コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
私がはっきりと思い出せるのは4歳の頃だったと思う――
前世の意識とシエラとの同居生活はずっと続いていたけれど、4歳の時に衝撃的な出来事が起きたの。。
その日はまだ暑さも残る、だけど朝夕には涼しい風が吹く気持ちの良い夏の終わり――
まだ日が顔を出さしていない真っ暗な早朝、何か虫の知らせだったのかシエラは目が覚めてしまった。そして、何やらごそごそと物音がするのに気が付いて、起き上がって音の方へとトテトテと歩いて向かっていく。
ちょっとシエラ迂闊すぎ!
強盗だったどうするのよ!
私の声が届くはずもなくシエラは無防備に扉を開けてしまい、3人の人影が動いているのを発見した。
「どこ行くのぉ?」
眠い目を擦りながらシエラが声を掛けると、その3人の人影が慌て始める。
「げっ!」
「シエラ起きてたのか!?」
目が暗さに慣れて次第に見えてきた人影はカッツェ達だと分かり、同じ孤児院仲間かと私はホッと安堵した。まあ、こんな孤児院に強盗なんて入るわけもないか。
カッツェはシエラの3歳年上の孤児で、シエラの2歳年上のキレカとレオンという孤児を従えて悪戯ばっかりするやんちゃな男の子。
シスター・ミレは素直なシエラをとっても可愛がっているけれど、手を焼かされてるこいつらも根はとっても良い子達だからと、にこにこ笑って可愛がっているのだ。
この間もカッツェにスカートめくりされたってのに。
シスター・ミレ、あなたはホンマモンの聖女様です。
「お前こんな時間に起きてていいのかよ」
「そーだそーだ。子供は寝てる時間だぞ」
お前らも子供でしょうに。
「カッツェにぃ達はいーのぉ?」
「俺達は年長だからな、仕事があるんだよ」
「そうそう、これから森にジュベリを取りに行くんだよ」
「バカ!」
カッツェが迂闊なキレカの口を塞いだけどバッチリ聞こえてるわよ。
ふーん、これから『聖女の森』へ行ってジュベリ摘みねぇ。
ジュベリは今の時期に収穫できる果実で、味もよく滋養もあってこの辺境の地での楽しみの1つなの。そのまま食べてもいいけど、ドライフルーツにしたり、お酒やジャムにしたりと用途は幅広いの。
そう言えば来月はシスター・ミレの誕生日だったわね。
何だかんだ行ってもカッツェ達もシスターの子供よね。
「森には行っちゃいけないってしすたぁが……」
「バカ、そのシスターの為なんだよ」
「そうさ、シエラだってシスターの喜ぶ顔が見たいだろ?」
そのワードはシエラにとってジョーカーよ。
「うん見たい!」
ほらね……
「だよな」
「それじゃあ部屋に戻って大人しく寝るんだ」
「分かった!」
どうしてあなたはそんなに素直なの!
「俺達の事は秘密だぞ」
「うん!」
駄目よ!
ちゃんとシスターに伝えないとって、私の声は聞こえないんだったぁ!
私の抵抗虚しくシエラは部屋に戻ってベッドに潜り込んでしまったのでした……
日が昇って起きだしたシエラはカッツェ達の事を忘れてしまったのか、今日も今日とて大好きなシスター・ミレの背中をカルガモの子供の様にくっついて歩き回ってご機嫌だ。
私はずっとカッツェ達の事を報せないとって焦っているってのに。
なんだかすっごく嫌な予感がするのよね。
「シスター・ミレ」
礼拝堂で日課のお祈りをするシスター・ミレと、それを真似してポーズをとるシエラの微笑ましい空間にシスター・ジェルマが入ってきた。
彼女は教会の修道司祭様で、孤児院の院長も兼任している凄い人よ。だけどいつもおっとりした雰囲気の彼女が、表情を曇らせているのは珍しいわね。
「どうかなされたのですか?」
「朝からカッツェ達の姿が見えないの」
シエラが今朝の事を思い出したらしく、そわそわとしだした。口止めされているけれど、シエラにとってあいつらよりもシスター・ミレの方が圧倒的に優先度が高いものね。
大人が知らない事を口にすれば誉めてもらえる子供の行動原理が疼いているわ。
早く全てゲロするのよシエラ!
「また悪戯の仕掛けにでも没頭しているのではないですか?」
「それ位ならいいのだけど……どうにも最近コソコソしていて心配なのよ」
「カッツェにぃたちならジュベリを採りに行くって言ってたよ」
ようやく言えた。
「森へ行くって朝はやくに」
「森は危ないって言ってあるのに……あの子達どうして?」
シスター・ミレの表情が険しくなり、それを見てシスター・ジェルマが苦笑いした。
「あまり怒らないであげて」
「ですが……」
「ジュベリを今時分から仕込めば来月には美味しいジャムができるわね」
シスター・ジェルマには分かったみたいね。
「貴女の誕生日までには間に合うわ」
「――!?」
シスター・ミレにもようやく彼らの思惑が分かり表情が柔らいだ。
「私の為に……」
ああ、シスターが泣きそう。
彼女こういうのに弱いから。
「あ!」
急にシエラが思わず声を上げた。
それはシエラの脳裏に恐ろしい光景が浮かんでしまったから。
その光景とは魔獣に襲われるカッツェ達の姿だった。