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「先輩は海ってどう思いますか?」
突拍子もないし、意味がわからないような質問から始まった。
イタリア王国も私も、国境線が海上である方が大きい。
そんな中、先輩は国境線の殆どが陸上で他国と隣接していた。
そのためか、先輩は陸軍が強かった。
だから気になったのだ。
海はどう思っているのか。
「海か…」
「海に何か特別な意識を向けたことはないな」
「私自身、あまり海を見に行ったことがない」
先輩は海をよく知らないらしい。
「お前は確か、島国だったな」
「えぇ、海で囲まれています」
「先輩は海を見たいとは思わないんですか?」
「…思わないこともないが、そのような暇もないしな」
世界恐慌が始まり、世界の緊張が高まっている今。
ゆっくり海を眺めるなんて暇はない。
近隣国家とのことで手一杯なのだろう。実際、私もそうだ。
「やっぱり、そうですよね…」
「じゃあ、先輩」
「なんだ?」
「今度、海を見に行きましょう」
先輩はいつもより目を見開き、驚いている。
「そんな暇はないと…」
「もちろん、暇ができたらですよ」
「もし戦争が起きたりしたら、それが終わった後にでも」
「勝てる保証はないだろう」
「随分弱気なことを言うんですね」
「事実だろう。勝てる確証はない」
「まぁ、そうですけど。でも見たいんでしょう?」
「…」
先輩は黙りこくって口を開かない。
恐らく図星なのだろう。
出会った頃よりもわかりやすい彼の顔を見やる。
「自慢じゃないんですけど、私の所の海は綺麗なんですよ」
「一緒に見に行きましょう」
「……守れるかどうかわからないぞ」
たっぷりと間を空けて出たのは、彼に似合わない消極的な言葉だった。
「未来なんてわからないものなんですから、わからなくていいんですよ」
そう笑いながら、お互いの小指を絡ませた。
随分と懐かしい約束を思い出したものだ。
日帝は苦笑した。
「先輩の予想は当たってしまいましたね…」
起こってしまった争いは、今は亡き彼が予想した通り我々の敗北で終了した。
三国同盟を結んだ国も、今は私しか残っていない。
イタ王も先輩も、消滅してしまったのだ。
「結局、約束は果たせませんでしたね」
天に向かって言い放つ。
そこに、愛してやまない彼がいることを願って。
私の命もそろそろおしまいだろう。
今この国は憲法の改正を進めている。
国号も時期に変わり、私は消滅する。
「黄泉の国にも、海はありますかね?」
もし、あるのなら。
今度こそ、彼との約束を果たしたい。
日帝は崩れ去る己の足元を少しばかり眺めて、ゆっくりと目を閉じた。