すきどうし

寒さもだいぶ落ち着いて、春めいて来たあるオフの日。向井は渡辺と一緒に、公園に来ていた。

向井の手にはカメラ。

向井は付き合って初めての屋外デートに、ポートレート撮影をねだっていた。

💙休みって感じがしない

渡辺は憎まれ口を叩くが、元来、写真を撮られるのは嫌いではない。渡辺は向井の前で様々なポーズを撮る。笑顔も、真剣な顔も、甘えたような表情も。

プライベートがテーマと聞いていたから、自分でもかなり心を開いた内容になってると思う。

🧡ええやん、どれもサマになっとる

自然光で撮りたいと思ったから、あまり機材は持って来ていない。大がかりな撮影になると周囲に人が集まって来てしまう。

せっかくこうしてお忍びで来ているのだから、それは二人としても避けたかった。

ある程度枚数を撮ったところで、一休み。

向井が作ってくれたサンドウィッチをベンチで摘む。

💙ん！美味い

🧡よかったわ

💙マスタードが効いてるな

🧡わざわざ二重で塗ってあんねん

💙へえ、手間かかってるんだ。野菜もたっぷり摂れるし、ありがとう康二

🧡コーヒーも飲む？

💙飲む飲む

向井の淹れるコーヒーは美味しい。

そこらのバリスタに負けないのじゃないかと渡辺は真剣に思っている。

💙はー。落ち着くなあ

🧡それはよかったわ

付き合って3ヶ月ほど経つが、ちゃんとしたデートは数えるほどしかしていない。

渡辺は落ち着くと言ったが、向井はまだ緊張ぎみだ。

色々なことがあって始まった二人の恋だが、向井にとって、渡辺は未だ高嶺の花。

アルビオンだのスワロフスキーだのと魅力的な企業が渡辺のスポンサーにはついている。

そうしたいわゆるビジュアルメインの仕事を次々に獲得していく渡辺の美しさは今や世間が認めていた。

渡辺の活躍はどのメンバーより嬉しいが、遠くに行ってしまうような気がして向井には寂しい気持ちもある。多忙になって会える時間が減ってしまうのも悩ましいところだ。

しかしそれは向井も同じ。

🧡俺な、今年は結構タイに行くねん

💙あー、そうだよな。主演、おめでとう

向井は渡辺に抱き着いた。

🧡寂しないの？しょっぴーは

甘えるように向井は尋ねる。

渡辺は少し考えてから言った。

💙康二が忙しくしているのはいいことだろ

🧡……

💙頑張れよ

ほら。

寂しないんや…。

付き合い始めてから向井に徐々に蓄積していく不満。

楽しかった撮影会も急につまらなく感じて、向井は適当なところでお開きにした。

渡辺はこの後約束があるからと言うと、そのまま帰って行ってしまった。

ほんの数時間の逢瀬。

向井も夕方からは別の仕事がある。機材を車に積んで、落胆したまま帰った。

🧡しょっぴーからちゃんと好きって言われたの一度だけや…

胸にまた不満の種を植えて。

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💙指輪、じゃ重いよな

❤️てか、それ俺に聞く？

💙だって他に言えるやついないもん

❤️はいはい

都内のハイブランドのショップに渡辺と宮舘は来ている。アクセサリーにはあまり詳しくないので、宮舘の案内で向井に贈るプレゼントを選んでいる。

会えない時間に少しでも向井を寂しがらせないようにお揃いで身に付けられるものは何かないかと来ていたのだ。

❤️そうなると、ネックレスかブレスレットかなあ

💙うーん

❤️康二はどっちでも喜ぶと思うよ？

💙そうだな…あ！あれきれいじゃない？

❤️お、いいね。チェーンが細くて何着ても合わせられそうだし

💙よし、決めた

同じものをふたつ、ではなくて、ブレスレットは向井に、同じデザインのアンクレットを自分用に渡辺は買った。

❤️お揃いって言ってたのに

💙本当のお揃いはダメだろ…その、いろいろと

渡辺は恥ずかしいので、さりげなく揃えたい。足首なら裾の長ささえ気をつければそんなに目立たないと考えた。

いい買い物をした、と渡辺は思う。

康二の喜ぶ顔が楽しみだと笑みがついこぼれる。

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一方の向井は、目黒に相談中。

