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生徒会室での「拒絶」から数日。
結城は、一ノ瀬に嫌われてしまったという確信に近い絶望の中にいた。廊下で見かけても目を逸らし、なるべく視界に入らないように過ごす日々。
そんな日の放課後、結城は校舎裏の物置影に呼び出されていた。
「結城くん。……ずっと、転校してきた時から好きだったんだ」
目の前で顔を赤くして告白しているのは、
同じクラスのバスケ部の男子だ。
明るくて人気者の彼からの言葉に、結城は困惑し、視線を泳がせる。
「あ、えっと……ありがとう。でも、俺……」
結城の脳裏に、あの冷たく、けれど気高かった生徒会長の横顔が浮かぶ。
「好きな人がいるから」と断ろうと口を開きかけた、その時だった。
「……そこで何をしている」
氷点下の温度を孕んだ声が、冬の空気を切り裂いた。
振り返ると、そこには書類を抱えた一ノ瀬が立っていた。いつも通りの完璧な佇まい。けれど、その瞳は見たこともないほど暗く、鋭い。
「あ、一ノ瀬先輩……!」
「生徒会長……っ」
告白していた男子生徒が、一ノ瀬の放つ威圧感に気圧されて数歩後ずさる。
「ここは告白の場ではない。下校時刻も近い、速やかに立ち去れ」
「す、すみません!」
男子生徒は逃げるようにその場を去っていった。残されたのは、凍りついたような沈黙と、結城、そして一ノ瀬の二人だけだ。
結城は気まずさに耐えられず、俯いて隣を通り過ぎようとした。
「邪魔してすみませんでした、失礼しま――」
その瞬間。
強い力で腕を掴まれ、結城の背中が冷たい校舎の壁に押し付けられた。
「……っ、痛……先輩?」
見上げると、そこには余裕を失った一ノ瀬の顔があった。整った眉が苦しげに寄せられ、掴まれた腕から指の震えが伝わってくる。
「……返事をするつもりだったのか」
「え?」
「あんな男の告白に、お前は頷くつもりだったのかと聞いている」
絞り出すような声。一ノ瀬の瞳には、怒りと、それ以上に深い「飢え」のような色が混じっていた。
「ちが、違います! 断ろうとして……。それに、先輩には関係ないじゃないですか。俺のこと、あんなに嫌そうに振り払ったのに!」
結城の叫びに、一ノ瀬が絶句する。
一ノ瀬は自嘲気味に口角を歪めると、結城の頬に震える手を添えた。
「嫌ってなどいない。……嫌えるはずがないだろう」
至近距離で見つめ合う二人の吐息が、白く混ざり合う。
「あの日、お前に触れられて、自分がどうにかなりそうだったから遠ざけたんだ。……だが、他の男にあんな顔を見せるくらいなら、いっそ_」
一ノ瀬の指が、結城の唇をなぞる。
それは「生徒会長」という立場も、理性も、すべてをかなぐり捨てた男の目だった。
「お前を、どこかに閉じ込めてしまいたい」
初めて知る、先輩の独占欲。
結城の心臓は、恐怖ではなく、甘い期待と困惑で激しく脈打ち始めた。