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「グレゴールがいるっつーことは、ここが最下層か? 倒してお宝があれば尚良しって感じだが、この分だと期待はできねえな」


「魔族を倒したってだけで相当でしょ。それがあのグレゴールなら表彰ものじゃない?」


 罠の可能性も考慮しつつ慎重に足を踏み入れる。

 部屋の中には、巨大な柱がいくつも立ち並び、天井の奥は闇に沈んで見えなかった。

 足元には、どこまでも続く赤い絨毯。まるで王宮の謁見の間だが、そこには決定的な違いがあった。


 全体的に薄暗く、床のあちこちに場違いな頭蓋骨が無造作に転がっている。

 そしてその奥に見える玉座には、何者かが鎮座していた。

 足を組み、肘掛けに頬杖をついたその姿は、どこか退屈そうですらある。

 深く被ったフードのせいで顔は見えない。だが、そこから突き出た二本の角が、彼が人間ではないことを明確に示していた。

 纏うのは、飾り気のないみすぼらしいローブ。だがその簡素さこそが、異様な威圧感と禍々しさを際立たせていたのだ。


「シャーリーどうだ?」


「前と変わらない。反応は弱い……けど……」


 シャーリーの索敵では変わらず弱いままだった。このパーティなら余裕で勝ててしまうレベルの反応しか発していない。

 魔族は人間よりも強い。それは埋めることの出来ない種族の差というものだ。なのだが、目の前にいるそれは明らかに弱すぎる。


 そんな冒険者たちを前に、玉座に座ったグレゴールからは、深い溜息が漏れた。


「またお前等か……何の用だ? 我に用事はないぞ?」


 シャーリーを信じるべきなのだが、それを疑ってしまうほどの威圧感がそこには存在している。


「終わりだグレゴール。大人しく魔界に帰るんだな」


 バイスが剣を抜くと、各自武器を構え戦闘態勢へと移行する。

 相手は魔族。たとえ弱かろうと、油断はしない。


「そう言われて素直に帰るわけが……」


「”ロングレンジショット”!」


 グレゴールの話が終わる前に、シャーリーが攻撃の先陣を切った。

 風を切り飛翔する一本の矢。しかし、それはグレゴールに届く前に見えない壁によって弾かれ、力なく地面へと落下した。


「チッ……話を聞く気もなしか……。まあいい。次に我を攻撃したらお前たちには死をくれてやる。これは警告だ」


 グレゴールの声に呼応したのは六つの頭蓋骨。

 その周りに出現した魔法陣がそれをゆっくり飲み込むと、そこから這い出て来たのは六体のシャドウである。

 それは、闇が濃くなる場所にのみ現れるとされる、実体を持った影の戦士。人の姿をしているようにも見えるが、その輪郭は常に揺らぎ、黒煙のように僅かに形を変えている。


「コイツ等を倒せばお前たちの言う通り、魔界に帰ってやろう。数はお前等と同じにしてやった。精々我を楽しませて見せよ」


 強い怨念や未練を残して死んだ戦士たちの影。それがシャドウの根源だ。

 光を嫌い、闇を糧として動く。強い光を浴びれば輪郭が薄れ、やがて消滅するが、闇が深いほどその力は増す。

 その実力は今までのスケルトンの比ではない。そもそも、こんな低階層のダンジョンで出現する魔物ではないのだ。


「ネスト! あれは何の魔法だ!?」


「わからない。聞いたことがない……しかしあれは……」


 六体のシャドウから湧き出る黒いオーラは、漏れ出る殺意の表れ。紅く光る瞳は血に飢えた獣のよう。


「バイス! あれはヤバい!」


 シャーリーの索敵スキルは警報を鳴らしていた。一人であれば確実に逃げていたであろう敵が、六体も出現したのだ。


 皆言われずともわかっていた。個々の強さも尋常ではないが、相手が手にしている得物も相当な物。

 見たことのない物ばかりだが、そのどれもが異彩を放っていた。


「魔剣イフリート……。なんでこんなところに……」


 そのうちの一振り。フィリップだけがそれに気付いた。炎の魔剣。伝説級の武器だ。

 その灼熱は岩をも溶かし、売れば豪邸が建つと言われているほどだが、それは現在所在不明とされている。


「コイツ等は愚かにも我に挑んだ人間たちだ。ここで死ねばお前等もこうなる」


「やろうバイス」


「しかし……」


「大丈夫、俺たちならやれる」


 根拠はないが、シャドウたちを倒せば伝説とも言われている魔剣が手に入るのだ。

 多少の無理は承知の上。フィリップが奮い立たつには十分な理由。

