テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
129
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
穏やかな春の日差しがカーテンの隙間から差し込み、まぶたの裏をじんわりと照らす。その暖かさに背中を押されるようにして、俺はゆっくりと意識を浮上させた。
遠くで鳥の鳴き声が聞こえる。どこかの車のエンジンが回る低い振動音。窓の外では、通学中の学生たちの話し声がかすかに混じっていた。
平凡な朝だ。
俺、ちょこぺろは大学二年生。講義には真面目に出て、単位も落とさないように計画的に取っている。友達もいないわけじゃないが、特別多いわけでもない。
唯一誇れることがあるとすれば、とあるゲームでトップクラスの実力を持っていることくらいだ。もっとも、それが現実で役に立つかと言われれば答えは決まっているけれど。
「ふああ……もう朝か」
大きく欠伸をしながら、俺は寝返りを打つ。枕元に転がっているスマホに手を伸ばし、無意識のまま画面をタップした。
ぼやけた視界の中で、デジタルの数字がゆっくりと鮮明になっていく。
10:02
その瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。
「やっば! もう十時じゃん。授業!」
反射的に体を起こす。頭の中で時間割が高速でめくられ、今日の一限の講義が浮かび上がる。完全にアウトだ。布団を蹴飛ばし、ほとんど転げるようにしてベッドから降りる。寝癖のままでも構わない、顔も洗ってない、そんなことどうでもいい。とにかく一秒でも早く家を出ないと。
ドタドタと音を立てながら部屋を飛び出し、階段へ向かう。手すりに手をかけ、一気に駆け下りようとしたそのとき、
ぐらり、と世界が傾いた。
「え!? 地震!?」
次の瞬間、床が跳ね上がるように揺れた。壁が軋み、ガタガタと何かが倒れる音が響く。立っていることすらできないほどの強い揺れだ。
「嘘でしょ……!?」
反射的に手すりを掴もうとするが、指先が空を切る。足元が滑り、重力に引きずられるように身体が宙に投げ出された。
階段の段差が視界の端で流れていく。
――落ちる。
そう思った瞬間、ぎゅっと目を閉じ、来るはずの衝撃に身を固くした。
けれど。
(……あれ?)
いつまで経っても、痛みが来ない。
代わりに感じたのは、やけに柔らかい、妙に湿った感触だった。まるで濡れたカーペットの上に放り出されたような、不快な感覚。
こんなもの、家にあっただろうか。
ゆっくりと目を開ける。
そこに広がっていたのは、見覚えのないくすんだ黄色の壁に囲まれた、無機質な空間だった。
蛍光灯のような白い光が、天井のどこからともなく均一に降り注いでいる。影がほとんどできない、不自然な明るさ。鼻をつくのは、古びた紙と湿気が混ざったような匂い。
そして何より、静かすぎた。
さっきまで聞こえていたはずの生活音が、何一つ存在しない。
「……ここ、どこだよ」
思わずこぼれ出た声は、黄色い壁に吸い込まれるようにして消えていった。