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いつもと変わらないはずの休日。でも今日は隣を埋めてくれる存在はなくて、ひとり家で時間を持て余していた。
けどそれでも退屈だったから外へ出てフラフラと彷徨っていたら、たまたまエマちゃんとおしゃれなカフェの前で出会った。『奇遇だねー! 』
「夢主ちゃんもヒマしてるの? 」なんて盛り上がり、退屈な時間に別れを告げて二人肩を並べて歩き始めるとなんだか賑やかな場所に差し掛かったからふと足を止めて視線をそちらに移す。
なんか聞き覚えがあるんだよなぁ。と思いながら隣のエマちゃんを見ると私と同じことを思っていたらしく口元を緩ませている。「ね、多分そうだよね? 」そう言ってエマちゃんは私の手をおもむろに掴むとその賑やかな場所の奥、いつもなら幼い子供たちで溢れている公園の中のほうへと歩みを変えて足速に向かい出した。「やっぱり、そうだ! 」
「あれ? エマと夢主ちゃんじゃん」
「二人でお出かけ中? 」うん、たまたま会ったの! とエマちゃんがマイキーくんと三ツ谷くんとにこやかに会話を始めたから私はある一箇所だけは見ないようにしてその中へとお邪魔する。『みんなは何してたの? 』
「二人と一緒。たまたま公園来たらたまたまメンバーも集まってただけ」
『へー。そっか』
「んで、ヒマだからどっか行くか話し合ってった感じ」
「じゃあエマたちと一緒だね! 」なんて三ツ谷くんとエマちゃんとで楽しい雰囲気に包まれ始めていたけど、その傍で目を丸めて私を見ているマイキーくんが発した一言でその雰囲気はぴたっと止まった。「あれ? 夢主ちゃんケンチンのとこ行かないんだ? 」 ケンチン、そう呼ばれているのは他でもなくあの人しかいない。あの東卍の副総長様しかいない。
反応せずに身体の動きも表情も固まらせる私に続けて「いつもべったりじゃん」と首を傾げたマイキーくんが不思議そうに聞いてきて他の二人までもが私を不思議そうに見つめ始めた。
でも、みんながそうなる理由は分かる。私と、ドラケンくんは付き合っている。そして、私はみんながいる場に姿を見つければそのドラケンくんにいつも真っ先に駆け寄るからだ。
そんな私が今日は一切素振りを見せないどころか視線すらやらず、むしろ絶対にドラケンくんがいる方を見ないから三人とも不思議がるのも当然。「そういえば夢主ちゃん、今日は珍しいね? 」
「確かに。いつもドラケンの方に行って二人でしゃべってるのに何かあった? 」 マイキーくんのように首を傾げるエマちゃんと相変わらず鋭い三ツ谷くんにそう聞かれて思わず吃るけどそれを誤魔化すように『い、いや? 私だって毎回毎回そんなんじゃ……』と言って話題を変えようと何かないか、と必死に探すけれどソレを見つけるより先に「何かあったんだ。ケンチンと」すげぇ分かりやすいじゃん。なんて少し笑いながら、というか半ば馬鹿にしているような笑みでマイキーくんに言われてしまった。『べっべ、別に何もないけど? 』
「ウソつくの本当に下手だよね」
『ウソなんかついてないって! 』
「へー? じゃあケンチン呼んであげる」そう言って大きく息を吸い始めたマイキーくんが声を吐き出そうとしたからそれより前に慌ててその開かれそうな口を両手で塞いでそれを阻止する。そしてそのままマイキーくんの目を見て『わ、わかったから! ちょっと喧嘩してるだけ! 』と今日の行動の理由を説明すると私に口を塞がれているマイキーくんの目が呆れたような目に変わった。「えっ! 喧嘩? 」
「なるほどね。それでか」
「何があったの……? 」そう心配そうに近づきながら聞いてくるエマちゃんにマイキーくんの口から手を離して『まあ、ちょっと? 』と視線を逸らして応えると解放された口でマイキーくんが「どうせくだらないことなんじゃないの」なんて言うから少しムッとしたけどあながち間違い、ではないので逸らした視線はそのままに『私は悪くないし……』と弱々しい声だけをみんながいる方へと送る。
するとおそらくマイキーくんのものであろうため息が返ってきたけどそれと一緒にエマちゃんのマイキーくんを叱る声も聞こえてきて少しムッとした気持ちが和らいだ。
でも、本当に私は悪くない。ドラケンくんが悪いんだから。二、三日前に起きた事を脳内で思い返しながらそう内心呟くとすぐ近くから三ツ谷くんが呼びかけてくる声が聞こえて顔を上げた。「喧嘩はつい最近、だろ? この前会った時は普通だったし」
『うん、二、三日前くらいに……』
「原因聞いてもいい? 」まるで妹に接するように顔を覗き込んで優しく聞いてくれるから思わず口が動いて言いそうになったけどソレが出てくる前に『ちょっと、色々あって』と濁すと三ツ谷くんは追求せずに身を引いていく。そして柔らかい表情のまま「そっか。もう仲直りは出来そう? 」と言うから首を横に振ると三ツ谷くんは苦笑いを零した。「結構派手にいったんだ」
『うーん、派手に……というよりかまだ怒りの感情が濃いからさ……』
