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エレベーターに乗り、最上階のボタンを押す。片手には先程買った鮭おにぎり。
そこからまた階段で少し上がって、誰もいないことを確認して屋上の扉を開ける。
扉のすぐ右隣にあるベンチに腰かけ、おにぎりを袋から取りだし自身の口へ運ぶ。
春千夜「……。」🍙
ついさっきあった出来事が頭から離れない。
近くにあった蘭の顔が、その瞳の中に映る俺の姿が、頭の中を駆け巡った。
あの時、俺は間違いなく……
春千夜「……蘭に、」
ときめいた…………
ドキ
春千夜「…はっ、!」
ぶんぶんと頭を振り回す。
春千夜「違う違う!そんなんじゃねぇ!」
……
春千夜「そんなんじゃ……、」
オフィスに戻ると部下数名が仕事に励んでいた。
春千夜「……仕事、するか……」
俺が気持ちを切り替えようと意気込んでいると
田村「あ!No.2!探しましたよ!」
部下の1人が俺を呼んだ。
春千夜「お⋯ー、」
こいつは田村。俺が今、1番手をかけている部下だ。
田村「ちょっと聞きたいことがあって、この報告書なんですけど……」
春千夜「ってな感じにすりゃあ、いんじゃね?」
田村「あぁ!なるほど!ありがとうございます!」
春千夜「おう、」
田村「じゃあ仕事行ってきマース。」
あ、そうだ……こいつに……
春千夜「た、田村!」
田村「?、はい?」
春千夜「ちょ、ちょっと、いいか?」
田村「!はい!」
春千夜「その……友達の話なんだけどよ……」
俺は田村にこれまであったことを(とは言っても最初の告白のことは言わずに)話した。
春千夜「ってことがあったらしくて……」
全てを話したからか、なんだか少しだけ心が軽くなった気がした。
田村「⋯⋯」
それよりさっきから田村の様子がおかしい。
春千夜「、田村?」
少し不安になって、問いかけた。
田村「な、な…」
春千夜「な、?」
田村「なんすかその、少女漫画みたいな展開!!!!まじぱねーっす!」
春千夜「は?」
予想もしていなかった言葉に驚きを隠せなかった。
少女漫画な、展開なんて、そんなんじゃ…
田村「いやもうさいっこうじゃないっすか!お互い惹かれあってて、好きだけど、素直になれない、焦ったいみたいな?!俺大好きっすそういう展開!!」
ペラペラと早口で喋るそいつの言葉になんとか追いつき、意味を理解しようと頭をフル回転させる。それでもやはりよくわからなかった。
春千夜「お互い大好きって…そんなこと言ってねーだろ!変なこと言うのやめろよ!」
そもそもの話が違うのだ。別におれはあいつのこと…
田村「!!、へぇ〜あー、そう言うことっすか」
田村が俺を生暖かい目で見る。
探るような、腫れ物を見るような、いやーな目線。まずい気づかれてしまったか。
春千夜「、んだよ、その目」
田村「いやー、なんでもないでーす。」
田村「それよりNo.2、その”ご友人”に伝えておいてほしいんですけどぉ、」
「友人」
という言葉を強調させて、田村は言葉を放った。
春千夜「な、なにを…」
田村「それ、絶対相手のこと好きになっちゃってるんで!恋なんで!早めに認めてさっさと付き合ってくれって。」
田村「お願い、してもいいですか?」
……
こいつ、ほんとに頭が逝っちまったのか?なんで急に、俺がそいつのことを、好きで、恋、になってる、なんて…、…。
春千夜「、こ、い…」
田村「はい、そうです、完璧に、確実に!!恋です!」
田村はまるで、俺に念をおすように、そう言った。
…まさか、そんな、
田村「じゃ、俺もう行きますから!早めに伝えてくださいね、友人にも、お相手にも!」
春千夜「…お、う」
俺があいつに恋、…
正直、認めたくなかった。
いや、これが恋なのか、どうかわからなかった…と言ったほうが正しいのかもしれない。
恋、とか、愛とか、そんなもの自分に関係ないと思っていたし、何より、面倒なものと、関わりたくないと思っていた。
それ、なのに…
今朝あった出来事が頭の中をよぎった。
近くにある蘭の顔、鼻先をくすぐる香水の甘い匂い、触れた腕から伝わる緩やかな熱。全てが鮮やかに浮かんでくる。
ただ、近づいただけだ。今まで何度もあったし、なんならこれより近付くこともあった。前までの俺なら何も思わなかったし、気にしなかったし、すぐ忘れられたのに。なんで、今は、こんなにも鮮明に…
春千夜「…俺が、あいつに…」
春千夜「恋、した…から、?」
その瞬間顔がやけに熱くなったのを感じた。
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読んでくれてありがとうございます🫶
次の話もお楽しみに‼️
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