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## 第7話:暴走と番人、忘却の都市
かつて世界を主導した巨大な文明の残滓が、赤茶けた砂漠の只中に沈んでいた。
超高層ビルの骨組みは、天を衝く巨大な墓標のように立ち並び、吹き抜ける風が廃墟の隙間で不気味な口笛を鳴らしている。
かつて「メトロポリス」と呼ばれたこの廃都は、いまや地図からも記憶からも消し去られた空白地帯だった。
その静寂を破り、重厚な金属音が響く。
白、青、赤のトリコロールを纏った巨神、プロト・ウイングエックスが、膝まで砂に埋もれながら、かつての目抜き通りをゆっくりと進んでいた。
「……死んだ街だな。ジャンク一つ拾うにも、呪われそうな気分だぜ」
コクピットの中で、ゼロ・ドラートは不機嫌そうに吐き捨てた。
背後に斜め下向きで固定されたブラック・キャノンが、歩行の振動に合わせて鈍い光を反射している。
隣に座るミラは、膝を抱え、窓の外に広がる死の街を怯えたような目で見つめていた。
「……聞こえる。あの子が、苦しがってる。ここにある何かが、あの子を呼んでる……」
ミラの呟きに、ゼロは眉をひそめた。
「あの子ってのは、やっぱこのガンダムのことか? ったく、機械が苦しがるなんて……」
言いかけた言葉は、不意に機体を襲った異変によって遮られた。
『――WARNING. EXTERNAL SIGNAL DETECTED.』
コンソールに見たこともない真っ赤な警告文字が躍る。
それと同時に、コクピット内の計器類が狂ったように逆回転を始めた。
「ピピピピピピピピピピピピピピピピ!!」
鼓膜を突き刺すような、異常なまでに高い警告音。
昨夜までの「ゼロ・システム」の音とは明らかに違う、悲鳴にも似たノイズだった。
「なんだ!? 何が起きてる! おい、システム、返事しやがれ!」
ゼロが操縦桿を引くが、機体は反応しない。
それどころか、操縦桿が勝手にガタガタと震えだし、ゼロの手を弾き飛ばした。
モニターが砂嵐に包まれ、次の瞬間、そこには禍々しい**真紅の世界**が映し出された。
機体のカメラアイが、正常な黄緑色から、憎悪を湛えたような**深紅**へと変色していく。
「動け……動けよ! クソッ、ロックされてやがる!?」
ゼロがどれだけペダルを踏み込み、緊急停止スイッチを叩いても、プロト・ウイングエックスは沈黙を守ったままだった。
いや、沈黙ではない。
機体そのものが「自らの意思」を持ち始めたかのように、ゼロのコントロールを完全に拒絶し、独自に駆動を開始したのだ。
ガガガギギィィッ!!
関節部から、油圧を無視した悲鳴のような駆動音が響く。
機体は突然、目の前の廃ビルに向かって走り出した。
制御を失った数tの鋼鉄の塊が、時速100kmを近い速度で加速する。
「やめろぉぉっ!! 止まれ、このデカブツ!!」
ゼロの絶叫も虚しく、プロト・ウイングエックスは右腕のシールド・バスターソードを強引に引き抜き、目の前のビルを薙ぎ払った。
爆音と共にコンクリートの破片が降り注ぎ、街の残骸がさらに積み重なっていく。
機体はそのまま、街の中央に位置する巨大な円形ドーム――かつての連邦軍極秘密研究施設――へと吸い込まれるように突進していった。
ドーム内に侵入した機体は、狂ったように暴れ回り、周囲の設備を破壊し尽くす。
まるで、この場所に遺された自分自身の「忌まわしい記憶」を消し去ろうとするかのような、盲目的な破壊。
「ゼロ! あの子を止めて! 記憶が……昔の痛みが、あの子の中に流れ込んでるの!」
ミラがゼロの腕にしがみつき、叫ぶ。
彼女の目からは、自身の痛みであるかのように涙がこぼれ落ちていた。
ニュータイプであるミラには、機体の中に蓄積された「かつての実験の苦悶」が伝わっていた。
この機体は、かつてここで「人間を部品とする」非道な実験の素体とされていたのだ。
「止まれって言ってんだろ! 俺はあんたを戦わせるために乗ったんじゃない! 俺と一緒に、あんたを苦しめる奴らをぶっ飛ばすために乗ったんだ!!」
ゼロは、もはや制御を失い、火花を散らす操縦桿を両手で力任せに握りしめた。
機体の暴走による凄まじいGがゼロの体を襲い、肺から空気が搾り出される。
視界が真っ赤に染まり、脳が揺れる。
それでも、ゼロは手を離さなかった。
「……くっっっそぉぉっ!! こんなところで、あんたを怪物になんてさせてたまるかよ!!」
ゼロの魂の叫びが、ミラの感応波を媒介にして機体の深部へと届いたのか。
ドームの最深部、かつてのメインサーバーを破壊しようと振り上げた拳が、空中でピタリと止まった。
『――SYSTEM ERROR. FORCED SHUTDOWN.』
ブツン、とコクピットの照明が落ち、完全な暗闇が訪れる。
あれほど激しく鳴り響いていた警告音も消え、後にはゼロとミラの荒い息遣いだけが残った。
静寂の中で、ゼロはゆっくりと頭を上げた。
モニターは死んでいる。
だが、ハッチの隙間から差し込む月光が、コクピット内を微かに照らしていた。
「……はぁ、はぁ……。おい、ガンダム。……あんた、そんなに辛かったのかよ」
ゼロは、動かなくなったコンソールを、慈しむように拳で小さく叩いた。
暴走は収まった。
だが、この機体が抱える「闇」の深さを、ゼロは思い知らされた。
これはただの兵器ではない。
あまりにも多くの悲劇を吸い込みすぎた、呪われた遺産なのだ。
「……帰ろう、ゼロ。あの子も、少しだけ落ち着いたみたい」
ミラの言葉に、ゼロは無言で頷いた。
だが、その時。
ドームの入り口に、一筋のサーチライトが差し込んだ。
砂塵の中から姿を現したのは、黒い装甲のMS。
この場所を監視していた、敵組織の「守護者」だった。
「――忘却の廃都に踏み入る愚か者が、まだいたとはな」
漆黒の機体から放たれた威嚇射撃が、プロト・ウイングエックスの足元で炸裂する。
再起動すらままならない満身創痍の機体で、ゼロは再び、絶望的な戦いを強いられようとしていた。
**次回予告**
沈黙する白き巨神に、漆黒の死神が牙を剥く。
絶体絶命の窮地、ゼロとミラの祈りが、眠れる獅子の魂を呼び覚ます。
次回、『共鳴の鼓動』
**「動け……俺たちの意志で、明日を掴み取るんだ!!」**
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