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第一印象は、吞気そう、善人そう、何処かで見かけた事があるやつ。




あ……あの時の奴か、と初見でポッドを見たハルトの感想はこうだった(実際には、宮殿で後ろ姿は見ている)。

月並みな印象の少年。




でも……その瞳は――。










「ハルトっていうのか、よろしく!(まずい、会話がみつからない)そ、そういえば!そろそろ王位継承選挙が始まるよね」


「!……ああ、そういえばそうだったね。……確か、候補は4人」


「(食いついた!)そうらしいね!珍しいよね選挙するなんて!どんな人が来るのかな」


「……さぁね。……君はどんな人が国王になって欲しいと思う?」


「うーん、僕、そういうの分からないし。正直まともな人なら誰でもいいかな。君は? 」

「……そうだね、僕は――別に誰でもいいかな。正直興味はない。そもそも投票する気ないし――……彼らに投票する意味もない」


後半を小声でハルトは言った。そう呟いていた彼の瞳は、どこか闇があった。その声をポッドは偶々聞き取ってしまった。


「!」


少年のその返答もそうだが、彼が真顔で淡々と話すその横顔を見て、ポッドはなぜか怖くなった。そのため後半を聞こえないふりをした。


「へ、へえ……王宮の人達はみなすごい人たちばかりだと聞くよ。そんな彼らだから、もっとこの国を良い方に導いてくれると思うし、誰が王になってもいいかなって思ってるんだ。」


「……君は純粋なんだな」


彼は何処か呆れた様子でポッドを見た。


「?」


ポッドはその意味がよくわからなかった。この話はやめて別の話題を切りだそう、とポッドは思った。しかし、不意に彼はポッドに問いかけた。


「……君の夢、もしかして探検家になることだった?」


「え?う、うん……小さい時の夢だったけどね!今は、……諦めちゃってるよ」


――なんで急にそんなことを言うのだろうとポッド不思議に思った。






「そうか。まぁ……それは無理な夢だよな、君じゃあ。」




「うん……え?」





一瞬何を言われたのか分からなかった。ポッドは顔を、ハルトにバッっと向けて凝視した。

本を読みながら、今も優雅に読書をしているハルトの口から、そんな毒が吐かれるなんて思いもしなかったのだ見てしまうのも仕方ない。 確かにポッド自身、探検家(特殊外交特攻部隊)になるのは叶わぬ夢と分かってる。だが流石に、出会って数分の奴にそんな否定的な事言われたくないと、少しムッとした。

急に 喧嘩?マウントとってきたのか?とポッドは思った。



「あはは……そんな直球に言わなくても……」



「いや、君には無理だ。諦めて正解。夢を追って満足して終わるだけの人間だよ、の君は」


淡々と少年は言い放った。



「……なんでそんな事、君に決められなきゃいけないんだ」



雲行きが怪しくなってきた。流石にポッドもムキになって言い返してしまった。確かに自分は、叶えられないかもしれないが、なぜ赤の他人に決めつけられなきゃならないんだ!と。



「なぜなら君は、……選択できる道があるのに選択していない」


「!」


その言葉にポッドはドキリとした。



「なぜしないのか……それは、自分で自分の未来を生きていくという覚悟がないからだ。だからすぐ諦めて、嘆いているだけで何もしない。そうやってずっと惨めな自分に酔って、最後には環境がわるい、人が悪るいだなんだといって責任を他人に押し付ける」




「っ、そんな事……な、」



――ない、と僕は胸を張って言えるだろうか。



「それは君自身が、人生を諦めていて、どうでもいいと少なからず思っているから。だから……何もかも多数決に流されて終わる」




「っ!」



「『自分がこんなに辛いのは、環境のせい、あいつのせい、誰かのせい』……そう言って被害者ぶり、当たり散らすだけだろう。その原因を、さらに助長させているのは己だという自覚もない。あろう事か不幸な自分に酔って、いつか現状が変わると信じて、叶えもしてくれない神様にただ祈るだけ。健気にも『自分は不幸じゃない』と言い聞かせて偽善者ぶる姿は滑稽だよ。――と、まぁそういう君のオチが僕には予想できてしまうのだが……」


「っ、」


「今の現状を変えようとしない奴に、行動しようともがかない奴に、茨の道を進む覚悟がない奴に……諦めてるだけの人間が、夢だなんだを見る余裕なんてないんじゃないのかい?」


それは至極当然の意見だった。ハルトは淡々と言っているだけで、別にお説教をしているわけではなかった。彼自身は単なる意見を言っていただけだった。

けれど、それを聞いていたポッドの心の中はぐるぐると渦をまき、怒りや、どこかで彼の発言に納得している自分と悔しさであふれていた。



「……なんだよ」



――ドクン、ドクン――心音がやけに聞こえてくる。




家が貧乏なのはなぜ?


_もともとだった。そこまでしか稼ぎがない親の責任だと思った。

_ここまで養っていくために自分も含まれているとも知らず。



欲しいもの、知りたいものがあった_金はなかったから得られる情報やモノは少ない。だから今でも充分だし、贅沢とさえ思いながら自分に言い聞かせていた。全部父親が作った借金のせいだと納得させて。


_周りを見れば、金なんとなくとも利用できるものがあることに僕は気づいていなかった、情報なんて自分から取りにいかなきゃ、誰かから教えてくれる事の方が少ないのに。



クズの父親_なぜこいつの為に母と弟と自分は働きながら頑張って生きているのだろう。


_そいつを見捨てて生きてく覚悟が、母と僕らには未だにないのだ。


自分を頼りにしている母親_母は働きながらも、なぜあんなクズと一緒にいるんだろう。僕が稼いだ金も全て借金に返済しているのに。あいつにあげる金や飯のゆとりなんてないのに。リクへの治療費や借金の返済に集中したいのに!


