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いちご@低浮上中。。。
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注意
※リスカ表現あり
◇◇◇
「おつおつ~おつなつ~ばいばい」
「おやすみ」
配信終了ボタンを押す。
さっきまであれだけ笑っていたはずなのに、部屋は驚くほど静かだった。
その静けさが孤独を表してて妙に寂しくなった。
「……はぁ」
深く息を吐く。
配信が疲れるようになったのはいつからだろう。
別に嫌になったわけじゃない。
それでも最近は、
笑うことも。
話すことも。
少しだけ疲れてしまう。
リスナーは嫌いではないし、配信も好きだ。
なのに、
配信が終わるたび、胸の奥にぽっかり穴が空いたような気持ちになる。
視界の端にあるカッターに目が止まる。
伸ばしかけた手を、ぎゅっと握りしめる。
「……ダメ」
そう呟いても、心の奥から湧き上がる苦しさは消えてくれない。
何かに縋りたい。
この息苦しさから、ほんの少しでも逃げたかった。
カッターを手に取る。
「っッッ!」
手首が紅く染まる。
金属が肌を掠める音が気持ちいい。
痛みを感じる程生きている実感がして止まれない。
何度も自分を痛みつける。
何度も。
何度も。
これにしか生を感じることができなかった。
「……もう寝よ」
そう呟いてベッドへ倒れ込む。
スマホが震えた。
『今日も配信お疲れ』
いるまからだった。
『ありがと』
短く返す。
いつもならそのまま雑談が始まる。
でも今日は違った。
返信を返したあと、スマホを伏せる。
誰とも話したくなかった。
◇◇◇
翌日。
「なつ、暑くねぇの?」
照りつける日差しの中、いるまは隣を歩くなつに声をかけた。
七月も終わりに近づき、蝉の鳴き声がうるさいくらい響いている。
そんな中、なつだけは黒いパーカーを羽織ったままだった。
「ん? あー……俺、冷房苦手だから」
そう言って笑う。
いつもの笑顔。
けれど、どこか無理をしているようにも見えた。
「いや、外だけど」
「気にしない気にしない」
なつは軽く手を振る。
その拍子に袖が少しだけずれそうになり、慌てたように引っ張って隠した。
「……?」
いるまは小さく首を傾げる。
違和感はあった。
でも、それ以上聞くことはしなかった。
歩いている途中、
いるまのポケットからスマホが滑り落ちる。
「あ」
なつはすぐにしゃがみ込む。
左手はポケットに入れたまま、右手だけで拾っていた。
「ほい」
「ありがと」
小さな違和感が、胸の中で少しずつ積み重なっていく。
(……何か隠してる。)
そんな予感だけが、消えなかった。
「……なつ」
「ん?」
「左手、どうかした?」
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ、なつの表情が固まる。
「え?」
「いや、さっきから全然使ってないから」
「……あ~」
少し間を空けて、なつは笑った。
「昨日、ゲームしすぎて腕痛めた。」
「筋肉痛?」
「そうそう」
「ゲームで?」
「……まぁ、そんな感じ」
笑ってはいる。
でも、目は笑っていなかった。
いるまはそれ以上追及しなかった。
理由は分からない。
ただ、胸の奥に小さな引っかかりだけが残った。
◇◇◇
それから数日。
「なつ」
「ん?」
「最近さ」
いるまはじっとなつを見る。
「ちゃんと寝てる?」
「寝てるよ」
嘘だった。
眠れない夜が続いていた。
「飯は?」
「食べてる」
これも嘘。
食べられる日と食べられない日がある。
「ふーん」
いるまはそれ以上聞かなかった。
だから安心した。
そう思ったのに。
帰ろうと立ち上がった瞬間だった。
「なつ」
手首を掴まれる。
「……なに」
「嘘つくの下手になったな」
その一言で、心臓が止まりそうになった。
「何のこと」
笑ってごまかそうとする。
でも、笑えない。
「……なつ」
袖口から覗いた手首に目を落としたいるまの表情が変わる。
何かに気づいたように、息を呑む。
「ッやっぱり……お前」
その声は震えていた。
責めるようなものではなく、ただ、ひどく苦しそうだった。
「ごめなさ__」
「謝んな」
いるまは首を横に振った。
「最近ずっと無理して笑ってる」
「ッそんなこと…」
「ある」
言葉を遮られる。
「配信では元気なのに、終わった途端に返信なくなるし、」
「……」
「会ってもぼーっとしてることが増えた」
「……」
「好きだったものも、『別にいい』って言うようになった」
一つ一つ。
見られていないと思っていた変化を、全部見抜かれていた。
「……なんで」
気付いたら声が震えていた。
「なんで分かるの」
いるまは苦笑する。
「何年お前見てきたと思ってんだ」
その一言は、責める声じゃなかった。
心配でたまらない人の声だった。
その言葉だけで、張っていた糸が切れた。
泣きそうになるのを堪える。
いるまはゆっくりと言う。
「つらいなら、つらいって言え」
「……言えない」
「じゃあ言わなくてもいい」
その返事は予想外だった。
「え……?」
「無理に話さなくていい」
いるまはなつの隣に座る。
「でも、一人で抱え込むな」
「……」
「話せるようになったら聞く」
「話せなくても、そばにはいる」
「あと自分を傷つけることだけはやめろ」
「俺の前で、お前が一人で苦しむな」
その言葉を聞いた瞬間、目の奥が熱くなった。
「……ッ」
涙が一粒、膝に落ちる。
「俺さ」
なつは震える声で呟く。
「最近、何をしてても楽しいって思えなくて」
「うん」
「みんなの前では笑えるのに、一人になると急に苦しくなる」
いるまは何も急かさなかった。
ただ静かに隣で話を聞いていた。
「こんなこと言ったら迷惑かなって思って…」
「迷惑じゃねぇよ」
即答だった。
「俺は、お前が笑えない日まで否定したくない」
その一言に、なつは堪えていた涙をこぼした。
泣き止ませようとするでもなく、理由を問い詰めるでもなく、
ただ隣にいてくれる。
その優しさが、今は何より救いだった。
張りつめていた心が、少しだけほどけていく。
「一人じゃない」
そう思えたのは、きっと久しぶりだった。
隣にいるだけで、救われる夜もある。
そのことを、ようやく信じられる気がした。
コメント
5件

とてもいい話でした😭 ありがとうございます。
ほんまにありがとう こーゆーの大好きすぎて最高だね👊 なんっかいも言うけど書き方と表現仕方も大好きなんですよ 尊敬過ぎた!
うわ……第12話、めっちゃ重かった。でもすごく良かった。 なつが笑顔の裏で一人になってからカッターに手を伸ばすシーン、心臓ぎゅってなった。パーカーで隠し続けた手首とか、いるまに「嘘下手になったな」って言われた瞬間の空気の変わり方、めっちゃリアルだったわ。いるまの「無理に話さなくていい」「そばにはいる」のセリフ、刺さった……。 一人で抱え込んでる人に寄り添うって、こういうことなんだろうな。読後感、重いけど温かい。続きも気になる🔥