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「そもそも、部屋なし同士のマッチングアプリなんて意味あるわけ?」
私はミサキを見る。菓子の袋を開けようとする音と、それと奮闘するミサキの苛立った顔。あと数秒後には「これ、開けて」と菓子の袋をこちらへ突き出してくるミサキを想像する。
「意味とか求めてないの、傷の舐め合いくらいしたっていいでしょ。」
「そういうもんかねえ。ねえこれ、開けて。」
差し出された菓子の袋を受け取って、テーブルの上にあるハサミで開けてやった。塩の香りがふわっと鼻をかすめる。私がひとつ、ふたつと口に入れ出すと、ソファの端にいたミサキがぴったり私の隣へと移動してきた。
「ねえ、覚えてる?」
「何を?」
「私達が、初めて部屋を見せあった時のこと。」
ミサキは少し菓子を口に運ぶ手を止めた。それから「あぁ、ね。面白かったよね。」と、言いながら笑った。
私が初めて部屋を見せた人はミサキだった。中学2年生の夏のことだった。
小学校から仲の良かったミサキとは中学校も同じで、当然のように仲が良かった。家が近いこともあり、クラスは違っていたけれど、お互いに別の友人ができても登下校は一緒にしていた。
「あの時のミサキの言葉、当時は理解できなかったよ。」
「まあ、そうだろうね。」
「でも、今ならわかる。」
私の言葉にミサキは笑った。手を叩いて、豪快に。ミサキの左手首には、黒色のリストバンドがつけられている。はぁ、とため息をついたミサキとしっかりと目が合った。
「あのね、何回も言うけど、あんたのコンプレックスに私を巻き込まないでよ?私の言葉を理解したんじゃない。理解した気になれたんだったら、それはあんたが見つけた自分自身でしょ。」
ミサキの言葉は、私の耳より先に心臓に響いた。ミサキは菓子の袋を私からひょいと取りあげると、ひとつ摘んで私の口もとに差し出す。反射的に口を開け、与えられたそれを受け入れる。口の中に転がる堅い塊は、噛んでみると先程よりも塩っけが薄く感じられた。