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ある程度話が纏まると、ダンジョン脱出を目指し歩き出す。
光の届かぬ地下故に、時間の経過は曖昧だ。恐らくは夕暮れ時だが、先に帰還した者たちからコット村へと連絡がいってもおかしくはない。
途中、歩みを進めながら口裏を合わせられるように話のすり合わせをした。
大まかな流れが決まり、それを踏まえバイスは時系列順に話をまとめる。
「俺とネストはグレゴールの魔の手から逃げ切り、炭鉱側の出口から出る。俺たちが心配で出口で待っていた九条と合流してからコット村に向かった――という流れにしよう。ネストの惨状を見た九条は先にコット村へ戻り、治癒術の使えるミアを連れてきて、ネストを治療する。おかげで一命は取り留めたということにして、ネストを包帯でグルグル巻きにし、村へと戻る。村のギルド支部長から俺たちの無事を本部に伝えてもらえれば終了だ。どうだ? 完璧じゃないか?」
あの火傷ではコット村までは持たないだろうが、奇跡的に助かったと元気な姿を見せれば、納得せざるを得ないだろう。
さすがに本人を目の前に「死んでた」とは言い出せないはず。生死を確認する時間もなかったはずだし、何より失礼。
もちろんすぐには帰らず、治るまで養生すると言うことにして、数日はコット村に滞在する予定だ。
「いいんじゃないでしょうか。まあミア次第ですけど……」
「そうね……。九条から見てどう? ミアちゃんは引き込めそう?」
「どうですかね……。半々ってところじゃないでしょうか……」
「ずいぶんと低い確率ね。その理由は?」
「何言ってんですか。ネストさんのせいですよ? ミアに俺の事色々聞いたでしょう? それで疑心暗鬼になってるんですよ」
「う゛っ……」
言われて思い出したのだろう。抜けていると言うべきか、詰めが甘いと言うべきか……。
「確かにそれは私が悪いわ……。九条からミアちゃんには謝っておいてもらえないかしら……? 他意はなかったって」
「ええ。わかりました」
一応はネストもミアのことを心配してくれていたのだ。誤解は解いておいてあげよう。
「そうだ九条。俺も聞きたいことがあったんだ」
「なんです?」
「どうしてここに人を近づけたくないんだ? 魔剣や魔法書を隠しておきたいのはわからなくもないが、別にダンジョンの奥底でなくてもいいはずだろ?」
聞かれるとは思っていた。魔法書を渡す代わりに芝居に協力してもらっただけだが、その理由までは教えていない。
ダンジョンハートのことを知られるのは避けたい。それが破壊されれば、俺は死んでしまうのだ。
バイスやネストを信用していない訳ではないが、弱みを握られるのは得策ではない。
しばらくどう答えようかと迷っていると、ネストが何か察したようで質問を変えた。
「言いたくないのなら無理に話さなくてもいいわ。でもこれだけは教えて。なぜギルドプレートを偽装しているの? あれだけの死霊術を操るのに、カッパーはどう考えてもあり得ない。揺らぎの地下迷宮でここまで安定している場所は初めて。もしかして九条はダンジョンの謎を解き明かしたんじゃないの?」
ギルドでさえ解明していない謎。揺らぎの地下迷宮――。わかっているのはコアの存在と、魔王が造ったということだけ。
恐らくバイスとネストは俺がその謎を解き明かし、力を手に入れたのではないかと考えているのだろう。
それを独り占めするため、もしくはそれを守るためにと考えるのは自然な流れ。
「ギルドプレートの偽装は罰せられるわ。最悪冒険者の資格剥奪にもなりかねない。まあ、自分を弱く偽るってのは初めて聞いたけど……」
冒険者の死体からプレートを奪い、資格のない者が冒険者を名乗り悪さをすることは良くあることだ。故にその罰則は重い。
「あなたはどう考えてもシルバー……いえ、ゴールドの実力がある。死霊術の中でも比較的難しいとされる降霊術でもシルバーは必要なのに、三百年前の魔法書を理解しそれを使えるのは、どう考えてもカッパーのレベルではないわ。仮にカッパーからシルバーへと成長したとしても速すぎる。私でもシルバーから研鑽を積んでゴールドまでに五年もかかったのよ? 到底考えられない」
「そう言われましても……。最初に受け取ったプレートがコレなんですけど……」
「はあ……。九条、ホントの事を言って頂戴。私たちはこのことをギルドに報告しないと誓うわ。だから……」
「嘘じゃありません。適性鑑定を受けた後、これを渡されたんです。それ以外答えようがないんですが……」
バイスとネストは、お互い顔を見合わせ首を傾げた。
俺も一緒になって首を傾げたいくらいである。嘘だと思うなら、ソフィアに聞いてみればいいのだ。
ネストは俺の事を調べていたのだから、カッパーで登録されていることは当然知っているはずである。
「九条。そのプレート、私に見せられる?」
本人確認をしようというのだろう。それには使えるスキルや魔法の情報が詰まっている。
疑われているのは癪だが、これで理解が得られるのであれば喜んで協力しよう。
「どうぞ」
首に掛けていたプレートを外し、迷わずネストへ差し出した。
ネストはそれを受け取ると、自分の額へとかざし、プレートに集中したのだ。
それはほんの数秒間。ネストはプレートを降ろし、深く溜息をついた。
「九条……。あなた騙されているわ……」