「――アックさんっ、今です!!」
「よし、草地に《フロスト》を展開だ! いけ、ルティ!!」
「はいっっ! とぉぉぉぉぉぉぉぉーー!」
アクセリナが唯一使える光の麻痺魔法でおれたちは敵の動きを止めることに成功。間髪入れず、氷属性の弱体魔法を砦周辺の木々に発動した。遠目で見えている砦がある辺りには砂地が無く、草木が多くあった。
そこを凍結させ、おれたちの方にも砦柵《さいさく》に似たものを作らせてもらった。砦柵に動きを封じられた敵数人はすかさず砦から姿を見せたが、油断による飛び出しに近いものだった。それを見てすかさずルティを攻撃に向かわせた。
「なっ、何だっ――!? ド、ドワーフ……!?」
「く、くそ、足下が……痺れ……ちぃぃ!」
麻痺と凍結の封じ込めに遭う敵に対し、勢いそのままにルティが突っ込む。
「えいっ!! やぁぁっ――とぉぉぉ!!」
気合いを込めたルティが拳を振り下ろすと、奴らがいる地面に大きな穴を開けた。地面には亀裂が入り、勢いで土埃が激しく舞い上がる。
「み、見えねえ……」
「――何なんだこのとんでもねえ力は!?」
攻撃を受けていない者たちもいたが、ルティの力の強さを肌で感じたのか抵抗することをやめたようだ。
しばらくして――
ルティによって観念した者たちが連れられて来た。
「アック様、連れて来ました~!」
「よくやったぞ、ルティ」
「えへへ……」
平坦な道に小高い土を盛って砦を築いた者たち。
そんな彼らに対し――
「おれたちは戦って命を落とさせたいわけじゃない! ましてそういう目的で通りががったわけでもない」
説得するかのように説明したところで、彼らはようやく敵対心を緩めてくれた。とはいえ、砦を守る人間たちよりも穏やかさがあるところを見れば元々は普通の冒険者であるということがすぐに見て取れた。
「え? 剣士を探している?」
「俺たちは武器なしの戦士だからなぁ。さすがに剣を使う奴とは交流が無いな……」
「砦の最前面は戦士で固めてたから俺らがいなくなればどうなるか」
いかにもランクの低そうな男たちの言い訳だ。不安そうにしているのも理解出来るが、こっちとしても無用な争いを仕掛けるつもりは無い。
「じゃあ聞くが剣士自体は、いるのか? おれは君らと同じ冒険者だ。傷つけるつもりは無いから砦のことを詳しく教えて欲しい。どうすれば砦にいる連中と話が出来る?」
この男たちは恐らく詳しく知らされていない者たちだろう。お互いに顔を見合わせて戸惑っているのが何よりの。
「わ、悪ぃが、俺らは下っ端なんだよ。しかもザームから急いで来たばかりだし……」
「ザーム? ザーム共和国か?」
「そ、そこから派遣されて来たばかりなんだ。砦に行けって言われただけで」
「俺らはマジで何も分からないんだよ。だから、放してくれ」
砦の黒幕というほどでもなさそうだがザーム共和国が真の敵らしい。ザームという名の賢者がいた共和国が砦を築いて、冒険者を送り込むとなると一体どういう繋がりがあるというのか。
「アック様アック様!」
「どうした、ルティ?」
「カエルの女の子……ラーナちゃんがいなくなってます~」
「え? い、いない?」
ラーナと名乗った子はおれの装備を”再生”してくれたカエルの女の子だ。再生してくれたついでに、強力な水属性魔法も使えるようにしてくれた恩人のようなものになる。しかし彼女をテイムをしたまでは良かったが、どう相手すべきか分からずじまいだった。そのまま放置していたがいなくなるなんて、あまりに謎な女の子のままだ。
「ところでアックさん、彼らをどうされます?」
「君の意見は?」
「私は解放すべきかと。このままにしておくにはリスクがあるかと思います」
「……ん~」
脅威が無くなった冒険者とはいえ、アクセリナの言うとおり放置するのは避けたい。
「それならアック様! わたしの特製ミルクを飲ませるのはどうでしょう?」
「彼らに? その効果は?」
「何とっ! 睡眠効果です!! しばらく眠らせることが出来ます!」
アクセリナが言うことも一理ある。しかし砦に次々と兵を送ってくる存在は、どうにも気にかかって仕方が無い。もしかすれば敵の狙いはレイウルムの地下都市なのではないだろうか?
そうだとすれば――
「ルティ、そのミルクはすぐ作れるのか?」
「はいっ! もちろんです!!」
「じゃあすぐに頼む」
「はいっっ! お任せください」
やや不安な面もあるが、ルティの特製は強力だ。それを信じて使うしかない。
「アックさん、彼らをどうするおつもりです?」
「おれに考えがあります。君は彼らを見ていてくれませんか?」
「それは構いませんが、本当に大丈夫ですか?」
「何も問題ありませんよ」
かつての賢者、テミド・ザームはすでにこの世にいない。しかし共和国が冒険者を募り、集めているのは確かだ。ザーム共和国の中にアクセリナが探す剣士がいるか気がかりではあるが、冒険者を殺さずに砦だけを破壊出来れば何とかなる。
その可能性を信じてまずはこの娘に賭けてみるしかない。
「えっほえっほ~……え~と、目分量は~」
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