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「クリスマス、デート…」
なんとも、クリスマスらしい響き
「具体的にどこに行くとか、もう決まってるんですか?」
「最寄り近くに遊園地あったじゃん?今日の夜にパレードがあるらしくてさ、ひろくんと行きたいんだよね」
「なんか恋人っぽい…ぜひ行きましょ…!!」
「よし、じゃ決まりね。ひろくん一旦家帰るっしょ?」
「はい、そうですね…服も着替えないとですし」
「じゃ、待ち合わせ駅前にするからそこで合流しよ!」
その会話だけで、高揚感が溢れる。
そうして僕は一旦家に帰り、デートの支度をすることに。
一時間後、白のニットセーターの上にブラックのダウンジャケットを羽織り、スリムなデニムパンツとスニーカーを履いて身支度を整えると
太齋さんの待つ駅前に向かった。
駅前に着くと、既に太齋さんが待っており僕を見つけると手招きをしてくる。
僕もそこに向かう。
太齋さんの格好は、チャコールグレーのウールコートを羽織り、中にはモノトーン系なタートルネックのセーターを着ていて、ボトムスは黒のスラックス、黒のレザーシューズでまとめられていた。
シンプルだけどもお洒落で、大人っぽい太齋さんにとてもよく似合っている。
太齋さん、本当にかっこいいな……
僕は思わず見とれてしまう。
すると、太齋さんが僕を見て言う。
「ひろくんはやっぱり何着てもかわいーね」
「あ……ありがとうございます。太齋さんこそ、かっこいいですよ」
照れながらも、素直に感想を言う。
「そう?嬉しい。じゃ行こっか」
言いながら掌を差し出してきて、僕が手を乗せると、簡単に指を絡められて恋人繋ぎの出来上がり。
なんだかむず痒いほどに恥ずかしいけど、太齋さんと手を繋ぐのは嬉しくって、心がポカポカする。
だから僕も握られた手をぎゅっと握り返して、そのまま僕らは遊園地に向かって歩き出した。
遊園地に着いて、入場ゲートをくぐると、そこには大きなクリスマスツリーが飾られていた。
「夜になったら、観覧車とかもライトアップされるんだってさ」
「え、それ最後に乗りましょ…!」
「賛成、パレードもあるしそれまで遊びつくそ!」
「はい…っ!」
もう太齋さんと遊園地に来ているというだけで楽しくて、満面の笑みで返事をした。
絶叫系が平気だった僕たちは、まず最初に高く上昇するスリリング満点のバイキング、絶叫が飛び交う遊園地の名物・ジェットコースターを3種類ほど乗り尽くし
メリーゴーランドや可愛い系でも遊んだりした。
4時頃には、数々のアトラクションは既に何個か制覇していた。
「ねぇひろくん、次はあそこ行かない?」
太齋さんが指を指したのはいかにもなお化け屋敷だった。
「だ、太齋さん…お化け屋敷はちょっと……」
「もしかして怖いの苦手だった?でもひろくんああいうの好きじゃん」
「いやまぁ……ホラーは嫌いではないですけど、これとそれとは違うっていうか…!」
「じゃあ決まりだね」
半ば強制的にお化け屋敷に連れて行かれると、薄暗い通路を二人並んで歩く。
しかし突然、首筋に冷たい感触が伝わると
僕の体は強ばり、情けない悲鳴をあげてしまい
つい太齋さんの肩にしがみついてしまった。
「ははっ、ひろくんってば怖がりだなぁ」
「本当に無理です早く出ましょ?!」
「大丈夫、俺がついてるから」
そう言って太齋さんは僕の手を優しく握ってくれた。
そんな優しさに安心して
僕はそのまま太齋さんの手を強く握り返す。
そうしてやっとの思いでお化け屋敷を抜けると、出口のところで記念写真を撮ってもらった。
「あ、そうだ!せっかくだからこれ待ち受けにしようよ!」
そう言って太齋さんがスマホの画面に映したのは、さっき撮ったばかりのお化け屋敷の写真だった。
「いやでも僕顔引き攣ってますよ?せっかくの写真なのに…」
