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彼の部屋に入って、私たちはすぐに抱き合いキスをした。
それは次第に激しくなっていき、私たちはお互いの服を脱がせあう。一瞬彼はビクッとした。しかし、すぐに私を両腕ごと抱きしめて身動き取れなくしてから、首筋に唇を這わせた。
こんなに激しく求められたのはいつぶりだろう。もしかしたら初めてかもしれない。私は涙が出そうになるのを堪えて彼に抱きついた。
潤んだ私の目を見て彼が聞く。
「大丈夫か? 嫌なことがあったら言えよ」
「うん。大丈夫。絶対やめないでよ、絶対」
そう、絶対にやめないで。それが私の願い。そして彼の願い。
私たちはベッドに倒れ込んでいった━━
━━数ヶ月前
今日は待ちに待った女子会。定例会だ。
高校時代からの親友二人とだいたい月に一回か二回ペースで飲んでいる。みんな違う大学へ進んで就職先もそれぞれ異なるものになったから、毎回最初にお互いの近況を軽く説明してから、その後は主に仕事や恋愛の愚痴を話しまくる会となっている。
私はそりゃもう意気込んで、友達が選んだお洒落な居酒屋に乗り込んでいった。
今日はね、私の話を聞いてもらうよ!
まだ乾杯直後。今回は前回の女子会から二週経ってないくらいだから、挨拶もそこそこに本題に入る。
「えっ、別れたの?」
高校入学式ですぐに仲良くなった、サアヤが聞き返した。
「付き合い始めたばかりじゃん。最短記録?」
同じくコトリが続ける。
「そうなのぉ! またなのぉ!」
私、イチゴは机に突っ伏して叫ぶ。
二人とも「なんで?」とは言わない。だって知ってるから。
もう何度も同じことを繰り返しているのだから。
さすがに今回の期間の短さには驚いていたようだけど。
私、岡島市子(いちこ)は小さい頃から可愛い可愛いと言われて育った。親バカなわけじゃない。もちろんちょっとはあるだろうけど。
身長は平均より少しだけ小さめ、低すぎないけど高くはない。小顔で色白。まぁ、普通にモテてきた。あくまで普通程度に。
でもちゃんと好きな人と付き合いたいから、小中学校では告白はされても彼氏は作らなかった。うん、普通だよね。
最初の彼氏は、高校の同級生。同じクラスでまず友達として仲良くなって、次第にお互いを意識し始めて……って普通に甘酸っぱい思い出となるはずだった。
ところが、だんだん彼が変わっていった。私のことを好きなことはわかる。好きすぎて、私を守ろうとする気持ちが大きくなってしまったようだ。モラハラとかじゃなく、ひたすら愛でるように褒められ、崇められ、心配されるようになった。慈愛の目で見られていた。何かに無理やり例えるなら、それはもう「お父さん」だった。
なんか違うなと思い、別れを告げた時も、
「市子ちゃんの幸せを心から祈っているよ」
と笑顔で送り出して? くれた。
すでに親友だった、サアヤこと紗耶、コトリこと琴里はその時大爆笑していた。「なにそれ?」って。
そうだよね、って私も思ったし、笑ってもらって気が楽になった。親友がいて良かった。
訳がわからないまま私は、残りの高校生活を受験勉強に費やすことになった。
やたらと勉強を教えてくれる親切な男子が複数いたから成績はどんどん上がった。下心があるのかなと思ったけど、本当に親切心から勉強を教えてくれていただけのようだった。
おかげで、そこそこ偏差値の高い大学に入学することができた。ラッキーだと思った。
大学に入って、すぐに彼ができた。サークルで知り合った一つ上の彼は格好良くて人気があった。私も憧れた。そして、その彼に告白されて付き合うことになった。
優しくて大切にしてくれる彼とは初めての2人っきりの夜も経験した。緊張していたけど、普通にできたと思う。恥ずかしくて幸せな体験。
サークル内でも美男美女カップルとしてよく冷やかされていた。そこがその彼との幸せのピークだった。
付き合って5ヶ月が過ぎる頃から、手を繋いだりおでこにキスはするのに、それ以上のことがなくなっていった。
私は、飽きられたのか心配になり、セクシーな下着をつけてみたりスキンシップを増やしたりしてみた。
それでも何も変わらない。でも彼は相変わらず私をものすごく大切にしてくれる。浮気も疑ったが、そんな気配もなく、なんとなく愛されていることは実感できていた。
恥ずかしいけど勇気を振り絞って聞いてみた私に、彼はこんなことを言った。
「大切すぎて手なんか出せなくなった。イチゴがそこにいてくれるだけで幸せなんだ」
訳がわからなかった。彼もまだすごく若かったし、そういう盛りじゃない? 私は普通にイチャイチャしたかった。高校時代の彼がふと頭をよぎった。
最終的になんだか気持ちが悪くなって、泣く泣く別れを選択した。
別れる時、彼もごねたりしなかった。好きなのに? 私は不満だったけど、ストーカー化されるよりマシかと思うしかなかった。
サアヤとコトリは、
「結局浮気してたとかそんなんじゃないのー? エッチしないことに変な理由をつける男とは別れて正解だよ」
と慰めてくれた。
しかし、その後大学時代にもう一人付き合った人も同じだった。
途中までは普通にお付き合いが始まって、次の段階へ進む。そして、そこで止まる。止まるっていうか、後退するって言うか、横道に逸れるって言うべきか。
私を大切にしたくてたまらない気持ちが溢れているのは、私から見てもわかる。何故かそれが性欲をなくしていくみたい。
みんな「お父さん」になってしまうのだ。私にはすでに本物のお父さんがいるんですけど!
うちのお父さんは、本当に普通のお父さん。確かに娘には甘い。でもお母さんと仲良しで、私と同じくらいお姉ちゃんのことも大切にしている。そのお姉ちゃんは、やはり大切にしてくれる優しそうな人と現在婚約中。特に不満は聞かないから、普通に上手くいってるんだと思う。
そう、我が家は普通で、私も普通に育った普通の子なの。
なんでお父さんが増えなきゃいけないの?