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いちご@低浮上中。。。
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「……っ、さむ」
7月だというのに、なつは布団の中で小さく身を丸めた。
エアコンなんてつけていない。
それなのに体は震えて、額は熱い。
「最悪…」
掠れた声で呟きながらスマホを手に取る。
たしか今日は配信の予定があった。
しかもいるまとのコラボ配信。
配信開始まで、一時間ちょっと。
「…どうしよ」
楽しみにしてくれているリスナーもいる。
「休む……?」
そう口にしてみる。
でも、その言葉が妙に重たく感じた。
楽しみに待ってくれている人たちの顔が浮かぶ。
『明日の配信楽しみ!』
『絶対リアタイする!』
そんなコメントを見たのは昨日のことだ。
「休みたくないな……」
立ち上がろうとする。
その瞬間。
ぐらり、と視界が揺れた。
「っ……」
慌てて机に手をつく。
足に力が入らない。
「これじゃ……無理か」
悔しくて唇を噛む。
どうして今日なんだ。
よりによって今日。
スマホが震えた。
画面を見ると、いるまからだった。
『今日何時に配信だっけ?』
タイミングが良すぎる。
少し迷ってから返信を打つ。
『20時』
送信。
すぐに返事が来た。
『体調大丈夫か?』
「……なんで分かったんだよ」
思わず苦笑する。
そんなに分かりやすかっただろうか。
『ちょっと熱あるだけ』
送信してから、しまったと思った。
数秒後。
『何度?』
『38.4』
既読。
返事はない。
「あれ」
怒らせたかな。
そう思った矢先――。
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
「……え?」
時計を見る。
まだ10分ほどしか経っていない。
恐る恐る玄関を開けると。
「……いるま?」
息を切らしたいるまが立っていた。
「配信やる気?」
開口一番、それだった。
なつは困ったように笑う。
「やりたい、けど」
「”けど”じゃない」
いるまは額に手を当てる。
「熱っ」
「だからちょっとだけ__」
「38.4で”ちょっと”なわけあるか」
少し強い口調。
でも、その声は怒っているというより心配しているように聞こえた。
「でも、待ってくれてる人いるし」
ぽつりと漏らす。
「告知もしたし……」
いるまは黙ったまま、なつを見る。
苦しそうに息をする姿。
無理に笑う顔。
それを見て、小さくため息をついた。
「なつ」
「……ん」
「リスナーは、お前が無理して倒れる配信なんて見たいと思うか?」
その一言に、言葉が詰まる。
「元気なお前だから見に来てくれてるんだろ」
「……」
「今日は休め」
静かな声だった。
命令でもなく、お願いでもなく。
本気で心配している人の声。
なつは俯いた。
悔しい。
配信したい。
でも。
画面を見るだけでも少し視界が滲む。
「……休もうかな」
そう呟くと、いるまはようやく安心したように笑った。
「それでいい」
その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた力が抜けた。
一人だったら、きっと無理をしていた。
でも。
止めてくれる人がいてくれたから。
今日は、ちゃんと休もうと思えた。
「ほら、スマホ貸せ」
「え?」
「配信の連絡」
「自分でやる……」
そう言ってスマホを持ち上げるものの、画面を見つめる目はどこかぼんやりしている。
文字を打とうとしても、指が思うように動かない。
いるまはため息をつき、なつの手からスマホをそっと取った。
「俺が書くわけじゃねぇよ。お前が何て書くか言え」
「……『体調崩しちゃったから、今日の配信はお休みします。ごめんなさい』」
「それだけ?」
「うん……」
「了解」
なつの言葉をそのまま打ち込み、確認してからスマホを返す。
送信ボタンを押した瞬間、なつは少しだけ寂しそうに笑った。
「みんな、残念がるかな」
「残念には思うだろ」
その一言に、なつの肩が小さく落ちる。
「でも」