「いいじゃん。こういうのは思い出なんだからさ」
そう言って太齋さんはスマホを操作してさっきの写真を待ち受けにした。
正直、好きな人との思い出が写真として残ってるってこと自体
結構嬉しいのに
互いに待ち受けにするとか恋人っぽくてなんかいいな…なんて思う。
そして僕たちは再び園内を歩き始めたのだが、叫んだらお腹空いたねーということでそうしてしばらく歩いていると、ふとカフェが目に止まる。
「あ、あそこのカフェでチェロス売ってますよ!」
「本当だ、じゃあそこで休憩しよっか♪」
そうして僕たちはカフェに入ると、それぞれチェロスを注文して席についた。
「はい、ひろくんの分も買ってきたよ」
「あ、ありがとうございます!」
太齋さんからチェロスのカップを受け取ると僕は早速一口食べる。
うん、やっぱり美味しいな…
なんて美味しさをかみ締めていると、太齋さんが僕の顔をじっと見つめていることに気がついた。
「……なんか、ついてますか?」
「いや、ひろくんってほんとに美味しそうに食べるな~って思ってさ」
そう言われると何だか恥ずかしくなる
まるでそれは彼女を見るみたいな
慈愛に満ちた瞳だった。
太齋さんと居るといつだって楽しくてドキドキして……好きだって思いが溢れてきてしまう。
そんなことを考えているうちに、今度は僕の方が無意識のうちに太齋さんをじっと見つめていた。
「ひろくん?」
「いや…その、なんか……幸せだなって……」
「ふふっ、俺もだよ」
茶色のチェロスは、さっきまでより少しだけ甘い味がした。
そして暫くして…
パレード開始2時間前に差し掛かったときだ。
観覧車の乗車受付最終時間になりますというスタッフの明るく多らかな声がアナウンスによって聞こえてきた。
「丁度いいし、観覧車乗って終わりにしよっか」
太齋さんに頷いて、観覧車まで移動した。
「うわー、すごい人ですね」
「やっぱクリスマスだから皆乗りたいんだろうね」
並んでいる人の列の最後尾に並ぶと、間もなくして僕らが乗り込む番になる。
僕と太齋さんは観覧車に入ると向かい合うように座った。
扉を閉められて
正面を向くと、観覧車という小さな密室空間ということもあって、至近距離に太齋さんが居る。
スタッフの人の掛け声とともに、観覧車がガタガタと動き始める音がし、段々と上昇して行く。
観覧車に乗るのなんて小学生ぶりで、さっきまでおちゃらけていたのが嘘かのように
「お、動き始めたね」なんて言って
窓の景色をを眺める太齋さんにもなんだかドキドキしてしまうけど
やっぱり好きな人と一緒に居るってだけで幸せだ。
そうして観覧車が頂上へと近づくと……僕は思わず「わ……」という声を漏らす。
ここからの景色は絶景で、遠くに見えるイルミネーションや夜のビル群の明かりがキラキラと輝いていてとても綺麗だった。
「綺麗だね」
太齋さんが呟くように言うので「はい、本当に…」と僕も頷く。
太齋さんのことだから、キスでもしてくるのかなと、期待にも似た不安を感じていると、太齋さんは僕の方へ向き直って言った。
「ひろくん、また来年もここ来ようね」
突然そんなことを言われ、僕は思わずドキリとしてしまう。
同時に、来年の約束ができることが凄く嬉しい。
「は、はい、今度は夏にも来たいです」
「いいね、そうしよ」
そんな会話をしながら僕らは暫くの間観覧車に乗っていたが、やがて地上へと戻ってきてしまった。
すると丁度パレードの開始時刻を知らせるアナウンスが流れる。
「あ、もうそろそろ時間ですね」
「うん、行こっか!」
太齋さんに手を引かれて観覧車を降りるとそのままパレードの会場へと向かったのだが
やはりというべきか人が多すぎて中々前に進むことができない。
そんな中でも僕は太齋さんについて行くが…ふとした瞬間に太齋さんの姿が見えなくなる。
(やばっ……はぐれちゃった……?!)
