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哀情

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哀情

2 - 名前

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2022年08月24日

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背丈のバラバラな木々が生い茂る森を抜けるとある小さな教会。教会の周りには魔物避けの白い百合が咲き誇り、今日も光を一心に浴びていた。


今日もその教会の中でひそかに祈りを捧げるものがいた。


神父服に身を包み、灰色の髪をひとつに黒いリボンでまとめ、首からは十字のネックレスをかけ、縁の細い眼鏡からは優しそうな目元が見えた。


礼拝堂にある円花窓から色彩豊かな光が入り込んで、埃一つない真っ白な床や壁に綺麗に彩る


そこで神の前に跪き、何を願う訳でもなく、何を思う訳でもなく、目を瞑り手を組み祈りを捧げていた。


にゃあ_______


後ろで猫の鳴き声がした。


「おはよう、ロト」


目を開け、後ろを振り返ると行儀よく座っている1匹の黒猫がいた。

振り返るや否やその場から立ち上がりこちらに歩いてきて、頭を手に擦り付けてきた。ロトの喉からはゴロゴロと可愛らしい音が聞こえてきた。


「わざわざ迎えに来てくれたんですね」


ロトは嬉しそうに喉の音を強めて目を閉じた。

神父はふふっとロトの頭を優しく撫でながら軽く笑った。


「ロト お仕事の時間ですよ、行こう」


にゃあ_______

ロトは、一言鳴いて神父の手から頭を離し、子供たちとシスターのいる食堂へゆっくりと向かった。神父もロトの後に続いた。




‪𓂃𓈒໒꒱‪𓏸


大きなゴシック様式の窓から朝の光が食堂の中を包み込むように入り、用意された食事のスープに光があたりキラキラと輝いていた。

眠そうに目を擦りながら起きる子供達や忙しそうに早足で食事の準備や子供たちの世話をするシスター達を横目に起きてきた子供達に挨拶をしながら自分の席へと向かった。

ロトは食事に毛が入ると良くないため、食堂の手前で小さな前足を揃えて座っている。


「しんぷさま、おはようございます」


ひとりの子供が眠そうな声で挨拶をしてきた。


「おはようございます、まだ眠いですか?」


欠伸をしている様子を見ながら、微笑みかけた。起きてすぐなのだろう寝癖が髪についていた。

そっと髪を撫でようとして、手を伸ばしたが 直ぐに手を引き戻した。


____何故か神父は人に触れるのが怖かった。


「しんぷさまは、眠くないの?」

目を擦りながら問いかけてきた。

「眠くないですよ」

そっかぁ_____

と少年が言いかけたと同時に食事の始まるベルの音が食堂に響き渡り、ベルを鳴らしいたシスターの元へ視線が集まった。


「さぁ、皆さんお食事の時間ですよ。」

_______



食事が終わり、退屈そうに座っているロトに声をかけ一緒に礼拝堂へ向かった。


廊下に歩く音が響いた。


礼拝堂に着き木製の大きな両開きのドアをギィと錆びた蝶番の音を鳴らしながら開け、ロトを先に入らせてその後に続いてドアを音をたてないように閉めながら入った。

中は静かで空気が冷たく留まっていた。

当たり前に人気はなく、遠くから微かに子供達の笑い声が聞こえてくるだけだった。

供えたある百合の花の花瓶の入れ替えを行うため花瓶を持ち水場に行こうと振り返った。


その時だった___


誰も居ないはずの部屋の頭上から声が降ってきた。


「おい」


突然声を掛けられ、持っていた花瓶を床におとしてしまった。水と破片が周りに散らばった。次の瞬間猛烈な魔力量を身体が感じ取った。隠し持っていた銃を即座に取り出し上に銃口を勢いよく向けた。

どこだ。礼拝堂内が薄暗くよく見えない。

しかし凄まじい魔力は身体全体で感じ取れる。森の中にいるような魔物よりも桁違いの魔力の大きさだ。声をかけられるまでここまでの魔力を何故感じなかったのだろう。


「誰ですか」


そこにいるであろう気配のする方へ声を発する。渇いた笑い声が上からした。上の方を凝視すると装飾品のようなものが光に反射して見えた、光の方向へ銃を向ける。


「無駄だ、余計な事をしようとするな。お前は俺には敵わない」


銃を下ろすことなく向けたまま無言でそいつが姿を表すのを待った。

数秒の沈黙が流れる。

「はぁ」と溜め息が上から微かに聞こえた。

指を鳴らす音が聞こえ周りの蝋燭に火が灯った。 上から人と似た形をした何かが降りてきた。


最初に目に入ったのは赤い翼、どう見ても天使のような白い無数の羽が生えた翼ではなく、コウモリのような二本の赤い翼が見えた。そこで人外であることを再確認した。次に目に入ったのは鋭い爪と犬歯のような鋭い牙、長く美しい白髪だった。