🧡しょっぴー俺のこと好きちゃうんやないかな

から始まる愚痴を目黒は延々と聞かされている。

ビールを片手に饒舌に話す向井を、半ば呆れながら目黒は話を聞くことに徹している。

かれこれ30分ほど向井の独演会は続いていた。

🖤しょっぴーにはしょっぴーの付き合い方があるんじゃない？

🧡それが合わん、って言ってるんや

🖤じゃあ、別れたいの？

🧡なんでそんなこと言うん？？？

すぐに涙ぐむ向井。

地雷だらけなので、目黒としては黙って辛抱強く聞いているしかない。

🧡付き合えたら終わりちゃうよな、そこからが始まりやもんな

🖤何を当たり前のことを（笑）

🧡だって難しいんやもん！めぇめぇ〜！！

🖤はいはい

その日は夜遅くまで目黒は向井に付き合った。

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🧡夕飯、食べてくやろ？

💙うん、食べる。カレー？

🧡そうや

向井の家で会うのは撮影会以来。

なんだかんだ会えるのは嬉しいので、向井はキッチンでいそいそと料理に励んでいる。

昼過ぎに仕事が終わってから渡辺が家にやって来るまで、ことことと煮込んだカレーはかなりの自信作だ。スパイスから自分でこだわって調合した。

味見をしたところ、甘すぎず、辛すぎず、マイルドながら深みのある味に仕上がっていた。

🧡ささっとサラダも作るから、写真でも見て待っててや

💙うん、あ、これ？こないだの

渡辺はテーブルに置いてある写真を見始めた。

柔らかい自然光の中に、様々な自分が写っている。色んな表情の自分がいるが、どの写真にも共通しているのは

💙なんか、安心してるな

ということ。

向井の隣りにいる自分は肩の力が抜けていてとてもリラックスして見える。表舞台の渡辺とは違って、表と裏とをまぜたような感じ。

それでもまだ少しの緊張はあったから、そのうち本当の自分の姿を見ることができるだろう。

次の撮影が楽しみだ。

🧡お気に入りの一枚は引き伸ばして、寝室に飾ってあるで

向井が照れながら言った。

渡辺はさっそく見に行く。

噴水の前で、両手を上げて笑ってはしゃいでいる自分の写真がそこにはあった。

💙おいおいあれは恥ずいだろ

🧡どんな瞬間もしょっぴーは綺麗やん

💙客とか来たら見られて、変に思われる

🧡んー、しょっぴーはメンバーやし、そうでもないんちゃう？

いやいやあれは、となおも言おうとした渡辺の前に、完成したカレーとサラダが置かれた。

💙美味そう

🧡美味いで、食べよう

💙いただきます

向井が渡辺の一口目を見守り、渡辺がその美味しさに驚くところまでがセット。

渡辺は向井の期待通りに、目を見開いて感嘆している。

💙店だ店だこれは店の味だ

🧡な？自信作や。どんどん食べ

それから二人で食後のコーヒーを楽しみながらああだこうだと話をしていたら、渡辺が思い出したように言った。

💙康二、そろそろタイに行くだろ？

🧡今週末からや。寂しい

向井は渡辺に抱き着く。渡辺は向井の頭をぽんぽん、と優しく撫でる。

💙ちょっと腕出して？

🧡腕？

向井の右腕に、渡辺は件のブレスレットを巻き付けた。

💙はい、プレゼント

🧡…きれいなあ、ありがとう

💙うん、俺の右足も見て

🧡……

向井はおそるおそる渡辺のズボンの裾を少し上げてみた。

🧡お揃いや！！！

💙これで離れてる間も一緒ってことで

渡辺は顔を逸らすと、空いた皿を持って洗い物をしにキッチンへと逃げた。

一方、向井は反応が一瞬遅れて、しかし、一気に胸が苦しくなって真っ赤な顔でテーブルに突っ伏した。

向井は冷たいテーブルに火照った顔を押し付け、込み上げる喜びを必死に噛み殺している。

とてもじゃないが今のだらしない顔は渡辺には見せられない。

🧡もう、そんなん、反則やん……

渡辺が好きだ。

好きだなんて言葉では足りなくなるくらいに。自分は世界一の幸せ者なんじゃないかと思った。

その夜。

渡辺が帰った後、目黒は今度は長々と向井ののろけ話に付き合わされることになるのだが、渡辺はそれを知らない。

おわり