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左手と尻尾にそれぞれ四体ドラゴンの死体を持ったまま家に到着すれば、既に皆が家に集まっていた。
征伐に向かった結果を知りたいのだろう。着陸し、皆に[ただいま]と伝えながら、氷漬けにしたドラゴンの死体をその辺に放り出す。
「終わらせてきたよ。レイブラン達が言っていた通りの相手だった。始末するのに一片の躊躇いも生まれなかったよ」
〈お帰りなさい!ぶちのめしてやったのね!氷漬けだわ!〉〈流石ノア様なのよ!全部一撃でぶちのめされてるのよ!ざまぁないのよ!〉
〈主に敵対する者は気の毒だな。これでまるで全力ではない、というよりも、主としては戦いとしてすら見ていなかったのではないか?〉
〈おひいさま、不届き者共は5体いたとレイブランとヤタールから聞き及んでおりますが、残りの1体はいかがなさいましたか?〉
散々不愉快な思いをさせられたからか、ドラゴン共の死体を見てレイブランとヤタールが随分とご機嫌になっている。
ホーディはドラゴン共に対して…というよりも、今後私や森に敵対する相手に対して若干の同情があるようだ。
そして私がドラゴン共に対して戦いになっていないと言っていたが、まさしくその通りだな。何せ私の攻撃の全てが、連中に認識される前に片付いてしまっていたのだから。
ゴドファンスは、死体の数が四体しかないことに疑問を感じているようだ。相手は五体いたと聞いていたのだから当然か。
「残りの一体は私の実験に付き合ってもらってね。消滅してしまったよ」
〈姫様、一体何をしてそうなったのですか?〉
〈こんなにデッカイ生き物が消滅しちゃうって、絶対ヤバイやつだよね?〉
そうだね、ウルミラ。ヤバイやつで間違いないよ。
尤も、私が七色のエネルギーで使ったからそうなっただけで、実際にはもっと威力は抑えられる筈だ。
「ホーディ、君に教えてもらった『黒雷炎』を少し弄ってみたんだ」
〈アレに少し手を加えるだけでそこまで悲惨な事になってしまうのか?〉
「いや、私が使った時は七色全ての力を使ったからで、皆が使う分にはドラゴンを消滅させるまでには至らないと思う。せいぜいこのドラゴン共にゴドファンスぐらいの大きさの風穴を開けるぐらいじゃないかな?」
〈ノア様?それでも十分すぎるほどに凶悪な破壊力だからね?〉
一応、威力に関して弁解をしてみたのだが、やはり威力が高すぎるか。まぁ、分かっていたさ。だが、私は君達にこれを教える。これまで私は教えてもらってばかりだったからな。
適性が無ければ威力も落ちるし、図形の形成も難しいだろうが、知っていて損は無いはずだ。
私の予想では、ホーディならば直ぐにでも使いこなせると思っている。
「とりあえず、図形の形を教えておくよ。まともに扱えるようにするには少し手間取るかもしれないけどね。ホーディ、君なら多分、苦労することなく使えるようになると思う」
〈使えるからと言って無闇に使って良いものでは無さそうではあるがな〉
「当然だね。尤も、ここにいる皆もそれは同じだろうけども」
〈ノア様の作った図形よ!きっといろんな意味でスゴイやつよ!〉〈威力がヤバイのは分かったけど必要な力の量も絶対ヤバイのよ!〉
確かに、エネルギーの消費量は皆の扱う図形よりも多い。と言っても多すぎるということは無い筈だ。そもそも、ホーディの『黒雷炎』からして消費量が多かったからな。消費エネルギーが多くなるのは避けようがないだろう。
そんなわけで、『真・黒雷炎』とでも言うべき改良した『黒雷炎』の図形を皆の前で実施しながら教える。
尚、周囲に被害を出さないために真上に放つのを忘れてはいけないし、今回はしっかりとエネルギー色の数を抑えて紫のエネルギーのみで使用した。これでホーディが扱った場合よりも威力が抑えられる筈だ。
「こんな感じの事象になるよ。今回は紫一色だけで使ってみたけど、どうかな?」
〈頑張って練習すれば使えるようになりそうだわ!でもとっても使い辛そうだわ!〉〈使えるようにするには練習が必要なのよ!覚えはするけど私達には向かないのよ!〉
〈ご主人、相手が森の敵だから自重しなかったんだね…。思ってた以上にヤバイやつじゃん…〉
〈私は、ちょっと練習すれば使えそうだね。でも威力も消費も大きすぎるから、両方を抑えた図形を作った方が良いかも〉
〈儂には扱えそうにありませんな。必死になってこの事象を扱えるようにするよりも、今できることを磨く方が、おひいさまのお役に立てそうです〉
〈私にも扱えるかもしれませんが、これは私には過ぎた力のようです。事象によって自傷する可能性が高いです〉
〈『黒炎』と『黒雷』を完全に融合させるとこのような事象になるのだな。確かに、我ならば直ぐにでも扱えるだろうが…。主よ、我が使用した場合、間違いなく今の物より強力になるな?〉
実際に発生した事象を見て皆が各々感想を述べている。
やはり得意不得意があるようだ。レイブランとヤタールは使い辛いと言っているし、ゴドファンスに至っては、扱うこと自体かなり難しいようだ。ウルミラはそもそも扱う気がないようだし、ラビックは扱えるようになったとしても、自分を傷付けてしまう恐れがある、と。
問題無く扱えそうなのはフレミーとホーディぐらいだな。それでも2体にとって威力が強すぎるらしいから、威力も消費も抑えた劣化版の図形を新しく作る必要がありそうだ。
「ホーディが使用したら間違いなく今のよりも範囲も威力も大きくなるから、時間がある時に威力と消費を抑えた劣化版を作ろうと思うよ」
〈私も一緒に作らせてもらって良いかな?私も扱おうと思っている事象だから、私も関わりたいの〉
〈我もフレミーと同意見だな。今のままでは森の中で扱うわけにはいかんだろう。それに、主一人に作らせると、また別の規格外の図形を作りそうでな〉
酷い言われようだ。だがまぁ、こんなものを作り出してしまった以上、否定はできない。むしろ、一緒に考えて作ってくれるというのであれば、諸手を上げて歓迎するとも。
〈ところでおひいさま、この不届き者共の死骸はいかがなさるのですか?〉
「うん。森に還元してこの連中と同じ思考を持った者が新たに生まれてきて欲しくないからね。私が全部喰らってしまおうと思うよ」
〈食べるの!?コイツ等を!?美味しいのかしら!?〉〈味が気になるのよ!そもそも食べられるか分からないのよ!?〉
〈栄養はありそうだよね。デッカイから当分は食べられるだろうし〉
〈ドラゴンはこの辺りには居ないからな。どのような味がするかも分からん。主よ、我らも食してみても良いか?〉
「勿論、構わないとも。とはいえ、まずは味見をしてからかな?美味しくなかったら責任をもって私が処理しよう」
ドラゴンを食べると言った途端、レイブランとヤタールが反応しだした。この娘達は本当に食い意地が張っているな。まぁ、いつものことだし可愛いからいいけど。
この辺りにはドラゴンがいないらしく、誰も食べたことが無いらしい。以前、森に来たことのあるドラゴンも森の浅い所までしか来たことが無いらしい。ならば、皆でドラゴン肉の初体験と行こうじゃないか。
さて、食べるのは良いが、どのドラゴンから食べようか?
