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𝐀𝐘𝐀_

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第三章、お読みいただきありがとうございます!
**寺島あおいです🤍** 社長室で「ちーちゃん」の話をするときの千景さんの表情が、もう想像するだけで胸が温かくなりました。弟さんを想う時間の積み重ねが、こんなにも素敵な空気を職場に作ってるんだなあって。遥さんの秘めた想いにも切なくなります。4話完結じゃありませんよね?続きが待ち遠しいです🌷
第三章 社長・結城千景の一日
朝九時。
都内でもひときわ高くそびえるガラス張りのオフィスビル。
そこが、結城千景が社長を務める会社だった。
黒い高級車が地下駐車場へ滑り込む。
運転席から降りた千景は、さっきまで大学で見せていた柔らかな笑顔とは打って変わり、凛とした表情になる。
「おはようございます、社長。」
受付スタッフが深々と頭を下げる。
「おはよう。」
短く返事をすると、エレベーターへ向かう。
その背筋は真っ直ぐで、歩く姿だけでも周囲に自然と緊張感が走る。
社員たちは口々に言う。
「今日も社長、格好いい……。」
「仕事モードだ。」
「さっきまで弟さんを送ってきた人とは思えない。」
「オンとオフの切り替えがすごいよね。」
そんな視線を受けながらも、千景は気にすることなく社長室へ入った。
コンコン。
「失礼します。」
入ってきたのは秘書の佐伯遥だった。
高身長で整った顔立ち。
落ち着いたスーツ姿がよく似合う。
「おはよう、ちか。」
「おはよう、はる。」
高校時代からの親友。
会社では社長と秘書という関係だが、二人きりになると昔と変わらない距離感に戻る。
遥はコーヒーを机へ置いた。
「今日もちーちゃん送ってきた?」
「もちろん。」
その一言だけで、千景は少し嬉しそうに笑う。
「今日は朝から体温も平熱だったし、喉も大丈夫だった。朝ご飯も全部食べてくれたんだ。」
「うんうん。」
「ただ、まだ少し眠そうだった。」
「毎朝だね。」
「大学着く頃には少し目が覚めてたかな。」
遥は微笑みながら頷く。
(本当に嬉しそうに話すなぁ。)
千景が弟の話をするときだけは、会社で見せる社長の顔はどこかへ消えてしまう。
「今日はくぅちゃんだったよ。」
「今日のテディベア?」
「そう。」
「昨日は?」
「しろちゃん。」
「一昨日は?」
「みるく。」
「全部覚えてるんだ。」
「当たり前でしょ。」
真顔で返され、遥は思わず笑った。
「さすが。」
午前九時半。
役員会議。
大きな会議室には役員たちが集まっている。
「それでは始めます。」
千景は資料をめくりながら次々と指示を出していく。
「この案件は来週までに。」
「こちらは海外支社とも連携してください。」
「コストだけでなく品質も最優先です。」
その判断は的確で迷いがない。
社員たちは真剣にメモを取る。
会議は一時間半続いた。
終了後。
役員の一人がぽつりと言った。
「社長は本当にすごいですね。」
「ええ。」
「でも。」
別の役員が笑う。
「弟さんの話になると別人ですよね。」
「ああ、それは有名。」
「昨日なんて昼休みに三十分ずっと弟さんの話だったらしいですよ。」
「テディベアの新しい服を買ったって。」
「あはは。」
社内ではすっかり有名な話だった。
昼休み。
社長室。
「ちか。」
遥がサンドイッチを持って入ってきた。
「食べながらでいいから。」
「ありがとう。」
二人はソファへ移動する。
自然と隣同士。
肩が触れそうなくらい近い。
しかし二人とも全く気にしていない。
「そういえば。」
遥が笑う。
「今日もちーちゃんから写真届いたよ。」
「え?」
千景はすぐスマートフォンを見る。
『にぃに。おひる、おむらいす。おいしかった。』
オムライスの写真。
その横にはくぅちゃん。
「……。」
千景は幸せそうに微笑んだ。
「可愛い。」
「本当に可愛い。」
「オムライスの写真だけでこんな顔になるの、ちかくらいだよ。」
「だってちーちゃんだよ?」
「そうだけど。」
遥は苦笑した。
(やっぱり敵わないな。)
高校時代からずっと見てきた。
千景の一番大切な存在は、いつだって千弥だった。
だからこそ遥は、自分の想いを口にできない。
今の関係を壊したくない。
千景が幸せそうなら、それでいい。
そう思っていた。
午後一時。
仕事へ戻る。
契約書。
来客対応。
オンライン会議。
海外との電話。
休む暇もない。
それでも。
会議の合間。
千景は時計を見る。
午後三時。
(そろそろ授業終わるかな。)
午後三時半。
(今日は図書館かな。)
午後四時。
(会社に向かって歩いてる頃かな。)
そのたびに遥は笑ってしまう。
「気になる?」
「……うん。」
「まだ来ないよ。」
「分かってる。」
「でも気になる。」
「知ってる。」
午後四時半。
社内チャットが静かに盛り上がり始める。
『今日もちーちゃん来るかな?』
『さっき大学終わった時間だよ。』
『受付お願い。』
『お菓子準備しておこう。』
『今日はクッキーあるよ。』
『紅茶も淹れよう。』
社員たちは仕事をしながらも少しだけそわそわしていた。
受付スタッフも外を何度も見る。
「まだかな。」
「今日は何のくまさんだろう。」
「会えると癒やされるんだよね。」
そんな空気に包まれる会社。
その様子を見た遥は笑いながら言った。
「もう会社全体がお兄ちゃんみたいになってるね。」
「みんな優しいから。」
「いや、原因はちかだから。」
「僕?」
「ちーちゃんを大事にしてるのが伝わるから、みんな自然とそうなったんだよ。」
千景は少し照れくさそうに笑った。
「そうだったら嬉しいな。」
その時。
受付から内線が鳴る。
『社長。』
「はい。」
『ちーちゃんがいらっしゃいました。』
その一言で。
社長室の空気が一変した。
千景は立ち上がる。
表情が一瞬で兄の顔へ戻る。
「迎えに行く。」
「はいはい。」
遥も笑いながら立ち上がる。
「僕も行く。」
「はるも?」
「もちろん。ちーちゃんに会いたいから。」
二人は並んで社長室を出る。
その距離はいつものように自然と近く、周囲の社員たちは思わず微笑みながら見送るのだった。
第三章 終わり
第四章へ続く