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ティナが地球を去って2週間が経過したが、地球全域では未だに異星人来訪の熱が冷めることなかった。好意的な人々は次の来訪を心待にして、自国のアピールや歓迎準備に余念がなかった。
特に極東の島国日本ではティナに対する好感度は世界トップレベルを誇り、遠い宇宙からの来訪者に対する歓迎ムードは最高潮に達し、是非とも日本へ招いて欲しいと政財界からも強い要望が政府に出されていた。
各メディアも連日ティナの特集が組まれてていたが、あるテレビ局だけは世情の流れに抗うかのようになぜか深海特集番組を放送。
「こいつら変わらねぇww」
「宇宙の反対だから深海ってか!?w」
「対抗意識燃やすなw」
「そこに痺れる憧れるぅ!」
「ブレねぇなw」
ネット界隈では別の意味で話題となった。
さて、問題なのは否定的な者達である。アメリカ政府は過激な活動家として知られているクサーイモン=ニフーターを初めとした反対派の動向に注意を払い、怪しい動きをしていた団体を既に10も壊滅に追い込んでいた。
だが、どれも弱小であり本命には手を出せなさいでいる。その本命こそ、アメリカ最大の保守系団体“ジャスティススピリッツ”である。
このジャスティススピリッツ上層部は資産家、企業家が大半を占め、更にメンバーには多数の連邦議員も名を連ねるなど政財界に強い影響力を持っている巨大組織である。
とは言え彼らの活動はあくまでも談合やロビー活動などの合法的なものが主であり、更に組織そのものがビジネスの場として機能していると言う特徴もある。毎月行われる会合でも参加者の大半がビジネススーツ姿であることからも見てとれる。
違法行為を犯さず、更に政財界に強い影響力を持つ故に当局も手を出せないでいた。今のところ異星人関連に対して一切アクションを起こさず不気味な沈黙を護っている。
アメリカ某所、そこではジャスティススピリッツ上層部による会合が行われていた。数人の人間達が静かに語り合う。
「必死なものだな、既に10も潰したか」
「どれも弱小ではあるが声だけは大きな連中だったからな」
「痕跡は丁重に消しているのだろうな?」
「問題ない。全ての証拠は入念に処理してある。万が一辿られたとしても、行き着く先はホワイトハウスだ。当局も手を出せまい」
「それはなによりだ」
これまでアメリカ政府が壊滅に追い込んだ過激派組織を焚き付けたのはジャスティススピリッツである。彼らは自分達から目を逸らさせるために過激派達を動かした。そしてその目論みは概ね成功したと言えた。
アメリカ当局の半ば強引な手法に恐怖した他の過激派達は、鳴りを潜めることになる。
「確かに異星人など危険極まりない。だが、その技術は価千金の価値がある」
「しかも来訪してくるのはお人好しな小娘と来た。上手く煽てれば幾らでも技術を吐き出すだろうさ」
「異星人を追い出すのは当然だが、それは充分に技術を吐き出させてからだ。過激な連中はそこが分かっていない」
「所詮は貧乏人の道楽だ。奴らに大局を見通す力などないさ」
「だが、犯罪者予備軍が少しとは言え減ったのだ。そこだけは感謝せねばな」
彼らは踊らされる人々を道化として嗤う。ジャスティススピリッツは決してティナの来訪を歓迎しているわけではない。
彼らの目的はティナを利用してアードの技術を奪い、アメリカの覇権を確固たるものにする。ただそれだけなのだ。
「それで、あの小娘が持ってきた手土産についてだが」
「トランクだったか。手筈通り手に入ったかね?」
アメリカ政府がトランクを国連で管理つもりであるとの情報を得たジャスティススピリッツのメンバーは、トランクを手に入れるために手を回していた。
国連内部にもジャスティススピリッツのメンバーは多数在籍しており、手回しは楽なものだったが。
「いや、失敗した」
担当者の言葉に、場の空気が緊張感を孕む。
「……手違いがあった、かね?」
「そうではないんだ。国連本部へ運び込まれる最中に、良く似た偽物と入れ換える手筈も整えていたのだが」
「うむ」
「直前で保管場所が変更になったのだ」
「なに……?」
メンバー達は報告を受けて眉を潜めた。
アメリカ政府としては沈黙を保つジャスティススピリッツに違和感を感じながらも有効な手段を用意できなかった。
そこで手を上げたのが、異星人対策室のジョン=ケラーである。
「トランクは大切な品であり、彼女からの信頼の証であります。その管理には万全を期さねばなりません。もし不手際が発生しようものなら……いや、ただの不手際ならば良い。悪意があるものならば彼女は二度と我々地球人を信用しなくなるでしょう」
ジョンの言葉は、国連による管理に少なからず不安を持っていたアメリカ上層部の人間達にある決断を促した。
「ケラー室長の言うことは最もだ。ティナ嬢からの信頼は護らねばならない。私は決めたよ、ケラー室長!トランクの管理は君達異星人対策室に一任する!!!」
「えっ?」
ハリソンの決断は盛大な拍手と共に受け入れられ速やかに実行された。
統合宇宙開発局は様々な国の思惑が絡むが、異星人対策室はそもそも室長のジョン自身が利権やら権力と無縁な人物であり、配下のメンバー達もまた宇宙や異星人関連以外に一切関心を示さない変人ばかりなのだ。
もちろんジャスティススピリッツの影響も受けていないし、なによりティナが最も信頼するジョンが管理するのだ。安心感もあるだろう。
「ジョン=ケラーっ!余計なことをっ!」
「ただの窓際男ではなかったか!奴の情報を集めろ!」
自分の発言で厄介事を抱え込んでしまい、更にジャスティススピリッツからも目をつけられてしまったジョン=ケラー。だがそれは同時に悪意からティナを護ったことを意味した。もちろん、本人は知る由もないが。
この後、彼の胃薬が数段階アップグレードされたのは言うまでもない。