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狐の月ダヨ?
201
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「 銀月の深翠の宝玉」
その名を歓楽街によく行く者は一度は聞いたことがあるだろう。
緑川 翡月
彼は、歓楽街の最奥にある「 月華楼」の踊り子だ。
男でありながら、女のように白い肌と長いまつ毛、紅く薄い唇。舞台に立つと、薄絹の衣が腰の線を際立たせ、細い手首が柔らかく翻る。
客席からは男も女も息を飲む。
彼を買い取りたいと申し出る資産家は後を絶たなかったが、月華楼の主は常に同じ条件を突きつける。
「翠玉の美しい男の心を奪った者だけが、彼を連れて行ける」
だが、まだその心は誰も奪えていなかった。
その夜も、彼は舞台の中央でゆっくりと体を揺らしていた。灯籠の灯りが彼の白い喉を撫でる。
観客の視線が熱く絡みつく中、彼は意識を遠く飛ばしていた。
いつもの事だ。美しい顔を、身体を売り物にしながら、心だけは誰も渡さない。それが、この場所で生き延びるための唯一の方法だった。
舞台が終わり、楽屋に戻った瞬間、空気が変わった
「….貴方が」
低い静かな声。
振り返ると、黒いフードを深く被った男が立っていた。顔の半分は影に隠れているが、露出した顎の線と唇の形が異常に整っている。
普通の客ではない、身分のある人間が、変装して紛れ込んでいる予感がした。
「今宵の踊りは、見事でした」
男はそう言い、懐から小さな箱を取り出した。
中には、上質な絹に包まれた1本の簪、翡翠が淡く光っていた。
「受け取ってください、貴方を気に入りました」
翡月は受け取らなかった。
『客人の方には、贈り物など不要です。踊りで満足して頂ければ_____』
「僕は満足できていません」
男は1歩近付いた。フードの隙間から覗くアメジスト色の瞳が意外なほど澄んでいた。
「もっと近くで貴方をみたい」
その言葉に、翡月の胸がわずかにざわついた。客の世辞は聞き飽きた。だが、この男の声には、下心だけではない何かがあった。
『….名前は?』
翡月が問うと、男は少しだけ口の端をあげた。
「蓮、紫月 蓮です、あなたは?」
『緑川 翡月』
その夜、二人は楽屋の奥で、静かに酒を酌み交わした。身分の話も過去の話もしなかった。
ただ、互いの呼吸と、灯りの揺らぎだけがそこにあった。
コメント
1件
第2話、読みました……✨ 翡月さんの、心を閉ざしたまま踊る孤独感と、蓮さんの声の静かで澄んだ感じ、すごく好きです。下心だけじゃない何かがあるって翡月さんが感じた瞬間、こっちもドキッとしました。月華楼の空気感が艶っぽくて、続きが気になります🌙