断面があるから直ぐに肉が取れるし、最初に頭を吹き飛ばしたドラゴンで良いか。
頭の無いドラゴンの死体に近づき、首の断面から、私の指二本分ほどの肉を切り取る。このまま凍った状態で食べても大丈夫だろうが、折角だからちゃんと解凍して食べるとしよう。
切り取った肉片に『解凍』の意志を乗せたエネルギーを送り、常温に戻せるか試してみる。
やはり、私は意思の力によって大抵の事象を起こせるらしい。肉を加熱すること無く解凍できてしまった。
この時、不思議なことに結露が発生することも無かった。温度差によって解凍されたのではなく、『解凍する』という事象そのものが起きたということだろう。
とにかく、これで常温の肉が手に入ったのだ。まずはそのまま食べてみよう。
……肉そのものの味は、ほのかな甘みと旨味が感じられて悪くないと思う。
脂も程よく含まれていて、それが口の中で溶けて味を広げていく。だが、血の味が強いな。美味しく食べるのなら、血を抜いた方が良さそうだ。
〈どう!?ノア様美味しいの!?〉〈感想が聞きたいのよ!教えてほしいのよ!〉
「肉そのものは美味いと思うよ。だけど、血の味が強くて今のまま食べても美味しくないかな?一旦、血を抜いてみるよ」
ドラゴンが丸々二体は入るぐらいの巨大な石の容器を作り、そこにドラゴンの血を入れておこう。抜き取った血は、凍らせておけば腐ることも悪臭を放つことも無いだろう。
石の容器は『|我地也《ガジヤ》』を使用することによって容易に作り出せた。後は鰭剣《きけん》で貫いたドラゴンの頭を光の剣で首から切断し、上空へ持ち上げる。
持ち上げた死体は、これもまた『我地也』によって作り上げた柱と竿で吊るし、重力に任せて血を落としていけば良い。
日が沈み始める頃には血が抜けきるだろう。それまではホーディやラビックと稽古を再開して時間を潰すとしようか。
〈主よ、すまんが、主に教えてもらった『黒雷炎』を少し慣らしておきたい。我儘を言うが、稽古はまた別の機会に頼む〉
〈姫様。私もホーディと共に自分の扱える事象を磨こうかと思います〉
ホーディとラビックは自己鍛錬を行うらしい。血が抜けるまで待つ間、暇になるな。私も修行をしてようか。
空が橙色に染まり始めた頃、ドラゴンの死体から血が抜けきったので、全てのドラゴンをもう一度凍結させておく。後で『我地也』を使って保存庫でも建てておこう。
今更だが、この『我地也』、物凄く便利な事象だ。エネルギーの消費量は大きくなるが、操る地面には存在しない物質すらも生成して操作してしまえるのだ。その気になれば岩塩すら作り出せてしまいそうな気がする。
さて、再び頭を蹴っ飛ばしたドラゴンの首の断面から肉を先程と同じ量切り取り、解凍してから口に放り込む。
…うん。血の味や臭みが無くなり、肉や肉に含まれた脂から感じた、ほのかな甘みと旨味がより強く感じられて実に美味い。これならば皆も食べられるだろう。
「なかなか美味いよ。皆も食べる?」
〈勿論いただくわ!ずっと待ってたわ!〉〈早く食べたかったのよ!切り取ってほしいのよ!〉
〈血が抜けた後って結構おいしそうな匂いがするんだね。ボクも食べる!〉
〈ノア様、少し顔がほころんでる。美味しいんだね。私も食べさせてもらうね?〉
〈不届き者どもを征伐して喰らってしまうとは、おひいさまは時に豪気で御座いますな。儂も頂きたく御座います〉
〈食べたことのない味なのだ。それが美味いというのであれば皆口にしてみたいと思うさ。なぁ、ラビックよ〉
〈ええ、私はウサギです故、どちらかと言えば植物の方が好みなのですが…。肉を食せないわけではありません。是非頂きたく思います〉
皆、楽しみにしていたようだ。肉はたっぷりとある。存分に楽しむとしよう。