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<瞳>


庭でサッカーボールを蹴ろうとして空振った3歳になる太一が尻餅をつくと、凌太が慌てて駆け寄るよりも早く、保護犬の太郎が太一の元に行き立ち上がらせようとしている。

太郎は大型のMIX犬で初めはいつもビクビクして人を寄せ付けなかったが次第に心を開いてくれた。その後に太一が生まれ、いわば太一のお兄さん的な存在になっている。

凌太がしゃがむと太一と太郎がいっぺんに凌太に抱きついた為後ろに倒れている。


そしてその様子を庭が見渡せるリビングでフミさんとお茶を飲んでいると、足元で保護猫の花子が足をスリスリとしている。


保護猫や保護犬の実情を知った凌太は保護活動に積極的に参加をしていて、甲斐商事でもペット商品に力を入れている。

捨てられた子や繁殖のためだけに生かされていた子たちを見て両親から愛されなかった自分と重ね、自分を愛してくれた祖父母のような存在になろうとしているのかもしれない。

その祖父母は太一が生まれて半年後に戸籍上では父親になる祖父が眠るように亡くなり、さらにその半年後、庭を眺めながら祖母も息を引き取った。

やさしい二人に似合いの穏やかな死だった。


倉片は呉服店の建物はそのまま古民家カフェの形をとり、沼田吉右衛門商店と共同で和スイーツの店として幅広い年齢層から人気がある店になった。

呉服はアパレル部門の一つとして織物でのドレスが結婚式で使われるようになると海外からも話がきているということだ。

八栄子さん、義母という括りはどうなのか難しく、凌太も自分の母は亡くなった祖母だけだと言っているので八栄子さんと呼んでいる。

その八栄子さんと沼田さんからは謝罪をいただいた。

うわべだけではなく、心からの謝罪だった。

八栄子さんは時々、太一に会いに来る。生物学上の孫が可愛くて仕方がないという感じで床に寝そべって太一と遊んでいる姿は札束を持ってきた人間と同じ人だとはわからないくらいだ。

その八栄子さんは離婚をしたことには一ミリも後悔はないが、凌太とのことは後悔していると言っていた。

そんな八栄子さんを受け入れようとしている凌太だが、生物学上の父親のことはどうしても許せず、披露宴で少しだけ会っただけでまったく連絡をとっていない。

でもいつか、そのことを後悔してほしくなくて私が時折会いに行っているが、以前、披露宴の翌日に松本という女性が訪ねて来てわけのわからないことを言っていて警察に連絡をしたと聞いた時、なぜ凌太の父親の所に行ったのか?どうしてマンションを知っているのか?が疑問で凌太にそのことを話したら

「最愛の息子の悪戯の尻拭いをしてもらった」と言って楽しそうに微笑んでいた。

甲斐さんにその後を聞くとその女性の両親がすぐに謝罪に来てその後は今現在まで松本さんが目の前に現れることは無いらしい。

ただ、我が家のセキュリティに関してはさらに強化することになった。


窓の外では芝生の上に倒れている凌太に太一と太郎が乗っかりはしゃぐ声が聞こえてくる。

その姿をフミさんが目を細めて優しい表情で見つめている。

凌太の両親が離婚の際、実家を売却しフミさんは一度、退職をしたが戸籍上の両親である祖父母の家でしばらくの間家政婦として働いてくれた。そして今は、週一回くらいのペースで一緒に暮らしている息子さん夫婦のもとから通いで働きに来てくれている。

フミさんは凌太にとって乳母のような存在だから、働ける間は無理をせず来てほしいようだ。

あの家の中で凌太の味方であり続けてくれた人だから。


花子が膝に乗って私の腹部に頭をこすりつけている。

動物の感とでもいうのか、この中に命が宿っていることがわかるのかもしれない。


遠回りをしたけど、その遠回りは二人にとって必要な時間で、いろいろなことがあったけど、それ以上の幸せないろいろなことをこれからたくさん理想の家族で作っていけばいい。

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