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2025年6月20日の双見村での村人による惨劇、そしてミフジと名乗る女に幸太と陽翔を連れ去れたゼコウは、どうすればいいのかわからずにいた。
――二人を保護するためにここに来たのに、その二人は連れ去らわれた。そして幸太達に暴行を加えた村人たちを救う事に俺は戸惑いを感じている……。俺は何のためにここに来たんだ?……。
ゼコウが悩む中、ヤゴロが報告にやって来た。
「本隊長!やはり仮説拠点にフミネ副本隊長の姿はありませんでした……。通信の為に仮説拠点に残っていた隊員に確認したところ、深夜に拠点から出ていくフミネ副本隊長の姿を確認しており、話しかけたところ機密作戦のため秘密にするよう口止めをされていたとの事です。恐らく先ほど現れたミフジと名乗る女はフミネ副本隊長で間違いないかと思われます……」
「そうか……」
ゼコウは悲しそうにポツリと呟いた。
「ほ、本隊長、これから如何なさいますか?……」
「あ、あぁ。これから俺たちは……」
ゼコウは隊員にこれからの行動を伝えようとする。だが、その時にミフジと名乗る女の言葉を思い出す。
――そうか、モパンは死んだのか……。それならば俺たちのすべき事はもう残っていないな……。ホニャ国も日本もモパンを失ったことで、元の形に戻っていくだろう……。幸太達も自ら進んでいなくなった。それを俺たちが止める権利はない……。全部、全部終わったんだ……。
「解散しよう」
ゼコウは静かにそう一言声に出した。
「え?」
「モパンが死んだ事でホニャ国も日本も元の姿に戻っていくだろう。幸太達も自らあのミフジと名乗る女についていったんだ。それを止める理由は無い。だから俺たちにするべき事はもうない。解散なんだ……」
「いや、ちょっと待ってくださいよ!ゼコウさん!解散なんて!?……」
隊員達にどよめきが走る。
「お前も疲れただろう?これまで頑張ってくれてありがとう。みんなもそうだ!それぞれ故郷に帰るといい!」
その瞬間、ゼコウの顔面に鈍い衝撃が走る。
「何言ってんだ!ゼコウ!」
ヤゴロの拳は固く握られて、甲の方は赤く染まっていた。
「何って、解散だって言ったんだよ……」
「あんた本気でそれ言っているのか!?じゃあどうするんだよ連れ去られた幸太君達は!?あんな得体の知れない奴らに追われて連れ去られてこの先どうされるのかわかんねぇんだぞ!それにここの人はどうするんだよ!?」
「こ、幸太達はそれをわかった上でついていったんだ……。それにここの人たちは……」
ゼコウは話しながら一瞬村人たちを見る。その時彼の脳裏には血みどろの棒状の物を持って立ち尽くすあの村人たちの姿が映る。
再びヤゴロは殴った。
「あんた、おかしくなったのか!?俺たちの使命を思い出せよ……」
「え?……」
「あんたがなぜ、この組織を作ったのかを思い出せって言ってんだ!」
ゼコウは少し戸惑う。
――俺は傷つく誰かを守るためにこの組織を作ったんだ……。でも……。
ゼコウの脳裏には彼がホニャ国の官邸で働く前、軍隊にいた時の記憶が思い出される。
――あの時、軍隊に所属していた俺はホニャ国の内乱鎮圧の為に戦った。目の前で飛び散る血しぶき。狂気の目をした国民たち。自らの主張の為には同胞すらも殺していた彼らに俺は恐怖を感じていたんだ……。そして俺もその一人だった。目の前で銃を乱射する男。近くには逃げ遅れて怯えている子供たち。子供たちは男を見て叫ぶ。助けて。助けてと。俺は迷わずその男を撃った。彼を止めるために、そして子供を助けるために。しかし助けたと思った子供達は俺の撃った男が倒れる時に放った弾丸で撃ち抜かれて死んだ。そして俺は気付いた。そこに横たわる男の亡骸と子供の亡骸に同じペンダントが付いている事を。ペンダントには家族写真が入っており、そこには笑う彼らの姿が映っていた。子供は自分達が助かりたくて叫んだわけではなかったのだ。ただ、笑顔の父に戻ってほしかっただけだったのだと。だから俺は……。
「俺をもう殴ったって何も変わらないぜ……。それを証明したのが今のこの有様だろ?……」
「……あぁ、そうだよ。殴ったって何も変わらねぇ。助けたかった人も守れねぇ。そんな事はわかってる!それでも俺たちは、やって来たんだろ!?自分たちの信念を信じて!……確かに、この拳は相手を傷つける事しか出来ねぇ。その通りだ。でもな、相手から憎まれたとしてもその拳で人を助けることも出来たはずだ!お前はその拳で自分が傷つくことを恐れているだけなんじゃないのか!?」
「だ、だとしても守れなかった人もいる……」
「お前の過去に何があったのか、俺は知らねぇ。でもな、たとえ拳を使って誰かを守れなかったとしても、お前は戦わないといけないんだ……。目の前に守るべき人たちがいる限り……」
その時、ゼコウは頭を殴られたかの様な衝撃が走る。そして再びゼコウは村人たちを見る。
――確かに彼らは幸太達を傷つけた。それは許されるべき事ではない。でも、それを理由に彼らを見捨てるわけにはいかない!……。考えろ。今俺たちがするべき事は!
