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続き
夢回廊のアリス②
視点主→『』
その他→「」
キャラ崩壊注意
泡に連れて行かれ、ぱちんと弾けた先は、どこかの屋敷の庭のような場所だった。
足元には白いタイルの足場が続き、横を見れば草木で形作られた緑のアーチ。
木漏れ日がレダーの顔に柔らかく降り注ぐ。
目の前で開かれていたのは、木の塀に囲まれた庭のお茶会。
色とりどりの椅子に座っているのは、大きなハットを被ったケインと、うさぎの耳をつけた芹沢。
……もう服装については何も言うまい。
二人が楽しげにティーカップを傾けている様子を眺めていると、ケインがレダーに気付いた。
「店長。いらっしゃったんですね」
「ん、レダー?」
ケインの体がちょうど壁になって見えなかった芹沢が、ひょこっと後ろから顔を覗かせる。
レダーの姿を見つけた途端、ぱぁっと表情が輝いた。
「レダー!」
勢いよく手を振ると、頭についたうさ耳も一緒にぴょんぴょん跳ねて揺れる。
「コッチ!来て!」
芹沢は、どんどんと手で叩きながら一番目立つ椅子を示してくる。
促されるまま椅子に腰を下ろすと、芹沢が机の上にあったティーカップを渡してきた。
「ハイ、飲んデ」
『…何も入ってないけど』
「ウン。何もないヨ」
『???』
困惑しているレダーのカップに、ケインが静かに紅茶を並々と注ぐ。
気付けば、目の前には綺麗に切り分けられたケーキまで置かれていた。
「ところで店長、どうしてここに来たのですか?」
『あぁ、そう。トピオ追いかけに来たんだ。なんか知らない?』
問いかけに、芹沢が元気よく手を挙げる。
「トピオならついさっきまでここにいタ!」
「そうですね。あそこの扉を通っていきましたよ」
ケインが指さしたのは、レダーが通ってきた道とは反対側にある扉だった。
誘ってくれた芹沢には悪いが、すぐに向かわなくてはならない。
とはいえ、何も口にせず席を立つのも申し訳なく、レダーは紅茶を一口だけ口にして椅子から立ち上がる。
「エ〜、もう行っちゃうノ?」
『ゴメンな』
「マァいいヨ。いってらっしゃイ!」
しょんぼりした芹沢の頭を軽く撫で、レダーが歩き出すと、背後からケインが声をかけてきた。
「店長」
『ん?』
「早く起きてくださいね」
『…あー、うん』
─────────
道なりに進んでいくと、ひときわ大きなバラの木が見えてきた。
そして、その幹の周りには三つの人影が集まっている。
「はよ手ぇ動かせ!」
「動かしてるが!?」
「タコさんに怒られる前に早くやろ」
タコという名前が聞こえ、レダーは人影へ近づく。
赤いペンキを手にした音鳴、牢王、刃弍の三人が、何やら慌ただしく作業しながら揉めていた。
『なにしてんの?』
「レダー!?」
レダーの登場に、三人は揃って目をひっくり返す。
白バラの木の下で赤いペンキ。
原作を知っているレダーには、彼らが何をしようとしているのか一瞬で察しがついた。
「赤バラのつもりが、間違えて白バラ買ってもうてな」
「怒られる前にペンキで塗っちまおう! って話で」
「タコさん怒らせると怖いから」
三人は口々に言いながら、次々と白バラを赤く塗っていく。
その時、牢王がふと庭の奥に目を向け、声を漏らした。
「あ、ヤベ……」
牢王の視線の先へレダーがちらりと目を向けると、そこにはタコが立っていた。
そして、その背後からはひょっこりとトピオが顔を覗かせている。
「せんせぇ!」
のんきに手を振るトピオの姿だけが、この状況における唯一の癒やしだった。
タコは静かに三人へ近づき、無言のまましばらく彼らを見下ろしていた。
音鳴、牢王、刃弍の三人は完全に石のように固まっている。
さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返る。
そしてタコはふっとレダーの方へ視線を向ける。
「レダー、あんたはそろそろ起きな」
『え?』
タコの声を聞いた途端、視界がぐにゃりと歪む。
まるで足元に穴が空いたかのように地面の感覚が無くなる。
「アンタがいないと大型始まんないんだから。ほら、夢は終わりだよ」
そう小さく呟いたタコの声だけが鮮明に耳に残った。
───────────
『……ン』
重たいまぶたを開くと、視界に広がったのは見慣れた豪邸の天井。
数度瞬きを繰り返すと、聞き慣れた声が飛んできた。
「あ、やっと起きた。大型行くぞ」
『ん…あれ、タコ……?』
「寝ぼけてないでさっさと準備しろ。もう皆待ってるから」
言い捨てるようにして、タコはそのまま部屋を出ていった。
レダーはしばらくぼんやりと天井を見つめる。
さっきまで体験していた光景は一体何だったのか。
確かに現実感があったのに、思い返そうとすると指のあいだから零れ落ちていく。
寝惚け眼のまま体を起こし、着替えようと玄関へ向かう。
その時、レダーの足元をひらりと何かが舞った。
それを拾い上げたのは、ちょうど通りかかったトピオだった。
「?なんだろこれ」
トピオの手の中には、
半分だけ赤く塗られた白バラと、ハートのAのトランプ。
夢の名残のようなその2つの物を、不思議そうに首を傾げながら見つめていた。
だが無線が鳴り、トピオは「あ、やば」と言って慌てて豪邸を飛び出していく。
あの場所は何だったのか。
あそこにいた彼らは本当に夢だったのか。
――その答えを知る者は、誰もいない。
これは完全自己満の小説です