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𝐀𝐘𝐀_

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メイ
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第四章 会社のみんなの癒やし
午後四時四十五分。
大学から会社までの道は、千弥のお気に入りの散歩道だった。
「くぅちゃん。」
腕に抱いたテディベアへ小さく話しかける。
「きょうも、にぃにのところいくよ。」
返事はない。
それでも千弥は嬉しそうに微笑む。
道端に咲く小さな花を見つければ立ち止まり、
「きれい。」
木の枝に止まる小鳥を見つければ、
「こんにちは。」
穏やかな時間が流れていく。
急ぐことはない。
慌てることもない。
千弥はいつも、自分のペースで歩く。
やがて、大きなオフィスビルが見えてきた。
「ついた。」
自動ドアを抜け、広いエントランスへ入る。
受付の女性が真っ先に気付いた。
「あっ!」
ぱっと笑顔になる。
「ちーちゃん、こんにちは!」
千弥もにこっと笑う。
「こんにちは。」
「今日も来てくれたの?」
「うん。」
「社長に会いに?」
「にぃにに、おむかえ。」
受付の女性は自然と頬が緩んだ。
「今日も可愛い……。」
隣にいた男性社員も小さく笑う。
「こんにちは、ちーちゃん。」
「こんにちは。」
「今日はどのくまさん?」
千弥は胸のテディベアを見せる。
「くぅちゃん。」
「今日はくぅちゃんなんだ。」
「うん。」
社員たちはすっかり覚えていた。
“今日は誰と来たの?”
そんな会話が、毎日の楽しみになっている。
「カードキーあるよ。」
千弥は首から下げたケースを開き、一枚のカードを取り出した。
社長専用と同じデザインのカードキー。
それは千景が特別に渡したものだった。
「ちーちゃんは自由に入っていいから。」
そう言われている。
ピッ。
認証音が鳴る。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
エレベーターへ乗り込む。
最上階。
社長室のあるフロアだ。
その頃。
社長室では。
「ちか。」
遥が笑っていた。
「受付から電話。」
「……。」
「来たよ。」
その一言だけで、
ガタン。
千景が勢いよく立ち上がる。
「迎えに行く。」
「うん。」
「急がないと。」
「逃げないよ?」
「でも待たせたくない。」
遥は苦笑した。
「本当にブラコンだね。」
「兄だから。」
「そこまで言い切る?」
「当たり前。」
真剣な顔だった。
社長室を出る二人。
自然と肩が触れそうな距離。
社員たちは見慣れた光景に微笑む。
「あ、社長。」
「ちーちゃんですね。」
「迎えに行くんだ。」
「遥さんも一緒。」
「この二人、本当に仲良いな。」
まるで恋人のような距離。
でも本人たちは全く気付いていない。
「はる。」
「ん?」
「今日、朝ね。」
「またちーちゃん?」
「うん。」
「知ってた。」
「朝ご飯全部食べた。」
「偉い。」
「オムライスも完食。」
「それも聞いた。」
「可愛かった。」
「それは毎日聞いてる。」
遥は笑いながら歩く。
エレベーターが開く。
「こんにちは。」
千弥が顔を出した。
「ちーちゃん!」
千景はすぐ近寄る。
「おかえり。」
「ただいま。」
大学から来ても、
会社へ着けば必ず”ただいま”。
それがいつの間にか三人の決まりになっていた。
「今日も頑張った?」
「うん。」
「疲れてない?」
「だいじょうぶ。」
「頭痛くない?」
「うん。」
「気持ち悪くない?」
「うん。」
「お腹は?」
「すいた。」
「よかった。」
千景は安心したように笑った。
その隣で遥もしゃがみ込む。
「こんにちは、ちーちゃん。」
「はるにぃ!」
ぱあっと笑顔になる。
「今日も来たよ。」
「待ってた。」
「ほんと?」
「うん。」
「嬉しい。」
千弥も嬉しそうだった。
「社長。」
総務部の女性社員が声をかける。
「クッキー焼いたので、ちーちゃんにもどうぞ。」
「ありがとう。」
「ちーちゃん、食べる?」
「いいの?」
「もちろん。」
「ありがとう。」
小さな袋を受け取り、大事そうに抱える。
「くぅちゃんも、うれしいって。」
社員たちは思わず笑った。
「くぅちゃんも喜んでるんだ。」
「うん。」
「可愛いなぁ。」
「ちーちゃん!」
今度は営業部の男性社員が手を振る。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
「大学どうだった?」
「たのしかった。」
「何したの?」
「ことりさん、みた。」
「授業は?」
「……。」
少し考える。
「おむらいす。」
周囲は一瞬静まり、
次の瞬間。
「あははは!」
笑い声が広がった。
千弥は首を傾げる。
「?」
「授業じゃなくて、お昼ご飯だよ。」
「あ。」
「まちがえた。」
恥ずかしそうに笑う。
その姿がまた可愛らしく、社員たちの頬は緩みっぱなしだった。
その頃。
千景は少し離れた場所から、その様子を満足そうに見守っていた。
「みんな、ちーちゃんを本当に可愛がってくれるね。」
遥も隣で微笑む。
「ちかが大事にしてるのが伝わってるからだよ。」
「そうかな。」
「うん。」
「ちーちゃんも、みんなが大好きだし。」
実際、千弥は会社に来るたび、社員一人ひとりの名前を覚えようとしていた。
「あ、たなかさん。」
「覚えててくれたの?」
「うん。」
「すごく嬉しい。」
そんな小さなやり取りが、この会社の空気を温かくしていた。
しばらくして。
千景は千弥の前にしゃがみ込む。
「今日は社長室でおやつ食べようか。」
「うん!」
「はるも一緒。」
「やったぁ。」
三人は並んで社長室へ向かう。
千弥は真ん中。
左に千景。
右に遥。
自然と手を繋ぐ千弥。
「にぃに。」
「ん?」
「はるにぃ。」
「なあに?」
「きょうね。」
「うん。」
「いっぱい、ほめられた。」
「そうなんだ。」
「くぅちゃんも。」
「それは良かったね。」
嬉しそうに話す千弥を見て、千景と遥は顔を見合わせ、同時に微笑んだ。
社長室へ続く廊下には、三人の穏やかな笑い声が静かに響いていた。
第四章 おわり
第五章へ続く
コメント
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第四章をお読みいただき有難うございました!