれないのだ。』
上げた頭をまた降ろして、フェンリルも寝る体勢になる。
『何かが此奴の中で変わろうとしている。その為の力が足りない。我の力を使っても尚。それ故に起きれない。我も起きていられそうもない。』
フェンリルの姿がまた揺らぐ。
『子供らに影響はないはずだ。起きたら教えよう。その時には…。』
最後まで言い切る事なく、フェンリルは消えた。
「それって、大丈夫なのかよ。」
若井の言う通りな気がする。
「どこか悪い訳じゃなくて、一安心…とでも言うと思ったか!」
かと言って、どうにも出来ないし。
起きれないって、結構ヤバいんじゃないだろうか。
とりあえず、見守ることしかできない自分らが歯痒かった。