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(あかさ)さん
勇者ぴよちゃんと四国見守り隊の4人は、魔王城へと続く道中にある「険しき連峰」の麓へとたどり着いていました。見上げるような高い山々が連なり、冷たい風が吹き下ろしています。
「うわぁ…すっごく高い山だね。僕、登れるかなぁ……」
香川が少し気圧されたように山を見上げて呟きました。
小柄な彼は、自分より遥かに大きな自然を前にして、少し気弱になっているようです。
そんな香川の様子を見て、放っておけない質の愛媛が優しく微笑みながら言いました。
「大丈夫だよ、香川。みんなで声を掛け合っていけば、きっと乗り越えられるはず。……それより、ぴよちゃんは大丈夫?」
愛媛が視線を落とすと、そこにはいつものように元気いっぱいに足をパタパタさせている、かわいいひよこが一羽。
「ぴよは全然平気ぴよ! お姉ちゃんを助けるためなら、お空だって飛べちゃう気がするぴよ!」
「おう、その意気だぜぴよちゃん! よし、俺が先頭に立って、みんなを引っ張っていってやるからな!」
高知が豪快笑いながら、持ち前の行動力で一歩を踏み出しました。細かいことは気にしない兄貴肌の彼は、険しい登山道でも全く怯む様子がありません。
「待て、高知。山の天気は変わりやすい。あまり調子に乗って先へ進むな。全員がはぐれないようにペースを合わせるのが先決だ」
徳島が少しツンとした口調で、高知の服の裾を引いて制止します。四国のブレーキ役として、彼はいつも全体の安全を一番に考えていました。こうして、5人は一歩一歩、険しい山道を登り始めました。
◇
登山道は思った以上に過酷でした。
道幅は狭く、ゴツゴツとした岩が転がっています。愛媛や徳島は、ぴよちゃんが小さな足を踏み外して転ばないか、ハラハラしながら一歩後ろを見守っていました。
「……なあ、愛媛。やっぱりぴよちゃんを抱っこして歩いた方がいいんじゃねえか? ほら、あんなちっこい足じゃあ、この岩場はきついだろ」
高知が心配そうに、何度も後ろを振り返りながら提案します。仲間が傷つくことを何より嫌う高知は、ぴよちゃんが心配で仕方がありません。
「そうだね、高知。僕もそう思う。ぴよちゃん、僕が背中におんぶしようか?」
香川も、両手を広げてぴよちゃんに呼びかけました。しかし、当のぴよちゃんは、つぶらな目を輝かせながらトコトコと力強く歩いています。
「お兄ちゃんたち、心配ご無用ぴよ! 勇者の足腰をなめてはいけないぴよ!」
そう言うと、ぴよちゃんは目の前に立ち塞がる、大人の背丈ほどもある大きな岩を見上げました。普通のひよこなら、絶対に飛び越えられない障害物です。
「よし、とおーーーっ!!ぴよ!」
ぴよちゃんが軽く身を翻すと、まるで重力を無視したかのように、ふわりと大岩を飛び越えてしまいました。
「「「「…………」」」」
四国の4人は、またしても言葉を失いました。その脚力は、人間のアスリートを遥かに凌駕しています。
「……ねえ、徳島。さっき高知が言った抱っこって、あの力強さを見る限り…必要だと思う?」
愛媛が引きつった笑顔で、そっと徳島に尋ねました。徳島は、少し冷や汗を流しながら答えます。
「……いや。むしろ俺たちが置いていかれないように必死になるレベルだな。あの小さな体に、どれだけの筋力が詰まっているんだ……」
「ぴよちゃん、やっぱりかっこいいや! 忍者の修行でもしてたの?」
一人だけ純粋に目を輝かせて拍手をする香川に、ぴよちゃんは嬉しそうに胸を張ります。
「えへへ、お姉ちゃんといっしょに、いつもおいかけっこしてたからぴよ!」
(おいかけっこでその身体能力になるか…!?)
高知は心の中でツッコミを入れましたが、ぐっと言葉を飲み込みました。思ったよりも強すぎる勇者の後ろを、見守り隊の4人は複雑な表情でついていくしかありません。
◇
山の中腹まで差し掛かった頃、突然、周囲に濃い霧が立ち込めました。ただの霧ではありません。
魔物の気配を孕んだ、不気味で暗い霧です。
「みんな、気をつけろ。何かが来るぞ」
徳島がいち早く武器を構え、警戒を促しました。
愛媛も香川を自分の後ろに隠し、周囲を鋭い目で見回します。
ガサガサ、ガサガサ!
