喧嘩というか、ただのすれ違い。そうだと思いたい。あなたは今までそんな事する人ではないと、僕は知っているから。もう一度やり直したいと思うよ。やり直せるのなら。あなたにもう一度恋したい。
side R
次の日のあなたの口角にはカットバンが貼られていて。なんとなく、話しかけないでおいた。話しかけるタイミングがなかった。なんて言えば、全て嘘になるだろう。あなたに、今までどうやって話しかけてたっけ。頭が霧に覆われたみたいに、真っ白になる。関さんが気にかけてくれて、話しかけてくれた。
「どしたん?なんか、祐希と喧嘩でもした?」
「まぁ、色々ありまして、でもこれは相談することではないかなと。僕の問題だと思うんで、なんか、なんとなくっすけど、」
「そ、ひとりで抱え込むなよ〜。喧嘩したんなら、ちゃんと話し合いなさいよ。」
「あざっす、そうします。」
「あとさ、好きな人の前で五秒、目つぶるといーよ。」
「なんか効果あるんすか、それ。」
「あるんだって、やってみな?」
「…まぁ、やってみます。」
その後、“あ、それと練習に支障きたすなよ”と後付けされて。本当に頼りになる先輩だ。そうだ、話し合いは後でもできる。今は練習に集中しよう。
練習後、すぐにあなたに話しかけた。いつぶりだろうか、あなたと話すことにこんなに緊張したのは。
「…ぁ、の、祐希さん。」
「ん、ああ、藍、。」
「ちょっと今日、僕ん家で話しませんか。」
「…あ、うん、分かった。」
一緒に家へ向かうことなく、ひとりで帰宅。落ち着かない、ずっと何かをして緊張しているのを誤魔化している。すると、ピンポン、音が鳴る。もっと緊張が走る。扉を開けるとそこには、僕よりも緊張した祐希さんがいた。なんだか、ぎこちない。この前みたいに、祐希さーん!って出迎えてたんに。
「お邪魔します。」
「どうぞ。」
ふたりでソファに腰掛ける。何日ぶりか、ふたりでお話するのは。僕も、祐希さんもお互い避けあって、ずっとすれ違ったままだった。なんだか、自分自身に腹が立つ。あの時、どうするべきだったのかと今更反省。って、今はどうだっていいのだ。張本人がいるのだから。謝ろう。と決心したとき、僕よりも先に祐希さんが口を開く。
「…藍、ごめんね。この前は、藍が嫌がってんの知ってたのに。知ってたのに、藍が他のみんなと楽しそうに話してんのが嫌で。大人気ないよね、こんな大の大人がやきもちだなんて。恥ずかしくてたまんないよ。」
「祐希さん、、僕も、僕も何か、早く気づいてたら。祐希さんのこと傷付けること無かったのに。」
「いや、俺が先に、直接言うべきだった。」
あなたの大きな目から零れそうなほどの涙が。沈黙。すると、「まだやり直せる?」とあなたがあんまりにも真剣に話すから。僕まで泣けてきて、涙を見せたくなくて、泣いてるところをあなたに見られたくなくて俯いてしまった。あなたは何も言わずに背中をそっと、優しく撫でてくれる。あぁ、なんて暖かいんだろう。ずっと、ずっとあなたといたい。そう思ってしまう。まだ好きなんだ。
「…やり直すって、何をですか。僕はまだ、いや、ずっと祐希さんのこと好きですよ?やきもち妬く祐希さんも、可愛いとか思ってるし、優しくてかっこいい祐希さんのことずっと前から、今も、ずっとずっと大好きです。」
我ながらにとても恥ずかしいことを言ってしまった。でも、それでも、あなたにベタ惚れなのは本当のことなのだ。
「嬉しい、本当に。俺も、ていうか、俺は、藍じゃないと駄目だよ。冗談とかじゃなくってさ。大好き。」
「僕もです。…てことで、これは仲直りですかね?」
「そうだね、良かった。ほんとに。」
あ、そういえば、と関田に言われたことを思い出す。そう、“五秒、目をつぶる。”何が起こるか、分からないけれど。やってみるしかない、ということですぐ行動。
「、、、。」
「藍、それは、いいの?知らないからね。」
すると、そっと口付けされる。この前みたいな、口付けとは違って優しく。唇と唇が重なる。驚いてすぐに目を開ける。顔が真っ赤になり、恥ずかしさが自分を襲う。
「はは、藍、顔真っ赤だよ。可愛い。」
「…もう、恥ずかしすぎる。」
「自分からしといて?」
祐希さんは意地悪気に笑っている。面白がってるな、と思いながらも嬉しかったのは本当だからいいとしよう。関田さん、許さないし、感謝を伝えておきます。
(これからもちょこちょこ続けていきます。)