 個々の力は負けていても、力を合わせれば勝てる場面というのはいくらでもある。

 尻尾を巻いて逃げるにはまだ早すぎる。やってみなければわからないと言うのもまた事実。


「よし、やるぞ!」


 バイスの声と同時に臨戦態勢。各々が役割を全うする。


「【|範囲《フィールド》|防御術《プロテクション》|(魔法)《マジック》】」

「【|範囲《フィールド》|防御術《プロテクション》|(物理)《フィジックス》】」

「”鉄壁”! ”グラウンドベイト”!」

「”疾風”!」

「”剛腕”!」


 シャーリーのスキル、疾風はパーティメンバーの行動速度を上げる。弓や短剣に適性のあるものが習得できるもの。

 剛腕はフィリップのスキル。物理攻撃系適性を持つ者が習得でき、筋力を瞬発的に増加させる。


「”マルチレンジショット”!」


 シャーリーの放った一撃が、戦闘の幕開けを告げた。

 弦の音と共に放たれた三本の矢が、前衛を構える三体の武器持ちへと一直線に飛ぶ。

 だが、それらはすべて軽やかに躱される。――それでいい。狙いは命中ではなく、動揺と牽制。最初から当てるつもりなどなかった。


 矢をかわした三体が、獣のような勢いでバイスへと殺到する。

 迫る気配に空気が張りつめ、足音が岩壁に反響する。

 流石のバイスといえど、あのクラスの敵を三体同時に相手取るのは無謀――。


「【|魔法の矢《マジックアロー》】!」


 ネストの周囲に十の魔力の球体が出現すると、それは矢となり大斧を持つシャドウへと向かい飛翔する。

 だが、それは全てが外れ、明後日の方向へと飛んでいく。


「反転ッ!」


 空中に散った無数の魔法の矢が、ネストの指示で一斉に軌道を変える。

 それは鋭い音を立てて弧を描き、すべてがシャドウの背へと突き刺さる。

 爆ぜるような衝撃に、膝をつくシャドウ。しかし、その体には致命傷どころか、かすり傷程度の損傷しか見られない。

 この程度倒せるなどとは思っていないが、大した足止めにもならず、ネストからは舌打ちが漏れる。


 そんな中、後方で静観していた三体のシャドウがゆっくりと動き出し、一体が持っていた杖を前方へと向けた。

 

「【|氷槍撃《アイシクルランス》】」


 空気が凍りつく音とともに、目の前に鋭利な氷槍が形を成す。

 その矛先は、最後方にいたニーナ。

 シャドウとて適当に狙った訳ではない。状況を見極め、もっとも脆い箇所から崩す――それが戦いの定石であり、勝利への最短の道だ。


「――ッ!?」


 ニーナはそれに反応できなかった。ただ少し横に避けるだけで良かったのだが、恐怖のあまり目を瞑ってしまったのだ。


「”イージスショット”!」


 それに気付いたシャーリーは、一本の矢を打ち放ち、迫りくる氷槍を空中で打ち砕く。

 その破片はパラパラと地面に降り注ぎ、ニーナはギリギリのところで直撃を免れた。


 バイスに襲い掛かる二体のシャドウは、魔剣イフリートを振り下ろし、もう片方は短剣による素早い攻撃の連打を浴びせる。

 イフリートをタワーシールドで受け止め、避けきれない短剣はショートソードで捌く――はずだった。


 金属音が鳴り響き、短剣を弾いた瞬間、バイスの持っていたショートソードがドロドロと解け落ちたのである。


「バイス! ウェポンイーターだ!」


 その名の通り、武器を喰らう短剣だ。ウェポンと名はついているが、その牙は決して武器だけを喰らうものではない。

 真に喰らうのは、持ち主がそう望んだもの——。

 刃渡りは人の前腕ほどで、全体が漆黒に染まった刀身を持つ。光を吸い込むように艶を失い、まるで闇そのものを鍛えて形にしたかのような禍々しさを放っている。


 ウェポンイーターを相手に近接戦を仕掛けるのは、どう考えても悪手。フィリップは狙いを変え、イフリートを持つシャドウへと振りかぶる。


「”ヘビィスラッシュ”!」


 しかし、標的を変えたことによりワンテンポ遅れてしまった攻撃は、下から振り上げられたイフリートであっさりと弾かれてしまった。


「しまったッ!」


 その衝撃で腕が上がったフィリップの懐に入ったのは、ウェポンイーターを閃かせるシャドウ。

 しかし、バイス捨て身の体当たりにより、シャドウの体勢が崩れ、ウェポンイーターは空を切った。

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