_母は別に完璧でもなんでもない、同じ不完全な弱い人間だと分かっていたのに……彼女は結局、頼れる人が傍にいてほしいだけなのだ。





――花瓶を割った犯人にされた僕、多額の借金を背負う僕、いじめっ子達にいじめられる僕。――僕、僕、僕……全部。






あぁ、――あれ?僕は――いったい、なんの為に生まれてきたんだ?



こんな人生になっているのは、他人のせい?環境のせい?自分のせい?



不幸なのは生まれた時から分かりきっていただろう?


いつまで、希望に縋って受動的になっている?なぜ動かない?動けない?






――それは一体、どれのせい










ぐるぐると、ぐちゃぐちゃと、ポッドの全身に、重い鎖が絡まっているように感じた 。

まとわりつく空気も、



周囲のざわめきを聞き取る聴覚も、



他人の表情を伺えるこの目も、




想いを伝えるべき他人の存在も






全ての存在が邪魔に感じてしまう、

この感覚に覚えがある。





――そして、また自分以外の誰かのせいにしようとしている。



――ああ、ダメだ。これ以上考えちゃダメだ、考えたくない。じゃない と…………。

「っなんだよ、急に、知ったような口でさ!……君に僕の何がわかるんだよ!……僕はっ、」



――心のどこかで、自分の嫌な部分が出てきてしまう!この感覚が!


夢があった過去、諦めたのはなぜ_諦めたのは……




諦めてしまったのは‥誰だ







ハルトは本をパタンと閉じて、顔を下に向け拳を振るわせているポッドを盗み見た。





「……この国は、大飢饉や疫病、貧困なんかで亡くなっている人は表では見ない。だから自分が不幸の沼へ緩やかに沈んでいる、という自覚がないんだ。その事実を受け入れる強さも、その後の進み方も、乗り越え方も知らない。そういう奴は、やがて朽ちる。……が」




ポッドの心は、声は、爆発しそうになっていた。




「世界は残酷で理不尽だ、後悔の連続しかない。いくら保守しようとしたって、動かないでいたって……動いた後でも、どのみち後悔する時はする。けれど人間とは不思議なもので、自分の心には嘘をつけないから嫌な事を無理やりやり続けることはできないし、諦めきれない。

……だから結局、その先に待つ苦しみを、その道を乗り越えようとする責任と、覚悟を持って足掻くしかないと僕は考えている。

‥今の君には幸運も、不幸も受け入れる覚悟がない。受動的に生きている人間だから、どのみち無理だと思っただけさ」



そうハルトは、はきっりとポッドへ言い放った。



ポッドはワナワナと体を震わせている。


――なんだよ、それ、なんだよ!それ!!

「でも、……それでも君の――」


「僕は!」


ハルトの言葉を遮ったポッドの口はいつの間にか開いていた。


「?」



「ぼくはっ!…………


…………君が嫌いだ!




大声で叫んでしまった。


「?!」


そのポッドの怒声に、あたりにいた人々が一斉に二人へ向いた。


バッ――!


「はっ!」


図書館という静かな空間にポッドの声は響き渡った。

本棚の死角に当たる位置のそこへ、周りの人間が一斉に、なんだなんだ?とハルトとポッドに様子を見にやってくる。


「!(まずいっ、ここ図書館だった!)」




「……そうか。でも僕は――」



ダッ!



ポッドはハルトの言葉を聞かずに、その場から走って図書館を抜け出してしまった。





ポッドはずっと走っていた。周りの目を気にせず、ただひたすらに。




「(なんだよ、なんだよあいつ!友達になれると思ったのに!)」



――『自分がこんなに辛いのは、環境のせい、あいつのせい。誰かのせい』……そう言って被害者ぶり、当たり散らすだけだろう。




「(分かってるよ)」



その原因を、さらに助長させているのは己だという自覚もない。あろう事か、不幸な自分に酔って、いつか変わると信じて、叶えもしてくれない神様にただ祈るだけ。




「(分かってるさ!神様は何も叶えてくれないなんて、最初から知っていたさ!)」



弟の目を治してはくれない、父親を消してはくれない、母親を助けてはくれない、いじめっ子達からこの僕をかばってくれない、こんな状況の自分を救ってはくれない――何も叶えてくれないとずっと前から知っていた。


――健気にも『自分は不幸じゃない』と言い聞かせて、偽善者ぶる姿は――滑稽だよ。




「……分かってた、はずなんだけどなぁ」

視界が涙で滲んでくる。



それ不幸じゃないは、心を保つための言葉だと言い聞かせていた。




――今の君には、幸運も、不幸も受け入れる覚悟がない。受動的に生きている人間だから、どのみち無理だと思った。




「……そう……だ……よな」





言葉は後半、掠れてしまった。図星だと分かっていたからだ。

彼は僕にしかるように説教をしたわけではなかった。

……彼はまだ言いかけていた。僕は自身を否定されたと思い、カッとなって言いたいことを感情のままに彼へ言い放ってしまった。



「……最低だ、僕」



足を止めた。



「……謝ろう」



ポッドは顔を上げて、図書館への道のりを戻り始めた。





けれど、図書館へ戻っても先ほどの少年は見当たらなかった。





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