「ヤゴロ、全隊を2つに分けてくれ!。一つはこれより双見村の救助を行う!」
「ゼコウさん……」
「そしてもう一つはこれより幸太達の救出に向かう!」
「「了解!」」
隊員たちの声が双見村に響いた。
――俺は再び間違えるかもしれない……。しかし目の前の誰かを見捨てる理由にはならないんだ。……やっとあの日の答えが見つかったよ……俺は戦う!
ゼコウは再び動き出す。
同時刻、日本中であるニュースが流れる。
「繰り返します。国際指名手配されていた福永幸太が確保されたとの事です。これにて世界の異常気象は収束に向かうと思われますが、現時点では世界政府のその後の対応など情報は入っていません。また、福永幸太が率いているテロ組織ホニャイヤダは現在も活動を続けているとの情報があります。今後リーダーの確保に対する、奪還やテロ活動などの犯行も考えられます。もし怪しい人物や集団を見かけましたらすぐにお近くの警察に通報をお願い致します。そして本日は福永幸太確保に多大な貢献をされた救世主教会の教祖である山門《やまと》ムツミさんにお越し頂いております。山門《やまと》さん本日は宜しくお願い致します」
「はい、よろしくお願い致します」
「今回の福永幸太確保に至るまでに、山門《やまと》さんの率いる救世主教会信者の皆さんが協力して通報や追跡などを行ってくださったとお伺いしております。非常に凶悪なテロ組織のリーダーですので関わるだけで危険だとたじろぐ市民がいる中、どのようないきさつだったのでしょうか?」
「そうですね、まずはこの確保劇は私達だけの力では成しえなかったものだと思います。確かに我々救世主教会は率先して行動しましたが、それに連なって協力してくださった市民の皆さんの行動あっての確保だったと考えております。本当にありがとうございました」
「なるほど、ではそこまでして行動した理由と言ったものはあるのでしょうか?」
「理由ですか。世界に被害を与えている悪人を野放しにしていいはずがない。悪人を捕まえるためになら私たちは動く。それが私たちを突き動かした原動力です」
「その心、現在の日本では失われつつある気持ちだなと感じます。まさに救世主教会の皆さんはそんな失われつつある日本人として、いや人間として持っているべき悪を許さない心、道徳心、そして助け合う気持ちを体現された方々だと思います。また、話を伺っていくと救世主教会の教義には今回の事件と奇妙に一致する者があると聞いたのですが?」
「はい、教義と言いますか、我らはそもそもこの世にあらわれる救世主様を崇める団体でして、その救世主様の事を予言していたのが聖人ユピテル様です。そしてユピテル様は救世主様の事だけでなく遥か昔に現在の状況を見ていたかのような予言をされていたのです」
「それはいったいどのようなものなんでしょうか?」
「世界の滅亡です」
「え、滅亡?」
「いきなり結論をお伝えしますと混乱されますよね。まずはその予言をお伝え致します。予言では、選ばれざる者が力を手にした時、世界は破滅に向かう。1999年7の月、選ばれざる者、極東に現る。13年後、力をその身に宿す。8年後、契約の始まり。第一の破滅が訪れる。3年後、崩壊の始まり。第二の破滅が訪れる。1月後、代償の時。最後の破滅が訪れる。その後に円環の理は無に帰すであろう。これがその予言です」
「なるほど、解説をお願いします」
「はい、まず、1999年7の月、選ばれざる者、極東に現る。これは1999年7月5日に日本海側で観測された赤いオーロラの事を指していると考えます。13年後、力をその身に宿す。これは1999年7月5日から13年後の2014年7月5日に日本海側のM県に落ちていったと思われる彗星を指しています。8年後、契約の始まり。第一の破滅が訪れる。これは2022年7月5日にA県で発生した原因不明の超局所地震。3年後、崩壊の始まり。第二の破滅が訪れる。これはA県の地震から3年後、M県T市で発生した同じく原因不明のあの記憶にも新しい令和7年度T市複合災害を表します。そしてT市での災害に端を発するように世界中で異常気象などが頻発しています。まさにそれは崩壊の始まりを暗示するかのようではないでしょうか」
