戦争描写ガッツリ
戦争賛美、政治的意図等無し!!
締め切られた窓、手元だけを照らす灯、机や棚にずらりと並べられた書類。淀んだ空気を醸し出すその部屋に一人の男がある選択を迫られていた。
「…………」
眉間に皺を寄せ、書類を鋭く睨みつける。そして幾度目かの深いため息をつき、椅子の背もたれにもたれ掛かる。ギシ、という音が静かな部屋に響き渡った。東京は天を仰ぎ再びため息をつく。
国家存亡に関わり、尚且つ一刻を争う重すぎる決断。
ポツダム宣言───。
1945年7月26日にアメリカ、イギリス、中国から日本へ向けられたその発表は軍国主義の除去、日本国領土の占拠、日本国軍隊の完全な武装解除、民主主義の復活・強化が要求されたものだった。
広島、長崎に原爆が投下された今、アメリカから
“これ以上この宣言を黙殺するようなのであれば、ヒロシマ、ナガサキのようにまた原爆を投下し、さらに被害を拡大させるぞ。”
と脅されているようなものであった。
ならばこの宣言を受諾すれば良いではないか。
そう思うかもしれない。でも俺はこれを受け入れるのには抵抗があった。それは
国のトップである祖国様の扱いが分からなかったから。
祖国様が殺されれば確実に日本は混乱に陥り、何が起こるかも想定がつかない。
かと言ってこのまま渋っているようではさらなる被害が出かねない。多くの被害を出さないようにするためには受諾するしかない。でも受諾したら、祖国様や自分たちを含めた都道府県、いわゆる国民もどのような扱いを受けるか分からない。
まさに究極の二択だったのだ。
「とりあえず1度会議を開くべきか」
(このようなことをする時間すらあまりないのだが……。)
(やむを得ん……)
そういって東京は立ち上がり、会議の招集をかけようとした。が、その瞬間、雷のような音をたてて扉が開かれた。
「東京!緊急電だ!!」
扉の方へ目をやると、壁に手をつき、もう片方の手に紙を握り、肩を上下させている千葉の姿があった。服装が所々乱れている千葉からは全力で走ってきた事が伺え、余程の緊急事態であることを悟らせる。東京はこれでもかというほどに胸騒ぎがした。
「たった今、ソビエト連邦が対日参戦を発表したッ……!!!」
「はッ………?」
突然の想像を超える衝撃的な情報に、頭の処理が追い付かず、言葉を発することが出来ない。呆然と立ち尽くすしかない東京のその目を、千葉は視線を逸らすことなく見つめた。そして東京は震える唇を動かして千葉に問う。
「………何故、ソ連が……?」
「日ソ不可侵条約はどうした!?」
「まさか条約を無視して……!?」
「そのまさかなんだよ……東京……」
「ッ……!」
「ソ連は米国と英国から要求を受けていたみたいで、そこで合意したヤルタ会談に基づいて……といった経緯らしい。 」
「いつ北海道に侵攻されてもおかしくないと思う……。」
「くそッ……!」
ドイツやイタリアが降伏した今、世界全体が敵と同然。残っているのは日本だけ。味方はいない。
そんな中、唯一敵ではなかったと言っても過言ではない国─ソビエト連邦が対日を宣言、つまり日本に宣戦布告をしてきたのだ。
「東京ーッ!!」
「埼玉ッ……!」
先程の千葉同様、バタバタと足音をたてて、勢い良く部屋に飛び込んできた埼玉。その光景に東京は酷く既視感を覚えた。
「おい…埼玉、まさか………」
「今、京都から電報が届いた!!」
「大阪が米軍からの大空襲を受けたとの事!!!」
「ッ……!」
「そんなッ……!大阪がッ……!?」
「京都によると現在、京都を含めた、奈良、滋賀の3人が大阪のもとへ急行している模様……」
「……それで千葉の方は…?」
「そっちも……なにかあったんだろう…?」
電報を伝えた埼玉は恐る恐る尋ねた。
しばし沈黙が流れる。
駆けつけた時の東京と千葉の表情は、明らかに尋常ではなかったことに埼玉は気づいていた。先程から微動だにしない東京、そして千葉。先に先陣を切らして口を動かしたのは東京だった。
「埼玉。」
「良く聞いてほしい。」
