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◇◇◇◇
ヴァルディウス王国の魔術師団が放つ魔法など、もはや戦場の空気の揺らぎに過ぎなかった。
炎が裂け、雷が走り、氷が槍のように降り注ぐ。
だが、そのすべてを意にも介さず、二人の英雄は前へ出る。
レオニスと、バルタザール。
ひとりは王。ひとりは教皇。
その歩みは揺るがない。
レオニスの剣が閃く。
片腕を失ったとは思えぬほど流麗で、研ぎ澄まされた剣筋だった。魔剣は空気を裂き、軌跡に白い残光を引く。迫る魔法は刃に触れた瞬間、まるで紙のように断ち切られていく。
一方で、バルタザールはまるで嵐だった。
巨体が踏み込み、拳が振るわれる。
拳。
ただそれだけ。
だがその一撃一撃が、まるで大槌で大地を叩きつけるような威力を持っていた。
轟音。
空気が震え、衝撃が戦場を揺らす。
グリオラは二人の攻勢に押され、一歩後退する。するとヴァルディウス側の兵もゆっくりと確実に後退した。
レオニスの剣。
バルタザールの拳。
二つの猛威が、交互に、容赦なく叩き込まれる。
グリオラは防戦一方だった。
だが勝ちが確定した戦争で負ける訳にはいかない。戦斧を振るうたび、火花が散り、衝撃が空を震わせる。
グリオラに余裕は無くなっていた。
巨斧を振り上げる。
「ッラァァ!!」
狙いはバルタザール。
呪いを宿す戦斧が、天から落ちる雷のように振り下ろされた。
その瞬間だった。
バルタザールの体が、煌々と光を放つ。
まばゆい白金の輝き。
聖堂の奥深くに灯る神秘のような光だった。
斧がその光に触れる。
衝突。
だが次の瞬間、斧は弾き返された。
キィィィィンッッッ!!!
金属が悲鳴を上げる。
巨大な戦斧が、あり得ない角度で跳ね上がった。
グリオラの目が見開かれる。
呪いの斧だ。
触れた肉体を侵し、骨を砕き、命を押し潰す。
それが。
まるで意味を持たないかのように、バルタザールはかすり傷も付いていない。
「……なんだ!」
グリオラは再び斧を振るう。
叩きつける。
振り抜く。
だが結果は同じだった。
光が弾き返す。
何度やっても変わらない。
「なんだその力は!!」
驚愕と苛立ちが声に滲む。
その時だった。
レオニスが、二人の間へ滑り込む。
空から降る魔法がバルタザールへ集中する。
火球。
雷槍。
氷柱。
だがレオニスの剣が舞う。
一閃。
二閃。
三閃。
522
#希望
#感動的
魔法が次々と断ち落とされ、空中で砕け散る。
刹那の時、雨を斬り払うようだった。
「お前に教えると思っているのか?」
レオニスが添える。
グリオラは眉間に皺を寄せた。
「お前は知っているのか!」
その問いに答える者は、別にいた。
バルタザールだった。
レオニスと入れ替わるように前へ出る。
巨体が一歩踏み出す。
拳を振りかぶる。
空気が軋んだ。
そして、ゆっくりと言い放つ。
「盗人の国の王とは……こんなものか」
「なッ!?」
その瞬間。
拳が振り抜かれた。
轟音。
衝撃。
まるで大砲が至近距離で炸裂したかのような一撃だった。
拳はグリオラの顔面を捉える。
骨が軋む音が響く。
グリオラの巨体が宙を舞った。
吹き飛ばされる。
兵の隊列を突き破る。
ヴァルディウス、エルピアータの兵たちが巻き込まれ、弾き飛ばされていく。
土煙が上がる。
その勢いは止まらない。
グリオラの身体はさらに後方へ叩き飛ばされ。
ついには、ヴァルディウス王が座している高台へ激突した。
簡素に組まれていた高台は、轟音とともに崩れ落ちた。
静寂。
戦場の空気が、一瞬止まる。
そして。
バルタザールが静かに言った。
「戦争は我らの勝ちだ」
その言葉に、レオニスが肩を揺らして笑う。
「良いところを持っていくな」
「我がこの戦争にトドメを刺したのは事実だ」
「まあいい」
バルタザールを見て、苦笑する。
「俺は腕も取られた。お前にも良いところを取られた。というのに今、実に気分がいい」
レオニスは短く息を吐く。
「血を出しすぎたな」
「ああ、まったくだ」
二人の言葉は軽い。
だが、その背後には、幾千の刃と魔法が交差した戦場の重みがあった。
止まっていた戦場の空気が、ゆっくりと動き始める。
兵たちはまだ動けない。
誰もが、今起きた出来事を理解しきれていなかった。
グリオラは崩れた高台の瓦礫の中。
勝敗は、すでに誰の目にも明らかだった。
レオニスは剣を肩に担ぐ。
バルタザールは拳を軽く鳴らした。
二人は並ぶ。
そして。
止まってしまった戦場に、勝敗を確定させる為の一歩を踏み出した。