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しばらく経ちましたが、レオノラは未だうたた寝の途中です。その間にも胸に抱かれた神器はせっせと力を吸い上げて世界へと注ぎます。普通の神であれば、ある程度力が吸われれば気付きそうなものですが、そこは恵まれし女神レオノラ。底無しとも言うべき力と生来の鈍感のおかげで、まったく疲れを感じることも無く、力はどんどん降り注ぎます。神の力は奇跡の源。その力を強く受ければ、猿は勇者となって大地を裂き、トカゲは立派な龍となって空を翔けます。そんなものを際限無く吸わせればどうなるのか。もちろん、それが原因で何度も何度も失敗して世界を創ったということを彼女はすっかり忘れ去っています。
優しい鈴の音が部屋に響きます。それは世界に大きな変化が起こったときの通知音でした。初期設定ではもちろん、もっと気付かれやすい危機感を煽るような音でしたがレオノラに変更されていました。鈴の音は鳴り止みません。しゃらり、しゃらり。1つ1つは優しい音でも、10も20も同時に鳴っては、さすがのレオノラも目が覚めました。しかし、彼女は初心者ではありません。
「世界を創った最初の頃って、通知がたくさん来るのよね。小さな変化でも大げさに言ってくるのよ。私、知ってるんですからね」
誰にともなくドヤ顔で言います。
「過保護なのは良くないんだから。手を入れすぎるのはためにならないのよ」
手は出さない、なんなら初期は放置する。そんな彼女のポリシーをとがめるように鈴の音は増えていきます。神器をミュートにしてしまいたい。しかし、本当の危機的状況を告げてくる場合があるため、さすがにそれはマズイということも彼女は分かっています。そこでベテラン創世神である彼女は―水浴びに行くことにしたのでした。ベッドへ無造作に放り投げられる神器。ここでようやく力の供給が止まり、鳴っていた鈴の音は一気にその数を減らしましたが、レオノラは上機嫌で部屋を出ていきました。
水浴びを終えたレオノラが部屋に戻ると、そこには見慣れぬ木箱がありました。
「なにこれ」
木箱を開けると、中にはささやかですが色鮮やかな果物とチーズ、そして瓶に入った透明な液体が入っていました。
「これは…これはまさか…!」
そう、これは捧げ物でした。十二分な神の力によって、世界には意思を持つ様々な種族が生まれ繁栄していたのです。その内に女神の力を宿している彼らは自然と女神の存在を意識し、女神を信仰していました。その結果として、彼女の部屋には捧げ物が届くようになったのです。世界をいくつも創ってきた中でも、これは初めての体験でしたので、レオノラはとても喜びました。その喜びは神の力となって、贈り物をした種族に直接届くことになるのですが、彼女はそんなことは知りません。ただただ果物とチーズ、そして果実酒を楽しんだのでした。