僕が傘になる 音になって 会いに行くからー…
今日も一人で、意味もなく早起きをする。目覚ましとスマホのアラームをどちらもかけたから、いつもよりスムーズに起きれた気がする。
重い体を持ち上げて寝室のドアを開けると、うざったい程の明るい日が自分の肌に刺さった。…やっぱり、最悪の目覚めかもしれない。正直、晴れより雨の方が好きだ。なんとなく、自分の中の愁いを綺麗に洗い流してくれる気がして。でも、生憎僕に傘を差し出してくれるような大切な人は居ないんだけどね。
家族が起きる前に、学校に行く準備をする。髪型を整えたり、制服に着替えたり…、そうこうしていると家族が順番に起きてきて、いつもの生活が始まる。
親に「おはよう」と笑顔で言うと、あちらも笑顔で返してくれる。…僕の目元にはうっすら隈が出来ていたが、それには気付かないようだ。逆に、大袈裟にされる方が面倒臭いので有り難いんだが。
お母さんの作った朝御飯を食べる。…正直、最近味が分からなくなってきていたのだが、「それ、美味しいでしょ?」と自慢気に言われたので頷いて見せた。
ご飯を食べ、ニュースを見たり雑談をしている間に学校に行く時間になっていた。渋々ふわふわのカーペットから腰を上げ、リュックを背負う。何時ものように、スキンケアだの何だのをしている家族に「行ってきます」と聞こえるか聞こえないかくらいの声量で言う。そのまま、玄関の重たいドアを押して外へ出ると、ドアの閉まる「ガチャン」という音と共に「行ってらっしゃーい!」とうるさいほどの声が聞こえた。
学校に着くと、案の定誰もいなかった。そりゃそうだ。めちゃくちゃ早い時間に着いてるから。
…今日、僕一人だけとか無いかなぁ…とか考えながらお気に入りの小説を読んでいると、朝の早い、いつものメンバーが教室に入ってきた。…別に仲が良いわけではないが、逆に悪いわけでもないのでぺこりと「おはよう」の意味でお辞儀をする。そうするとやはり彼方も慣れたようにお辞儀を返してくれた。
その後、学校が終わり、道端でたまっていたクラスメイト達の仲間に入れて貰いながら帰った。
だけど、道が違うのは僕だけで、会って早々分かれてしまった。冬にしては少しだけ暖かい空気を感じながら早歩きで家へと向かう。クラスメイトは別の道に行ったし、隣に誰か居るわけでもないので、最近聴き始めたアーティストの曲を口ずさみながら歩いていた。
家の前まで着くと、リュックのポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。右側に回し、強めに手前に引っ張って玄関に入る。そのあと、念のためもう一度鍵を閉めた。
二階に上がった後、やらなきゃいけないことはあったがやる気が起きなかったので、小さい音でお気に入りのプレイリストをかけた。
心の中で巻き起こり始めている黒い感情に気付かぬように…そっと、音楽で蓋をした。でも、夜になるとその効果は切れちゃうみたいで。あっという間に暗闇に呑み込まれて、苦しくなるんだ。…そういう時は、ね。一人で書き消せるように、優しく、深く、月の光で輝いている白金色の刃を腕へ滑り込ませる。別に、解決できるわけではないと解っているけれど。でも、独りで苦しさを書き消すためにはその鮮やかな血が流れていくのを見ないと生きてる心地がしないんだよね。だから、今日も一つ、罪を償って、傷を増やす。
「愛されたい」という感情に気付いた。「愛されたい」と唄った。「愛している」のは僕一人だけと知った。「愛されたい」ってそんなに我が儘だと思う?僕は、分からないんだ。正しい「愛し方」も「愛され方」も知らないから。
…たまに、自分の可哀想な状況に酔ってるんじゃないかって思う。そんな夜程、傷は増える。ぐるぐると、頭の中で余計なことを考えてそのままいつの間にか眠りについている。そんな変わらない「日常」に嫌気が差した。だから、僕は生きる事を辞めようとしたんだ。
自分の中で決めたタイムリミットはあと三日。それまでに色々な準備に取りかかった。
しかし、天は味方してくれないらしく、この三日間、散々な事が起きた。
何時ものように朝早く学校に行くと、学校のヒエラルキーのトップのwki、くん?が居て。取り敢えず挨拶して本読もうと思ったら、話しかけてきたんだ。
「…ねぇ、omr君だよね?曲作ってるってまじ?」
と。絶対に初見で話すべき内容ではないと思うのだが。
「…うん、wki、?くんだっけ。」
「えっ!名前覚えてくれてるの?そう、俺、wki hrt、よろしく!…omr君の下の名前は?」
僕はあまりにも典型的なその自己紹介に少し驚いた。それと同時に、やっぱり一軍のwki君は僕とは違ってイケメンだなぁ、と感じてしまう。
「あぁ、僕、omr mtk。よろしく、wki君何て呼べば良い?」
「wkiで良いよ!…mtkって呼んでもいい?」
僕は突然の名前呼びにびっくりしたが、一軍はそんなもんなのかなぁ、と一人で納得していた。
「良いよ、wki…宜しくね。」