「確かに、それぞれに共通項がありますね……しかしそれは単なる偶然ではないのでしょうか?」
「実はこの予言に当てはまる事例がまだあるんです。それが福永幸太なのです」
「え?」
「福永幸太は1999年7月5日生まれのM県出身。2014年にあの彗星を目撃しています。そして8年後彼は2022年7月5日にA県で発生した超局所地震で被災しています。さらにその3年後、M県T市に戻っていた彼は令和7年度T市複合災害でも被災しています。彼は天候操作兵器を所持していますよね。もし過去に発生した地震や複合災害で被災していたことが偶然ではなく、彼がその兵器を使用、または実験の為にその場にいたのだとしたら?」
「そんな……。でも辻褄は全てあってますね……」
「そうなんです。これはもはや偶然ではないと我々も思っていました。だからこそ今回の福永幸太確保のために最初に動けたのかもしれません。世界を滅亡させるわけにはいかないので」
「なるほど。でも予言には最後の破滅とあったと思うのですが……」
「はい、これをご説明するのはとても心苦しいのですが、世界の異常気象は恐らくまだ続きます」
「そ、そんな……」
「なぜなら予言には第二の破滅が起きたその1月後に最後の破滅が来ると書いてあるからです。それが示す日付は2025年7月5日。恐らく福永幸太を確保するだけでは異変は止まらないのではと考えております。今は信じられないと思います。でも福永幸太が確保された現在、これから先も異常気象が続いた時は私の言葉を思い出してほしいのです。あの予言には続きがあります。しかし汝悲しむこと勿れ。真の選ばれし者、暗闇を照らし未来を紡ぐ。1999年6の月、選ばれし者、極東に現る。その者、誰にも気づかれる事なく奇跡を起こし人々を救う。その者、力を失い深い底に沈む。その者、――を以て真の力を得て未来を紡ぐ。それが我らの救世主であるハルト様であり、――を以ってハルト様が真の救済を始め世界は救われるのです……。ハルト様は信じる皆さんを救います。この言葉忘れないでくださいね……」
そして2025年6月22日。
幸太はフミネとアドラーに連れられて、重々しく厳格な雰囲気の流れる扉の前にやって来た。アドラーが部屋の主に許可を取り、扉を開けて中に進む。部屋にはただ一人の人間が椅子に座り、じっとこちらを見ている。
「セルグスク公爵閣下、福永幸太を連れて参りました」
「ご苦労であった。君が福永幸太か……」
「は、はい……」
幸太は目の前にいるセルグスク公爵と言う男の放つ、経験したことのない圧力を感じていた。
「福永幸太よ。君はこの世界を救いたいのだな?」
「はい……。そのためにならどんなことでも俺はするって決めました……」
「そうか……。福永幸太よ、我の手に触れよ」
そう言ってセルグスク公爵は手を伸ばす。幸太はその状況に驚きつつも同じく手を伸ばした。
そしてセルグスク公爵の手に触れた瞬間、何かが弾ける様な感覚がした。
「そうか、やはりそうなのか……。君は既にオーラの力を使っている。つまり願ったと言う事だ。しかし、君は何を願ったのか覚えていないだろう」
幸太は驚きつつも答える。
「は、はい。いつ何を願ったのかなんて……」
「オーラは選ばれざる者には何も伝えない。だからわからないのも当然だ。しかし君は既にうすうす気づいていたのではないか?」
「そ、それは……」
戸惑う幸太にセルグスク公爵は告げた。
「君の願いは、自分以外の人間が不幸せになる事。願いの代償は世界を滅亡させて死ぬことだ」
「そ、そんな……。でも、その代償による世界の滅亡を俺は止める事が出来るんですよね!」
「あぁ、出来る。世界の滅亡を止める方法。……それは、君自身が死ぬことだ」
「え……」
広い部屋の中、幸太の一言が寂しく響いた。
これにて第23話、おしまい。