不気味な足音と共に霧の中から現れたのは、岩の体を持ち、鋭いトゲを無数に生やした「ロックゴーレム」の群れでした。
その数、およそ十数体。
「グルルル……人間ども、ここから先は通さん……!」
「ちっ、思ったより数が多いな。高知、俺が左を抑える。お前は右――」
徳島が冷静に作戦を立てようとした、その瞬間でした。
「お姉ちゃんを助けるのを邪魔するやつは、みんなゆるさないぴよーーーっ!!」
ぴよちゃんの体に、黄金のオーラの(ようなもの)がゆらりと立ち上りました。めちゃくちゃかわいい顔のまま、ぴよちゃんは木彫りの剣を両手でしっかりと握りしめます。
「勇者一閃・ぴよぴよアタッーク!!!ぴよ!!」
ドガァァァァァン!!!
ぴよちゃんが超高速で突撃すると、一筋の黄色い閃光がゴーレムの群れを駆け抜けました。
すさまじい衝撃波が巻き起こり、周囲の濃い霧が一瞬で吹き飛びます。
頑丈な岩の魔物たちは、一撃でバラバラの砂利へと変わり、山の彼方へと消え去っていきました。
静寂が戻った山道。あとに残されたのは、伝説のの剣(おもちゃ)を「シャキーン!」と鞘(のようなもの)に収める、めちゃくちゃかわいいひよこだけです。
「ふぅ。なんとか倒せたぴよ! みんな、怪我はないぴよ?」
ぴよちゃんが振り返り、小鳥のように小首を傾げてききました。
「「「「…………」」」」
四国の4人は、完全に彫刻のように固まっていました。
今回は出番がないどころの話ではありません。
自分たちが戦う前に、地形が変わるほどの威力で敵が全滅してしまったのです。
「……なぁ、愛媛。俺たち、本当に必要か?」
高知が切ない顔で、自分の武器を見つめました。
仲間が傷ついたら一番に怒るの突撃隊長ですが、仲間が強すぎて怒る暇すらありません。
「……高知、それを言ったらおしまいだよ。僕たちの役割は、戦うことじゃない。……そう、この子が寂しくないように、一緒にいてあげることなんだから」
愛媛は自分自身に言い聞かせるように、優しい笑顔(少し震えている)で高知に言いました。
徳島も、静かに武器を収めながらため息をつきます。
「フまぁ……あいつが怪我をしないなら、俺のブレーキ役の出番もなくて結構だ。……少し、肩の荷が下りたな」
「ぴよちゃん、すっごく強くてかっこよかった! 僕、もっとぴよちゃんのこと応援したくなっちゃった!」
香川だけはいつも通り純粋で、ぴよちゃんの元へ駆け寄ってその小さな頭を優しく撫でてあげました。
ぴよちゃんは
「えへへ、香川お兄ちゃん、あったかいぴよ〜」
と嬉しそうに目を細めています。
その光景を見て、四国の4人は自然と笑みがこぼれました。
「確かに、戦力としては助けはいらないかもしれない。けれど、このかわいらしい勇者を最後まで見守り、無事にお姉ちゃんに会わせてあげることこそが、自分たちの使命なのだ」
と、4人は内面にある仲間思いの心を一つにしたのです。
「よし! 山頂まではもう少しだ! 次のご飯の準備でもしながら進むとするか!」
「そうだね、高知。ぴよちゃんのために、美味しいみかんのデザートを準備しよう」
「わーい! みかんぴよ!? 頑張って歩くぴよー!」
こうして、思ったより強すぎる勇者と、役割を「お世話係」へとシフトし始めた四国見守り隊の旅は、賑やかに続いていくのでした。
コメント
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ぴよちゃんの身体能力、今回も規格外でしたね(笑)。「おいかけっこ」であの跳躍力はさすがに全員のツッコミどころですが、そこがまた愛らしい。四国メンバーが「お世話係」にシフトし始めた流れも自然で、香川くんだけが純粋に応援している温度差が微笑ましかったです。設定がきっちり生きている、とても気持ちの良いエピソードでした。