東京は俯きながら言った。
「ソ連が……対日参戦を発表したそうだ。」
息を飲む声が聞こえた。
埼玉の顔が絶望の色に染まっていく。
広島、長崎への原爆投下、ソ連による対日参戦、そして大坂への空襲。東京の頭には“絶望”の二文字がよぎっていた。それは千葉や埼玉も同じであろう。
「なぁ、少し……お前らに聞きたいことがあるんだ」
「何でしょう……?」
「お前らだったら……どうする?」
「「……」」
「原爆を落とされて、裏切られて、
空襲を受けて………」
「味方なんかいない。敵である俺たちに助けてくれる奴らは一人もいない……。」
「降伏するしかない……。でも祖国様がどのような扱いをうけるか分からない……」
「それどころか俺たちだって米国の植民地に置かれる可能性だってある……」
「こんな状況で……
お前らだったらどうする……?」
「ふぅー」
「さすがのJapanもここまでやったら降伏するかな。」
「早く降伏しちゃえばいいのに……」
そういってアメリカは手元にある資料に目を通した。
“ソ連が対日参戦を発表”
その文字を見たアメリカはニヤりと口角をあげる。
「ついにJapanも裏切られたか……」
「可哀想に……」と呟くのと裏腹にアメリカはなんだか嬉しそうだ。というのも、ソ連に日帝を裏切るように動かしたのは、他でもないアメリカ本人だ。それをまるで他人事のように、ましてや楽しそうに呟く。そして手元にあったコーヒーを一気に飲み干した。
「ま、先に向こうが真珠湾に攻撃してきたからねぇ。」
「自業自得だな。」
「あれ?でも、日米対立の要因を作ったのは俺がJapanに石油の輸出を止めたからだったっけ。」
「しかも俺だけじゃなくて中国と親父とオランダも一緒にやっちゃったからなぁ……」
「まあいいや。」
「何がどうであろうと敵は敵。」
「どうやって占領しようかなー」
「非軍事化と民主化は絶対でしょー?」
「……そうだ。」
「日帝の処罰も考えなきゃ」
そういってアメリカはコーヒーを入れ直すために立ち上がる。アメリカが立ち去った机の上は
“ブラックリスト作戦”と書かれた資料が無造作に広がっていた。
“降伏後、日本の激しい抵抗が予想される。”
“特に特攻隊。”
“抵抗する敵は皆 粉砕せよ。”
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第2話、ご覧いただきありがとうございます!
少し補足というか豆知識!
今回取り扱ったソ連の対日参戦、ストーリーの都合上8月14日ってことになってるけど、実際は8月9日です。
対日参戦は日本にとって衝撃的だったのは事実なようですが、何となく参戦するんじゃないかと察してはいたそうです。
でも当時の日本は、簡単に言えば「そんなことはないだろう!」「参戦するにしても、条約の期限は切れてないしまだ先だろう!」みたいな都合の良い解釈をしてしまったようで(諸説あり)、このような結果を招いてしまったらしいです。
まあ要するに油断してたって事ですかね……?
それから最後のアメリカのシーン、「ソ連に日帝を裏切るように仕向けたのはアメリカ」と記述しました。1945年2月に行われた米英ソのヤルタ会談で、アメリカ(ルーズベルト)はソ連(スターリン)に南樺太と千島列島をソ連に与えることを条件に対日参戦をさせたと言われています。理由は日本に早く降伏させるためとかなんとか。(よく分かんないだ、ごめんね)
まあこの動きが色々面倒臭い事柄を引き起こす原因となっていくんですけど……。それについては後々取り扱っていきます!お楽しみに!
という感じで補足とか豆知識とかは以後、物語の最後に記載していこうと思います!
少しでも勉強のためになるといいな!
(これ書いてる本人も勉強になってる笑)
ちなみに今日、3月10日は東京大空襲から80年です。明日は東日本大震災ですね、。
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