そう言って微笑むと、彼の顔が一気に赤くなって黙りこんでしまった。心配になった僕は、wkiのおでこに手をくっ付ける。
「…?大丈夫?熱あるかなぁ…」
首をかしげながらwkiを見ると、さっきよりも赤くなっていた。本当に大丈夫かと心配になってきた頃、wkiがやっと口を開いた。
「…あ、ありがと!大丈夫だよ、宜しくね!」
「うん、?」
それから、何故だかwkiは沢山の友達がいるはずなのに毎日僕と一緒に登下校するようになった。それが、友達なんて一人もいなかった僕には凄く嬉しかった。だから、彼は一気に僕の中での「親友」にのぼりつめた。若井と仲良くなっていく内に最初の三日のタイムリミットはとうに過ぎていたけれど、僕は、その間にwkiに自分の抱えている闇や、色んな事を話した。どんなに暗い話をしても、wkiは静かに頷きながら話を聞いてくれた。その時、僕はやっと少しだけ光が見えた気がした。でも、その一週間ほどたった今、僕は一人で通学路を歩いている。…今にも泣きそうだった。今日、初めて「一緒に帰ろ?」という誘いを断られたんだ。どうやら用事があるらしくて、友達と遊びに行くんだって。僕も行かないかって誘われたけど、若井と二人になれないならいいやって思って帰った。でも、ホントは凄く悲しくて。僕ってこんなに弱かったかなぁ?って。なんで、恋人でもないのにこんなに嫉妬しちゃうんだろう、って。
こんなドス黒い感情が僕の頭を支配していく。そして僕は、wkiと出会ってから開けることはなかった戸棚に手をかけた。…そこには蛍光色の粒が入った瓶やカッターナイフが入っていて、僕は迷いもせずカッターナイフを手に取り、ベッドの上でその刃を腕へ滑らせた。久しぶりで少しだけ痛みを感じたけれど、今の僕にはどうでもいいことだった。時刻は夕方で雨が降っていたけど、何故か明るかった。でも、その明るさにも嫌悪感を覚えてカーテンを閉めた。
…何時間経っただろう。床には血と、血だらけのカッターナイフが落ちていた。腕の傷はいつもより深く、沢山付いていた。顔を洗おうと洗面所に向かうと、鏡に写ったのは、涙でぐちゃぐちゃのとても醜い顔の僕。こんな顔、wkiが見たら幻滅しちゃうよね。そう考えながら長袖に着替えていると、インターホンが鳴った。今の時刻は6時47分。微妙な時間だ。重い体に鞭を打って立ち上がり、インターホンを確認する。…wkiだった。何となく期待はしていた。wkiは僕の事が心配になって、家に来てくれるんじゃないか、って。でも、今の僕にはwkiを笑顔で迎え入れるほどの精神力も体力も残っていなかった。
かちっ、ザー、
「はい、wki?」
「mtk!大丈夫…?家、入れてくれない?」
「…ごめん、中はちょっと…。どうしたの?」
「mtk、今日一人で帰らせちゃったから、心配で…」
なら、一緒に帰ってくれれば良かったのに。そんな感情には蓋をして、出来るだけ明るめの声で答える。外の雨は、小雨になっていた。
「大丈夫だよ!久しぶりの一人時間も楽しかったよ!」
wkiはそんな僕の言葉に安心したのか、友達と遊びに行った話を自慢気に話し始めた。wki、寒くないのかな。傘を持っているwkiの肩は少しだけ濡れているのに、その声はいつもより明るかった。聞きたくないなぁ、とは感じつつも、適当に相槌を打っていたその時、お腹に猛烈な痛みを感じた。
「うん……ッ!?いッ…ぅぐ、ぁ、ッはぁ、ひゅっ…」
僕は感じたことのない痛みに、呼吸をするのもままならなかった。wkiはそんな僕の異変に気付いたのか、インターホン越しに何か言っている。その言葉が「ドア開けて!」と言っているのが分かった瞬間、僕の視界は完全にブラックアウトした。
その後、何時間か後に目を開けたら、目の前には心配そうにこちらをのぞいているwkiの顔だった。それに僕は思わず、叫んでしまった。
「っうわぁ!?…なんだ、びっくりしたぁ、」
「うぉ、いや、こっちのセリフだよ…だって、急にインターホン越しに倒れたんだもん!俺、びっくりしたんだからね!」
そう言うwkiの顔は何だか、いつもより子供っぽくて思わず笑みが溢れる。
「…何で笑ってんだよ、俺、ホントに心配したんだからな!」
…やっぱり、何だか幼いのだ。そんなwkiを見て、かわいいなぁ…と、思ってしまう。
「俺はかわいくない!かっこいい目指してんの!」
「あれ?声に出てた?」
「うん。」
どうやらこの思いは声に出てたらしい。その後、ひとしきりwkiと話して、なんとなく沈黙が流れたその時。wkiが口を開いた。
「…あのさ…、それ、」
僕は自然とwkiの目線を追う。その先にあるものが分かった途端、僕の顔はすぐに青ざめていった。
「umbrella.」新連載
始めまして。Millyです。この作品が初めての投稿となります。
投稿は気が向いたときにするつもりなので遅くなってしまうかもしれませんが、何卒よろしくお願いします。
「umbrella.」是非ご愛読ください。
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