いるまは続けた。
「ちゃんと休んで、また元気に配信してくれた方が絶対喜ぶ」
その言葉に、なつはゆっくりと頷いた。
「……ありがと」
「礼はまだ早い」
そう言うと、いるまはキッチンへ向かった。
冷蔵庫を開ける。
中身は思っていたより少ない。
「……ちゃんと飯食ってる?」
「昨日は食べた」
「今日は?」
「……ゼリー」
「それ飯じゃねぇだろ」
いるまが呆れたように言う。
「おかゆだったら食えるか?」
「うん…でもいるま作れんの?」
「お前よりかは料理できるわ」
いるまは不器用なりに頑張って作っていた。
「できたぞ」
器を持って部屋へ戻る。
「起きれるか?」
「……うん」
起き上がろうとした瞬間、ふらりと体が傾く。
「おっと」
いるまは慌てて肩を支えた。
「だから無理すんなって」
「ごめん……」
いつもの元気はどこへ行ったのか。
弱々しく謝る姿に、胸が締めつけられる。
「ほら」
スプーンを差し出す。
「自分で食べる」
そう言ったくせに、一口食べたところで手が止まった。
手が震えている。
「貸せ」
「大丈夫……」
「大丈夫じゃない」
半ば強引に器を受け取る。
「ほら、口開けろ」
「……子どもじゃないんだけど」
「病人だから例外」
なつは少し恥ずかしそうに頬を赤くしながら、小さく口を開けた。
「……おいしい」
「ちょっと焦げちゃったけどな」
「それでも」
少しだけ笑う。
その笑顔を見て、いるまもほっと息をついた。
食べ終わると、薬と水を渡す。
「飲め」
「ぅ…にがい……」
「文句言うな」
渋い顔をしながら薬を飲むなつに思わず笑ってしまう。
「笑うなぁ……」
「悪い悪い」
薬を飲み終えると、なつは再び布団へ潜り込んだ。
「……ありがと」
「今日は素直だな」
「病人だから例外」
「俺のセリフ取るな」
「……えへへ」
熱のせいなのか、いつもなら絶対に見せないような柔らかい笑顔を浮かべる。
「……」
「な、なに」
「いや」
いるまは少しだけ目を逸らして、小さく笑った。
「かわいいなって」
「は?」
一瞬でなつの顔が真っ赤になる。
「顔赤っ!w」
「ね、熱だから! 今のは熱だから!」
「はいはい」
いるまが笑う。
「ん~ちょっと眠い……」
「寝ろ」
「でも、いるま」
「ん?」
「帰らないの?」
その問いに、いるまはベッドの横の椅子へ腰を下ろす。
「熱下がるまでは帰らねぇ」
「それはさすがに悪い」
「悪いと思うなら、早く治せ」
ぶっきらぼうな言い方。
でも、その声はどこまでも優しかった。
なつは安心したように目を細める。
「…じゃあ…そばにいて?」
熱で弱気になったのか、その一言は無意識に零れたようだった。
いるまは少し驚いたあと、小さく笑う。
「ああ」
そう返して、布団から出ていたなつの手をそっと握る。
「ちゃんといるから」
そのぬくもりを確かめるように、なつは握り返した。
「……おやすみ」
「おやすみ。また元気になったら、配信しような」
その言葉を最後に、なつは静かに眠りへ落ちていった。
いるまは繋いだ手を離さないまま、小さく息をつく。
「……無理しすぎなんだよ、ほんと」
眠るなつには聞こえないように。
そんな独り言だけが、静かな部屋に溶けていった。
コメント
10件
以下タメ失です! ありがと〜‼️私もタメ大丈夫だからお気軽に〜 ちょっと返信の仕方がわからなくて再コメするね💦
リク書きありがとうございます‼️ こんな素敵な作品書いていただけて嬉しいです♪ 発想力すごすぎて、、何回でも読めますし、読みます! またリクあれば投げちゃいますね✊️
「赫くん体調不良」読み終わりました……これ、本当に尊いです。 熱で弱ったなつが「そばにいて?」って零すところ、心臓掴まれました。 いるま、ぶっきらぼうなのに全部察して飛んできて、薬飲ませて、手まで握って離さないの、反則ですよ。 「熱下がるまでは帰らねぇ」って言える距離感、いいなあ…。 無理するなつの「休もうかな」を引き出した流れも自然で、読んでてほっこりしました。 おかゆの焦げとか、『俺のセリフ取るな』の掛け合いとか、日常の小さなあたたかさが詰まってて、すごく好きです。 お大事に、って伝えたくなる一話でした。