「む~……。この辺りから随分と冒険者を見かけるようになったなの! もしかして近くにお城でもあるなの?」
「そんなはずないんだけど……いや、でも共和国が近いのか」
「シーニャ、人間嫌い。許す人間、少ないのだ。デミリスは弱いけど弱くないから、許すのだ! キョウワコクから、人間来ているのか?」
どうやらこの子たちはオレに心を許してくれているみたいだ。
「許してもらえているんだね、ありがとう。えっと、シーニャの言う通りなんだけどオレたちと同じ道を進む人間たちは冒険者のはずだよ。だけどこの人数は……」
宝剣フィーサと仲直りをしたシーニャは元剣士デミリスに心を許していた。迷いを断ち切り、剣を振るうことを決意した気持ちを感じ取っていたからだ。
「……そっか」
「ウニャ?」
「どうしたなの?」
オレが先頭で、虎の女の子が後ろをついてきている――それが信頼ってことなんだろうね。それとフィーサって子の真の姿が剣ということも明かしてくれているのも何か嬉しい。
それはそうと、確かに見慣れない者たちの姿が目立ってるな。
「彼らの多くは冒険者……? でも……」
レイウルム半島と繋がっている山道の先にあるザーム共和国。多くの者たちはどうやらそこから来ているようだ。
「デミリス、顔が青いのだ。怖いのか?」
デミリスは故郷である地下都市レイウルムを目指している。冒険者たちが向かう先が地下都市だとしたら――という不安がよぎって深く考え込んでしまっていた。
そんなデミリスを心配してか、シーニャが顔を覗き込んでいる。
「あっ、いや……多分違うと思うんだ。心配しなくても大丈夫だよ」
「何が大丈夫なのだ?」
「な、何でもないんだよ」
シーニャはデミリスに心を許した。しかし弱さを見せるデミリスに、シーニャは首を傾げるばかりだった。
「すぐ近くで戦いの気配を感じるなの! シーニャ、わらわを存分に使っていいなの!」
「ウニャ!」
「ちょ、ちょっと……!? 戦いって、どこで?」
「人間が沢山集まっている所で起こっているなの! あなたも剣を振るうなの」
「……おかしい。地下都市まではまだ距離がある。だとすれば戦っているのは他の――?」
前方から激しい砂塵が吹き荒れている。そんな光景の中おぼろげに見えてくるのは、城のようにも見える不確かな影。
「こんな道半ばで城……いや、砦?」
「シーニャ、向かうのだ! アックに会う前に、人間をやっつけてやるのだ!!」
「今はまだ様子が分からないしとにかくオレについて来て。とにかく砦に行って、それからだよ」
「ウニャ……人間のことはお前に任せるのだ」
剣士デミリスとシーニャ、そしてフィーサは砂塵の先に見えている砦に向かう。
◆
――砦。
「どうした、戦士の男どもはまだ見つからないのか?」
「は。奴らは冒険者の中でも最弱。先行の弓術師が戻るのを待ちきれずに森に進んだのではないかと思われますが……どうされますか?」
「役立たずどもめ。まぁいい……もうすぐいくらでも派遣されて来る。夜になる前に配置に就かせろ! そしてキニエス。貴様は地下を掘り進めろ」
「了解しました、イルジナさま!」
男たちに命令を下し、その場に残る一人の女。男が向かう先を眺めながら女は一人、静かに不敵に笑う。
「フフ、キニエス・ベッツ。勇者の関わりがある男か。下らない男もろとも地下都市で全て殺してあげるわ。ザーム《あの人》の為にもね……」
◆
砂塵で思うように進めなかったデミリスたちが砦に近づいた頃には、辺りはすっかりと薄暗くなっていた。
「ここは何なのだ?」
「良くない気配が沢山いるなの……」
「ウニャ、人間が沢山集まっているのだ」
おかしい。戦いの気配が消えている。
「誰かが戦っていた気配はこの中だったのか、それとも……?」
魔物の気配に加え良くない気配を感じた彼女たちの言葉に、デミリスはますます不安を募らせる。
「ウゥ……シーニャ、外に出たいのだ!」
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