降りた途端に発砲をしよう。


そう思いその瞬間を待った。


距離が近くなれば近くなるほど感じる圧倒的な魔力と威圧感。

身体に緊張と欲しくもない恐怖心が大きくなり、銃を握る手に自然と力が入る。

標的から目を離さずに無言で構え続ける。

人外が床に足を着けた。


今だ____


銃を持つ手に力をいれトリガーを引いた。

大きな発砲音が礼拝堂に響く、空気が揺らいだ。銃を構えたまま、発泡した方を見ると、人外は消えていた。

何処だ。

そう思った瞬間背後から気配がした。

勢いよく後ろを向こうとしたその時


「おい、話を聞け」


魔物の声がした。


「お前が後ろを向き、一度でも銃を向けた瞬間殺す。」


魔物の忠告を受け後ろを向くのを寸前で止める。

この魔物には敵わない。この魔物を倒せるだけの技術や実力がしがない神父である自分にあるわけが無い。

ロトは椅子の影に隠れている。危害は及ばないだろう。


ところで何故


「殺さないのですか」


前を向いて銃を片手に待ち降ろしながら聞いた


「あぁー、気分」


なるほど、気分、、、え?、、気分!?

気分?人の命を気分って。

緊迫した空気が破られ、さっきまであんなにも警戒していたのが馬鹿みたいに思えてきた。

つい顔の表情が緩んでしまった。


「なんでお前笑ってんだ」


元々口角が少し上がっているのもあり、表情が緩み笑っているように見えたらしい。


「笑っていませんよ、ただ少し奇態だと思いまして」

「失礼なやつだな」


渇いた笑い声が後ろから聞こえた。そういえば、発泡したにも関わらず礼拝堂の外からなんの反応も無かった。何かが魔術をかけているのだろうか。この強力な魔力を持った魔物はなんなんだろうか。疑問が次々と出てくる。


「それは失礼しました。あの、、少し質問をしてもよろしいでしょうか。」


この魔物は僕を殺す事はしないと考えた。


「ん、いいぞ」


高さのある靴でも履いているのだろうか、高い靴音が礼拝堂内に響いて、布の擦れる音、金属類が椅子に当たる音がした。多分椅子に座ったのだろう。

「1つ目です。先程貴方に向けて銃を発泡した際、かなり大きな音がしたと思ったのですが、騒ぎが起こりませんでした。何かしらの術を礼拝堂にかけているのでしょうか。」


「そうだな。俺らの声や音があっちへ聞こえないようにちょっとした結界を張った」


やはり。


「では、2つ目です。貴方は何者なんでしょうか」

この質問には答えないのかもしれない。


「お前は俺がなんだと思う」


逆に質問を返してきた。


「少なくとも人間では無いと思っています」


正直何となく検討はついているのだが、少しでもそいつの癪に触れると危ないと思って最低限の事を言った。

声のトーンからして男性であることはわかる。


「ふーん、面白くねぇ返しだな」


少し不服そうな言い方をした。期待外れの解答をしたようだ。

「そうだ」と何か思いついたように言った。

「おい、お前後ろ振り返っていいぞ」

急になにか思いついたと思ったら。予測不可能な事ばかりの行動をする。


「しかし、貴方は後ろを向いては殺すと先程仰ったではありませんか」


「いいんだよ。早くしろ」


我慢できないようで僕を急かした。

僕自身少し興味があったのと、あまりそいつの癪に触れたくなく、後ろを振り向いた。


そいつは腕を組み片脚に重心を乗せてこちらを満足そうに見ていた。

先程遠目で見た時よりもその容姿は美しく、そして人間とかけ離れた姿をしていた。

先程見えていなかった顔元は、誰が見ても端正で瞳は見入ってしまうような真紅の色をしていた。肌は白く却って真紅の瞳の美しさを強調していた。

服装は、黒と赤を貴重とした正装で所々に使われている美しい金の装飾がより一層の引き立っていた。

この世のものとは思えないその美しい容姿につい見入ってしまった。


「おい、聞いてんのか」


そのため、声をかけられていることに気づかなかった。

「ああ、すみません。聞いていませんでした」

彼が呆れたような顔をして腕を組む。


「だから、俺が何に見えるか聞いてんだよ」


「えーと」


少し黙ってから僕は言った。


「魔族である吸血鬼のように見えます」


彼は少し黙ってから嬉しそうに


「その通りだ」


と言ってこちら側に視線を合わせた。


「いいのか、逃げなくて」

煽るような言い方で話しかけてきた。


「別に逃げることはありません。貴方は私を殺さないでしょう」


これは僕の勝手な憶測だ。

僕の返答に彼は鼻で笑った。


「へぇ、面白いやつだな」


そして


「よし、お前気に入った」


指を鳴らしてそう言った。

蝋燭の光が少し強くなって風が吹いた気がした。


「俺の名は、アレクサンドラ・ラグーザ、好きに呼べ。お前の名はなんだ」


僕は視線を合わせて真っ直ぐ答えた。


私の名は______


「叶わないと書いて叶といいます」




【第一章】 名前

作者 黒猫

作者が勝手に作った物語であり、ご本人様と関係はありません。

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