テラーノベル
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高校に入って急に背が伸びると、その娘が何故か急に俺を意識し出した。ある日叔母に「私のこと変な目で見てる」と言っているのを偶然聞いてしまった。確かに爺ちゃんの面倒も見なければ、挨拶すらしないっていうのはおかしいだろという意味では変な目で見てるが。そういう意味ではないんだろう。俺は次の日学校に行って腐女子の方々にいらない本を譲ってくれるようにお願いした。そうしたらタダでくれた。いい人達だ。俺はそれを手に入れると叔父と叔母に話があると深刻な顔で言った。そして腐女子の方々に貰った薄い本を二人の目の前に置いた。
「俺は実は……こういうのに興味があるんです」そう言った。二人はかなり驚いていた。だが意外にもすんなり受け入れられた。叔父はやはり叔母から話を聞いていたらしく、あからさまにホッとしていた。自分の娘と間違いがあったらどうしようと心配していたんだろう。そんなことは間違いなくないのだが。叔母はどうやら往年の腐女子だったらしく、すぐに受け入れてくれた。もちろん自分の子どもではないからってのもあるだろう。とにかく娘からの身に覚えのないクレームは回避できた。その後に娘は俺に「ホモだったんだ?」って半笑いで言ってきた。ホモかどうかは分からないけれど、お前を選ぶことはまずないから安心しろと言いたかった。だがそれは我慢して「ああ」と返事しておいた。そもそも介護と家事で頭がいっぱいなんだ、恋愛する時間なんてどこにあるんだ?
高校卒業と同時に就職した。従業員が二十人ほどの鋳型工場の経理だ。それで俺は叔父の家を出て、給料で暮らしていけそうなアパートに住むことにした。「いつでも帰ってきていいのよ」なんて言われたけど、爺ちゃんが亡くなったいま帰る理由なんてない。俺は二度とこの家の敷居を跨ぐことはないだろうと思った。
仕事は順調だった。学校で教わることと実践は全然違う。俺はまだ“経理見習い“といったところだろう。先輩は四十代の男の人だった。仕事はきっちり教えてくれたから、きっといい人なんだろう。工場で働くみんなは仲が良かったが、経理ともなるとそんなに交流はない。羨ましくないことはなかったが、そもそも学生時代に他人とそんなに交流がなかったので、どう混ざればいいか分からなかった。けれど時間がなんとかしてくれるだろうということしか思い浮かばなかった。そんな調子で三年目を迎えようとしていた。
その日は朝から騒がしかった。「不渡りを二回出した」そんな会話が聞こえた。だがいつまで経っても先輩も社長も姿を現さなかった。どうやらこの会社の経営状態はよくなく、帳簿は改ざんされていた。なけなしのカネを持って二人は逃げたらしい。一緒に逃げたのか、別々に逃げたのかそれは分からなかった。とにかくこの会社は潰れるってことだけが分かった。
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