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アルバムの最後のページをめくると、お父様からの手書きのメッセージが綴られていた──。
一臣へ
このアルバムを見ているということは、おまえに共に愛し合う人ができたということだろうか。
私は、おまえのことを小さい頃から心配していた。医者という職業柄、子供のために充分な時間を取ってやるようなことができなくて、おまえに家族としての愛情をあまり教えてやれなかった。
それでおまえは、上手く誰かを愛することができないんじゃないかとずっと気にかかっていた。だからおまえに本当に愛し合える人ができたのなら、こんなに幸せなことはないと感じている。
一臣、おまえを愛しているよ。それはお父さんだけじゃない。頑なだったかもしれないけれど、おまえを決して見捨てるようなことのなかったお母さんも、それはきっと一緒だから。
おまえのことを、家族として心の底から愛している。
それから、このアルバムを共に見ているだろう、一臣の愛する人へ
幼い一臣は、可愛かっただろう? 私の愛しい息子だ。一臣のことを、どうかよろしく頼みます。
二人が愛情に満ち溢れて、末永く幸せでいられることを、父として願っている。
政宗 樹
追伸
この家の裏手に行ってごらん。愛し合うふたりに、秘密の贈り物をあげよう。
「ふ…うっ…」
堰を切って溢れ出す堪えられない涙に、彼がメガネを取って顔を両手で覆う。
「……先生」
小刻みに震える肩を抱くと、「こんな…どうして……」くぐもった掠れ声が喉の奥から絞り出された。
「……大丈夫ですか…先生…」
ひしひしと痛いくらいに切ない想いが伝わって、彼の肩を抱いた手にぎゅっと力を込める。
彼がどれだけお父様のことを愛していたのか、そうしてお父様もまた彼のことをどれほど愛おしく感じていたのかが、綴られた文面から滲み出ているようで、胸が打たれるのを禁じ得なかった。
「……とても愛されていたんですね…」
涙が止まらない彼の頭を、そっと肩にもたせかけて口にすると、
「愛されていたんですね…とても」
同じように返して、覆っていた手を外し、泣き腫らして赤く潤んだ瞳を見開くと、彼は緩やかに口角を上げふわりとその顔をほころばせた……。