慌てて辺りを見回すも人が多くてよく見えない。
どうしよう……と不安になっていると
突然誰かに腕を掴まれる。
驚いて振り返るとそこには太齋さんが居た。
「ひろくん大丈夫?はぐれちゃったかと思ったよ」
「はは、すみません…」
「まぁ、とりあえずこのまま手繋いでよっか。またはぐれないように」
そう言って僕の手を取ってくれるので、その大きな手をそのまま握り返す。
すると、太齋さんが微笑んで言う。
「俺ね、ひろくんとこうして居れて本当に幸せ」
その言葉でまた僕の心臓は大きく跳ね上がるけども、同時に嬉しくなる。
「僕もです……僕も太齋さんと居れるだけで幸せな気持ちになります」
そう言うと、太齋さんは「そっか」っと嬉しそうに笑った。
そんなやり取りをしていると気づけばもうパレードの開始地点に着いていたようで
周りからは歓声が上がっており
辺り一面人だらけだった。
そしてついにパレードが始まり
様々な衣装に身を包んだダンサーやキャラクターたちが踊りながら目の前を通り過ぎて行く。
「わぁ……すごい、綺麗…!」
「めっちゃ豪華っていうか、イルミネーションみたいに輝いてるね」
そうして暫く眺めていると
「ひろくん、こっち向いて」
と突然太齋さんの声がする。
なんだろうと思って振り返ると、パシャッとシャッターを切る音がした。
「えっ?今写真撮りましたか?!」
慌てて画面を覗けば、スマホのフォルダには僕が太齋さんに振り向いた瞬間の姿が収められていた。
「うん、記念にね」
そう言って笑う彼に、思わずドキッとしてしまう。
「もう…ツーショットならまだしも僕単体の写真とか恥ずかしいんですけど…」
「好きな子の写真は単体で残しておきたいタイプだから♡」
そう言ってまた僕の方を向くので、自分のスマホのカメラアプリを起動し、太齋さんにレンズを向けて、今度は僕の方からシャッターを切る。
「え、俺?」
「だって僕ばっかり写真撮られて不公平じゃないですか、仕返しです!」
そうしてまたシャッターボタンを押すとカシャっという音が鳴る。
すると太齋さんは待ってましたとでも言うようにポーズを決める、ムカつくほどいい画になっていて、撮るのを止める。
「ちょっとー、なんで止めるの。せっかくかっこいいポーズしてんのに~」
「いや、ポーズがなんかうざいので」
「ひど!」
すると太齋さんはスマホを取り出して何やら操作をしている。
「でも俺はひろくんの可愛い写真ゲットしたもんね~」
そう言って見せられた画面には先程の僕の後ろ姿以外にも、太齋さんの方を向いて笑っているところなどが映し出されていた。
「い、いつの間に…!」
「……もう、消してくださいよそれ」
「えー?どうしよっかなぁ?」
そんなやり取りをしながらも、しばらくすれば僕らはパレードの目玉とも言えるダンサーに釘付けになっていた。
ダンサーは華麗なステップを踏みながらダンスを披露しており、その姿はとても格好良くて僕も思わず見惚れてしまうほどだった。
そしてダンサーが最後のポーズを決めると、僕ら含める周りから拍手喝采が起こる。
それから暫くして、パレードが終わりに差し掛かった。
辺り一面が明るく照らされたかと思うと、また暗くなったりを繰り返していて
今度は大きくライトアップされ、ピンクや金色に輝く馬車とともにシンデレラのような綺麗なドレスに身を包んだ女性が姿を現した。
黄色い声援とシャッター音が飛び交う。
「太齋さん!すっごく綺麗ですね…馬車とかもすごくキラキラしてて……!」
思わず太齋さんの手をギュッと握りながら、隣の太齋さんに振り向いてそう言えば
唇に柔らかい感触が伝わってきた。
一瞬何が起こったか分からなかったけど、それは間違いなくキスされたのだと分かると
一気に顔が熱くなるのを感じた。
やがてゆっくりと離れると、太齋さんは悪戯っぽく笑って言った。
「ひろくんがあまりにも可愛いからキスしちゃった」
その言葉に、思わず顔を覆ってしまう。
「も、もうっ…………」
「ごめんごめん、でもみんなパレードや自分の恋人に夢中で、誰も見てないよ」
そんなやり取りをしているとパレードは終わりを迎えていたようで
周りの人も徐々に散って行った。
すると突然太齋さんが僕の肩を抱き寄せてきて、耳元で囁くように言う。
「ひろくん顔真っ赤じゃん、可愛いね♡」
「もう……っ!誰のせいだと思ってるんですか……!」
それを見ると太齋さんは満足気に笑って言った。
「俺でしょ?」
「…不意打ちとか、反則ですよ」
そんなやり取りをしながら、僕らは遊園地を後にしたのだった。
そうしてあっという間に駅前に到着した。
「それじゃあ僕はここで……」
「うん、今日はありがとね、ひろくんおやすみ」
「こちらこそ、楽しかったです…!はい、またお店で。おやすみなさい」
手を振って太齋さんと別れて帰路に着くと、LINEの通知が鳴ったので、ポケットからスマホを取り出す。
通知1と表示されている太齋さんとのトーク画面を開くと、今日撮ったツーショット写真が送られていて
思わず頬が緩んだ。
(本当に今日は最高のクリスマスだった…太齋さんからキスされたときは、びっくりしちゃったけど…)
恋人としては、初めてのキスだった。
舌を入れられることもなくて、すごく優しいキスだった気がする…
(気持ち、よかったかも…)