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開幕 上
(?)
ドカン!ズドーン!
シュウ~、シュウ~。
衝撃波で気づいた時には、辺りはアラームの警告音が鳴り響いていた。
真っ暗で何も見えない。
掌の感触を頼りに、地面、壁と手をついて這いながら進む。それから数分後、ソレの身に分かったことは、体中が酷く熱く、鋭い痛みが走っていたことだった。主に半身が負傷して使えなくなっていた。
「グハッ……グルるうゔぅ!ぴちゃ、ひゅーひゅー」
喉の奥から血と共に空気が抜ける。
数時間後、無理矢理扉を開け、地べたを這いながら何とか外に出られたソレは、自分が乗ってきたものを見た。皮肉なことに、円盤はソレと比較して、少しの損傷だけで済んでいるようだ。
血生臭い正体は、体の筋肉繊維が千切れ裂けている部分があるからだ。焼け爛れた皮膚は所々めくれていたが、その後シュルシュルと繊維同士が結びついてきた。
どうやらそれには自己回復の再生能力があるらしい。だが修復が遅い。
喉の奥が焼けて息がしづらいようで、呼吸は歪な音を発している。
ソレは、水を求めてひたすらに這ったが目下に森が広がる崖の近くまで行くと、それ以上進めないと分かって、やがて力尽きその場で疼くまった。その傷が癒えるまで。
痛みが軽減すると共に、思考する余裕ができた
――己は何者なのか、なぜここにいるのかと、わからない、と。
堂々巡りを繰り返して、何日か経ったころだった。
ひと際明かるいモノが、崖の向こうから怪物を照らし出した― 太陽だった。
薄暗い森の中を光が差してゆく。
瞬く間に鱗が日の光に照らされ反射した。傷は少しずつではあるが塞がってきていた。けれどもまだ深い。
むくりと、それはゆっくりと起き上がった。
「ぐるるる、グガッ、ガルルゥ、スゥ――」
どうやら喉の傷の修復は済んでいる様だ。そして肺の中いっぱいに空気を吸い込んだ。
「ガオオォオオーーー!!!」
劈く音が空気を裂いて、あたりの森へと響き渡った。
怪物は太陽に向かって叫んだ。
その咆哮は――悼み、痛み、傷み、あるいは喜びか――分からない。
ふとソレは、空気に漂う僅かな匂いを嗅ぎ取った。
――食欲をそそる旨そうな匂いだった。
次第に周囲が明るくなって、ソレはゆっくりと森の中歩き出し、消えていった。
――――――――――――――――――――
(パルベニオン帝国の闘技場にて。)
パッパラパー、パッパパ、パッパラパー
ドンドン、パフパフ
辺りは豪快な音楽と、人々の声で賑わっていた。
群青色に澄み渡った空は、どこまでも広がっている_。
(パルベニオン帝国西区)
闘技場は本来、一般市民は立ち入ることができない。通常、闘技場を含め王立図書館と王立研究所が王族の管轄である為、入るには申請が必要となるのだ。
けれども歴史ある「王位継承の開幕」になると話は別である。 普段は入れない所に入る事ができる闘技場で、姿を見せない王族と一般市民が初めてその場で対面となる。その為か、みな次期国王候補の姿を一目見たいのだろう、場は賑わっていた。
代々王位を継承する者は、王の血引いていることが条件。王の血筋に近い者から、王位を引き継ぐ事がほとんどであるが、今回は王族内で選挙してから王を決めよと言うのだ。
これの何が異例なのかと言うと、王位継承を選挙で決める事は、これまでの過去の歴史であるにはあった。だがその場合、大抵、先王に兄弟がいなかったり、後継があまりにも幼過ぎる赤子などの場合で執り行われた事はあった。
けれども今回は、先王に弟ペラルギア(60代)がいるにもかかわらず、それでも選挙で決めよと言うのだ。
つまり、後継がいながらその者に席を譲らず、皆で決めよ、と言う先王の最終命令つきなのである。
「王位継承の儀」は、先王が次の王に席を譲る儀式だ。先王が「次の王はお前だ弟よ」と言えば済む話だったのだが、
違ったと言う事だ。
(闘技場の物陰から中央の櫓を眺める人物たち)
「とうとうこの日が来たのね」
中央に位置する王位継承候補席である櫓のような建物を、男は遠くのドーム出入り口の日陰から、顔を見上げて笑っていた。 服装は上等な羽織りで、両腕を組みながら右の小指だけ立てているその人物は、どうやらこの男の癖であるらしい。
「はい。ですが、ジャンマハオ様はあまり驚いてないようで。……むしろ楽しそうですね」
ジャンマハオと呼ばれた男のすぐ側に居たもう1人の男が相槌を打った。
「そりゃぁね❤︎あらやだ、私ってばそんなに分かりやすいかしら〜んもうッ!あんまり見ないでッ♪」
バシン!とそばに居たその男の肩を叩いた。
「いっっ、……すみません」
少し体勢を立て直して、彼はさっとジャンマハオを盗み見た。
視線の先にいるこの男(と読んでいいのか)は、どこ楽しげに笑っている。容姿は厳ついおかまに見え、ふざけているような格好だが、割とこの国の中では偉い人物だったりする。
