きんときside_
猫を飼っていた。甘え上手で小生意気なやつだった。俺が名前を呼ぶと俺の隣に座って撫でてくるのを待つんだ。死んでしまった今でもたまに名前を呼ぶことがある。ひょっこり出てくる気がするんだよなぁ…。まあそんな夢みたいなことが起こるなんて思ってないんだけどな。
飼い始めたのは……何年前だっけな。親戚が飼っている猫が子供を産んだから俺が貰ったんだ。 青い瞳とふわふわな毛がほんっとに可愛くてさぁ…絶対こいつにしよう!って、見た瞬間から決めたからね。
「……」
思い出すとまた涙が出てきそうになり必死に堪える。もう4年以上も前のことなのに、今でも思い出しては泣きそうになってしまう自分が情けないと同時に4年経っても案外忘れないものなのだと思う。元々住んでいた家はペットが禁止のアパートだったからアイツを飼うと決めたときに引っ越したんだけどね。死んでしまってからは都内の違うアパートに引っ越したよ。あのままあの家に住み続けていたらきっと毎日思い出してはこんな風に落ち込んでしまう。忘れたいなんて思ってはいないけど、こんなに辛い思いをするのならいっその事、忘れてしまった方がいいのかもしれないと何回も思った。
今日は折角の休みだ。朝からこんなことを考えていても仕方がない。久々に昼飯でも食いに行こうと思い、出かける準備をすることにした。
「いってきます…」
誰もいないけどなんとなくそう言ってみる。今日はよく晴れていたからだろうか、心做しかいつもよりも暖かい気がする。
家の鍵を閉めようとすると横からガチャっとドアの開く音がする。反射で音のした方を見るとやけに長身の男が出てくるところだった。隣の部屋には別の人が住んでいたと思うんだけど、引っ越してきたのかな
「あ…こんにちは〜」
その男は俺の姿を見るなりへにゃっと笑って挨拶をしてくる。
「…あ、えと、こんにちは……」
驚いた。癖っ毛でふわっとした茶髪。眠たそうな声。何よりその青い瞳はアイツを思い出してしまうほどに酷似していた。
「えっと、昨日引っ越してきたんですよ〜。挨拶行ったんですけど…留守だったみたいで…」
「あぁ、そうでしたか…。すみません、」
確かに昨日は少し用事があったから丸1日家にいなかった。昨日アパートの前に停まっていたトラックは引越し業者だったのか。
「いえ、今日会えて良かったです。あっ…えっと僕…ぶるーく、です。」
「あぁ、えっと…きんときです。」
「きんときさん!よろしくお願いします、」
「こちらこそよろしくお願いします、では…」
「ああ、ではまた!」
ぶるーくさんはそう言うと鞄を肩にかけ直してアパートを後にした。その走り去っていく姿でさえも重ねて見てしまうのはきっと朝からアイツのことを思い出してしまったからだろう。
続く
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