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ruruha
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「そんなわけないやん。前に新に会った時、同じことされそうになったことがあって……多分それが頭に残ってて、自然にやってもうたんやと思う」
深い意味はないと、慌てて説明する。
「へぇ」とか「ふぅん」とか、そういう軽い相槌で終わると思ってた。やけど。
「……新と二人で会ったん? いつ?」
相変わらずくうちゃんは、眉ひとつ動かさず真顔で聞いてくる。
なに? 新と喧嘩でもしてんの? 俺、なんか踏んだらあかんスイッチ押した?
「あ……みんなで初詣行ったやろ? その次の日。ほんまはみんなも来ると思っててんけど……新に聞いてなかったん?」
なにこれ。まるで浮気を問いただされてるみたいな気分になる。くうちゃんと付き合うと、こんな感じの独占欲を向けられるんやろうか。
「うん、初耳。他のみんなも知らんやろ? 新とはんちゃんの『秘密』って感じ?」
もぐもぐと口を動かしながら、淡々と詰め寄ってくる。
……いや、俺が勝手にそう感じてるだけか?
「いや、別に。あれから、もとちゃんともカフェに行ったり、しゅうたと買い物行ったり……くうちゃんが知らん時に誰かと二人きりで遊びに行くことなんて、いっぱいあるよ。俺ら、友達なんやから」
そう。こう返すのが普通や。
俺らはただの、友達なんやから。
「……そっか。俺ら、ただの友達やもんな。じゃあ、新とかもとちゃんにキスされそうになってもすぐに受け入れる感じ? 俺の時みたいに」
はぁ?! 何その言い方!!
自分からそういう雰囲気にしといて、自分からキスしといて……俺のこと、誰でもいいみたいに!!
……さすがに、カッチーンと来た。
「くうちゃんもやんか! くうちゃんもそうなんやろ?! 高校の時の新との仲の良さも異常やったし、ほんまはなんかあったんちゃうん? もとちゃんかて、ほんまはタイプなんやろ?! たまたま俺がくうちゃんのこと意識してるんわかったから、こうやって、キスして……俺のこと都合のええように使おう思てるんやんか!!」
ほんまに腹立つ。
友達やからって、言ってええことと悪いことがある。
くうちゃんのこと、優しくて可愛い人やと思ってた。こんな風に人を見下して馬鹿にするような人やとは、思ってへんかった……!
「……ふふっ、ええもん見れたわ」
オムライスの最後の一口を飲み込んだくうちゃんが、クスクスと笑い出した。
……何? 俺、なんか変なこと言うた?
「……ごめん。大きい声出して。なんか……失礼なこと言うて、ごめん」
「ううん、ええよ。ほんまのことやし。新と異常に仲良かったのも、もとちゃんの顔がタイプなんも、図星やから」
「ご馳走様でした」と綺麗に手を合わせて、くうちゃんが立ち上がる。
……なんか、完全に負けた気がする。
勝手に期待して、勝手に怒って……ただ、心臓だけがキリキリと痛い。
「そっかぁ……はんちゃんは俺のこと意識してんねんな」
「……へ?」
「そっかそっか~」
「ちが、待ってくうちゃん!」
あかん。今、このタイミングで俺の気持ちがバレるのは一番まずい。
アプリの男に会うのを反対したのも、仲のええ人から相手を選べってアドバイスしたのも、もし無理やったら俺が責任取るって約束したのも……。
客観的に見たら、全部俺がくうちゃんを手に入れたくて、自分に都合のええように誘導したみたいに見えるやんか。
「……お茶のおかわり、もらっていい?」
「あ、……うん」
慌てて冷蔵庫を開けようとしたら、俺の手にくうちゃんの手が重なった。
なんなん、次は……次は何されるん。
「……へぇ~。わかってたけど、はんちゃんてモテるねんなぁ」
「あ……」
冷蔵庫の棚に並んでいた、三つのチョコの箱。
会社の女の子二人と、同僚の上重からもらったやつや。
くうちゃんはその中の一番大きな箱をひょいと掴んで、隙間に挟まっていたメッセージカードを抜き取った。
……気づかんかった。そんなとこにカード、入ってたんや。あとで確認せなあかんやつやん。
「……このカードは没収。俺へのチョコ、用意してなかったバツな?」
「だって、くうちゃんが来るなんて知らんかったし! それに俺、男やからもらう側やろ、普通」
「……冗談やんか。さっきの様子見てたら、『俺のことちょっと好きなんかな~』って、調子に乗っただけ」
一瞬でも「チョコを買ってみようかな」という考えが頭をよぎらんかったわけやない。
でも、それができひんからこそ、バレンタインのイベント巡りに誘って、自分の気持ちを誤魔化してたのに。
「……好きな人なんておらんよ。そんなもん、ここ二、三年できたことないわ」
あーもう!! さっきからなんなん!!
まるで俺に告白させようとしてるみたいに、ずっと遠回しに外堀を埋めてくる。
「あ……そう。そうなんや。ふぅん」
え、意外と簡単に引き下がってくれた。
良かった。……これで、いつもの雰囲気に戻れるはずや。
「あ……お風呂浸かる? 浸かるならお湯溜めるし、シャワーだけでええんやったら……」
「ん、いや、やっぱ帰ろかな。今やったら電車間に合うし。ありがとうな、はんちゃん。オムライス美味しかったし、ええバレンタインになったわ」
いつもの笑顔で俺の頭をパフパフと撫でて、くうちゃんが服を着替え始める。
え、ほんまに?
……俺のこと、ただの寂しさを埋める道具として使っただけやったん?
悲しい。悲しすぎる。
でも、そうやって突き放すようなことを言うたん、俺やもんな。
「そっか……。それなら良かった。また、寂しくなったら連絡してな」
「ん。……寂しくなったら、な」
最後の一言に、くうちゃんに突き放されたような気がした。
俺が「好き」って言っても言わんでも、結局くうちゃんには気になる人がおって、俺のものになんてならへん。
それやったら……最後まで「親友」のフリでええやんか。
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