「ははっ! それじゃあ仕方ないな」そう言って笑いながら「今日はそのまま触れないようにしとくわ」マイキーはオレが見とくから。と言ってくれたからホッとしながら短く『ありがと』と伝えるといつの間にかマイキーくんから離れて隣にいたエマちゃんも「ちゃんと落ち着いたら仲直りしてね? 」と心配そうに眉を下げながらも三ツ谷くんに同意してくれたから首を縦に振って応えた。
そのまま少しそうやって三人と話していると離れたところから「マイキー! 行きたい場所、こっちは固まったけど! 」という他のメンバーの声が響いてきてそれにマイキーくんが「分かったー! んじゃ行くか! 」と大きな声で返すとみんなぞろぞろと自分たちの愛機へと向かいだす。それを見てエマちゃんと『私たちはどうする? 』と顔を合わせて相談し始めるとまだその場にいた三ツ谷くんが「良かったら一緒に行く? 」いつも通りニケツで。と親指で集まり出した集団を指差して誘ってくれた。「いいの? 」
「ん。全然。多分マイキーもそのつもりだろうし」
『……じゃあお言葉に甘えちゃう? 』
「そうしよっか! 」暇を持て余してフラフラ街を歩いていただけなのに次々と時間が埋まっていくのに嬉しさを感じながら三ツ谷くんの後ろをついていくと慣れたようにエマちゃんが最初に三人の輪から外れてマイキーくんの方へと背中を向けて歩きだす。
そんな背中を見送りながら私はそのまま前にある背中について行く。三ツ谷くんの言った「いつも通り」なら私はこの後ドラケンくんに向かうけど今日はソレはしない。
もちろん理由は喧嘩中、だから。その最中に背中に抱きつけるわけがない。それには前を行く三ツ谷くんも分かっているようで少し歩調を合わせてくれているようだからそれに甘えていつもとは違うバイクへと近づいていく。
そして見慣れた、だけどあまり乗ったことのないソコにたどり着くと答えは分かっているけどとりあえず許可を先に。と口を開く。『三ツ谷くん、今日はお願いしてもいいかな? 』
「ん? いーよ。ドラケンよりもちょっと荒いかもしれないけど」なんて笑いながら三ツ谷くんは言うと先に愛機に跨った。
それからハンドルにかけてあったオレンジ色のヘルメットを私に差し出して後ろへ乗るように促してくれるからそれに従っていつもとは違う色のヘルメットをしっかりと被る。
よし、準備は万端だ。
そう思いながら足を一歩、バイクに跨りやすい場所まで動かそうと力を入れるとなぜかちゃんと被ったはずのヘルメットに視界を遮られてしまい思わず足から力を抜いた。……ズレて、いや、何か上から抑えられて……? そう少し狼狽えていると遮られた視界の向こう側から三ツ谷くんの苦笑いする声、それから「ドラケン、やっとこっち来たな? 」という今はあまり聞きたくない名前を呼ぶ声がして小さく『え゛っ』と声を溢した。「わりぃな、三ツ谷。コイツが迷惑かけて」
「別に? 」頭上から降ってくる声と前から聞こえてくる声の会話に身を固まらせて冷や汗を流す。「ドラケンも最初から見てるんならさっさと声かけたらいいのに」
「まだ"怒ってる"らしいからな」
「んじゃ、こっからは旦那に任せるわ」
「おー」全く動けずにその場に立っているだけの私をヨソに会話がどんどん進んでいく。
そしてついに私の視界を遮っていたヘルメットがスッと外されて目の前に現れた三ツ谷くんを助けを求めるように見つめると三ツ谷くんは私の後ろにいる、恐らく……いや、十中八九ドラケンくんからヘルメットを受け取って眩しいくらいの笑顔で「よかったな、夢主ちゃん」と言ってきた。……よかったな? いや、めちゃくちゃ危機的状況なんですが。 そう後ろを振り向けないまま固まっていると次は肩に大きな手が降ってきた。「で? 何他のメンバーのバイクに乗ろうとしてるわけ? 」怒ってはいない。怒ってはいない声色なんだけど肩に置かれた手にいつも以上の力を感じる。『わ、私、まだ怒ってるんだけど……』なんて強がって言ってみるも最後は後ろからくるなんとも言えない雰囲気でしりつぼみになってしまう。「"怒ってる"なぁ? 」
『そっそう! 怒ってるから、だから三ツ谷くんの』バイクに、そう続け言おうと前を改めて見るけどそこに居たはずの姿がいつの間にかなくなっていて息を呑む。助けがなくなった……! 先ほどとは比べ物にならないくらいの冷や汗が流れ出てくる。つい最近見たホラー映画より怖い気がする。後ろから「とりあえずこっち向けよ、なあ? 」なんて聞こえてくるけどそれに抗って……向けるはずがなくてただ前を見つめていると肩から大きな手がスッと引いていき、代わりにオレンジ色のヘルメットを被っていた時と同じ感触が頭に降ってきた。そして「まぁ話は後でじっくり聞くわ」オマエがオレの連絡全部無視したことも、な? そんな恐ろしい声と共に背中を押されて強制的にいつも通りの見慣れて乗り慣れたバイクの方へと誘導されてしまった。
その後に始まった二人乗りは今までで一番長くて、一番謝罪の言葉を吐いた時間だったと思う。