「ンフフ、まぁ継承選挙自体にそれほど興味がないのは事実。私はただ、王の御心が知りたいだけよ❤︎暴いてみたいじゃない?好きな人のコ・ト!テヘッ♥」
その男の笑みが、企んでいる者のソレだった為、控の男は態度には出さずとも内心では慄いていた。
少しオカマの気があるこの男は、自身の両の手をハートマークにして胸の位置で型取ると、やたら長いまつ毛を伏せてウィンクをし、側にいる男へと笑った。
男は、背にゾッとした何かが通った。
「!(この人の怖い所は巫山戯ているようでいて、気づけば相手を掌で踊らせているところだ。怖やこわや)は、はぁ?……」
「あらやだ、なーに〜?その事の重大さに気づいて無さそうな返事!ンもう!……いよいよ歴史が動き出すかもって事なのよ。この帝国1500年の歴史がね❤︎」
そう言って、ジャンマハオは目を閉じた。
以下ジャンマハオの回想
(数ヶ月前の宮殿――王座の間にて)
静寂の中で、一人の老人が口を開いた。歳は70くらいといったところか。彼は肘を椅子につけて深く考え込んでいた。
その老人が微かに口を開いたその瞬間、辺りのざわめきが一瞬にして消えた。皆その男の発する言葉を聞きたいのである。
老人の人差し指に嵌められている銀の指輪が、鋭く光り輝いていた――。
「――次の王は、選挙で決める。これを勝ちとった者を、次のパルベニオン帝国の王とする……これは私の――――――最終命令とする。……異論は認めん」
「「?!」」
ザワザワ――何を馬鹿な、正気ですかっ?!と言った言葉がその場に溢れ返った。
「わざわざ選挙を今する意味があるのですか?!王よ、貴方には弟のペラルギア様がいるはずです!」
「そうです!何も選挙じゃなくても!引き継がせればいいじゃないですか!」
――ガヤガヤ、ザワザワ、そうだそうだ!
当然周りは言いたい放題だった。
それもそのはず。これが先王の命令であり、それも最終命令だというのだから。
「――各々、放言高論は済んだか?であれば、各自速やかに王位継承選挙の準備を進めよ」
(外交官長・ジャンマハオ)「ンフッ♪(あらあら面白い事してくれるじゃない王よ❤︎さすが私が見込んだ男)」
この国の外交官長を務めるジャンマハオは、口角を吊り上げた。さっと、彼は辺りに座る者達全員の顔を鋭く見渡した。
「(先王の側近達は驚いてない……という事は、事前に王族身内で既に伝えて了承を取っている可能性ありって事かしら?……司法と行政関連の者達の驚き様は半々…って事は、一部に情報が漏れている?
私達同様に今伝えらた者たち、情報を既に知っていた者に分けられる。……それと、同盟国とは言え、アティラマ帝国の遣い‥)」
パルベニオン帝国の同盟国であるアティラマ帝国。アティラマ帝国もパルベニオン帝国と同じ法治国家である。
ジャンマハオは、アティラマ帝国から情報交換としてパルベニオン帝国に来ている自分と同じ外交局長の老女を見た。
その補佐は驚いているが、外交局長本人は驚いていない所を見ると、アティラマ帝国の王族へは事前に、王は継承選挙の事は伝えている可能性があるとジャンマハオは推測した。
「(……そうなると、伝えられていなかったのはこのパルベニオン帝国の行政と司法の関わりがある人物半々のみ。
いずれにせよ王の発言で、動揺し即座に反応した者、様子を見ている者、動揺を隠せなかった者がいた。これらの中に王族反対派が紛れ込んでいる事は、明らかってわかっちゃたわねぇ……)」
この一瞬でジャンマハオはそう考察した。その考察は当たっている。
「(!……もしや、この動揺を見る為に?なるほど。アティラマのばばあが驚いてない時点で、この選挙は唐突に行われた訳ではなく、事前に計画されていたもの。……んふふふ❤︎王よ、謀ったわね?)」
第一項:王の下す最終命令は、いかなる者でも従わなければならない。
帝国法における王の下す最終命令は、絶対だ。
この法自体、縛りが強い。故に第一項で規定されている「最終命令」は独裁者を出さぬ為に、王であっても一度きりしか使えないのだ。
だからこそ、価値がある。王自らの決定に、誰も逆らう事ができないのだ。
これこそ異例の実態だ。
その事実を新聞や便りで知った市民も、驚きを隠せなかった。
最終命令まで出して先王はどうしたいのか?
陰謀論やその他の憶測が飛び交っていたが、誰も先王の心を知る人はいない。
回想終了。
(再び闘技場)
「(あの人は馬鹿じゃない……人間焦ってる時って本性出やすいわよね〜。
権力にしがみついていた者、それに乗っかる者、虎視眈々と獲物を狙っている者、流れに身を任す者、――事前に予測し動き出していた者。
……当然、選挙なんて後継がいながらするなんて反発する勢力も居ると知っているはずなのにねぇ……この選挙何かあるわ)
下手すれば、帝国の維新にヒビが入るかもよ……んふふふ。さぁ鬼が出るか邪が出るか見ものよぉ?ま、といあえずあっちでお茶しながら話しましょ♪」
「……はい」
補佐の男は、常々絶対にこの人を敵に回したくないと思ったのであった。