「人魚の溺死」短編小説
それは空気が凍りつく程寒い真冬の頃だった。こんな真冬に僕の人生をひっくり返すような出来事があるなんて思いやしなかった。僕があの日、あの時、「あれ」を見つけなければ。
目次
一、人魚 四、泡沫
二、溺死 五、海底
三、鱗 六、真実
七、あとがき
一、人魚
毎日毎日同じような日々を送っていた。なんとなく起きて、なんとなく学校へ行って、なんとなく生きていた。今は冬の長期休みなため毎日が暇なのだ。僕は部活にも入っておらず、特にすることも無いのだ。また僕はあまり社交的では無い。そのため友達と言える友達は片手に数えられる程しか居なかったため休日も暇なのだ。そんな事を考えていると母から一通のメールが届いた。内容はおつかいに行けというものだった。我が家は父が7年前行方不明になってしまったため今まで母、一人で僕を育てている。父は僕が小学校五年生の頃に忽然と姿を消し、最近警察の捜査が打ち切られてしまったのだ。そのため母には成る可く迷惑をかけずに生きてきたが、最近は何故か凄くこきを使われている感じがしあまり良い気分で無い日が増えた。けれどもやはり迷惑はかけられないと思いぼちぼち行く事にした。今日は過去最低気温に登るほど寒かったため早く帰りたいということもあり急ぎ足で近くのスーパーに向かった。頼まれたものは入口のすぐそこにあった為軽くスーパーを一周してからレジに向かった。レジを終え、帰ろうとした時ふと海を眺めたくなったのだ。何故かなんとなく懐かしいような感じがしたのだ。冬だし食材もすぐには悪くならないだろうということで寄っていくことにした。ここから海まで歩いて十分もかからないところにある。なんだかんだ言って海が家のすぐ近くにあるのはいいななんて考えているとあっという間に海へ着いた。すると海の浜辺できらきらと黄金の光を放っている「何か」を遠くから見つけた。気になった僕はゆっくりと浜辺に近づいた。すると驚くことに自分の家の近くの海岸で人魚の死体を発見した。初めは大魚が砂浜に倒れているように見えた。けれど近づいて見るにつれと絹のように綺麗な肌と黄金に光り輝く鱗。大魚だと思っていたそれは人魚だったのだ。僕は人魚を発見し、驚きを隠せなかった。人魚なんて幻の生き物なのだからだ。おとぎ話に出てくるような生き物。いるはずのない生き物が今、目の前で倒れている。また溺死している。昔伝記で読んだのだ。祖母が訴える様に読み聞かせてくれた伝記を僕は覚えていたため直ぐに今知りたくないような内容を思い出してしまった。人魚が溺死すると鱗が黄金に光るのだということを。僕は一刻も早く「それ」を埋めよう。初めから無かったことにしよう。そう思った時だ。ある疑問がぼくの頭を遮った。
「なぜ人魚は溺れて死んだのか。」
海底に生息している人魚が水で溺れて死ぬはずないのだ。では海獣に襲われ殺されたのか。けれど真っ白な肌には外傷がない。ざっと血の気が引く。そのまま倒れるように砂浜に座り込んだ。腰が抜けて動けない。これがいわゆる恐怖というのだろうか。すると峠の港で一番の腕を持つ漁師のおじさんが驚いた表情でこちらに走ってきた。
「おい!楓!どうしたんだ大丈夫か、っておいそれはなんだ!」
僕が見つけました とはいえなかった。おじさんから見たらまるで僕が殺したかのように見えてしまうから。けれ今、どこういう時どう言えば良いのだろうかなど考えられなかった。僕がしばらく黙っているとおじさんはどこかへ電話をかけた。目の前の状況が上手く頭の中で整理が出来ずおじさんがどこへ何を伝えているのかは分からなかった。おじさんは長かった電話をようやく終えるとこちらへ向かってきた。僕は別に何も悪いことをしていなかったが怒られる。そう思っていた。こちらへおじさんが着くと恐ろしい顔をして僕を見た。怒られはしなかったがいつも元気な人だったので思った以上に悪いことが起こったのは何となく理解できた。
「おい今からコイツ持って山行くぞ」
どういう意味なのかはさっぱり分からなかった。けれど僕は大きく頷いた。おじさんは人魚の死体を抱き抱え車の荷台に乗せた。改めてしっかりと見たがその人魚は傷一つ無い綺麗な肌に桜貝を敷き詰めたかのような鱗。その死体は美しかった。誰もが魅了される程に。僕が人魚に見惚れているとおじさんは何やら布とロープを持ってきた。僕がそれを死体に被せ、ロープできつく縛る。徐々に険しくなってゆくおじさんの顔を見るとこれからどうなるのだろうかと不安な気持ちが僕を津波のように襲った。人魚の死体をおじさんの軽トラックの荷台に乗せる。これで良いのかと思いながら自分の情けなさに少し腹が立った。
二、溺死
僕はおじさんの車の助手席に乗る。驚いたことに後ろには死体がある筈なのに全く臭わない。魚の青臭さもない。まるでまだ生きているかのようだった。またさっきまで僕は腰を抜かすほど恐れていたはずなのに今はなんともない。むしろなんとも無さすぎて怖いくらいだ。10分程経った頃ようやくおじさんが車に乗ってきた。エンジンが掛かり車体がぐらつく。ここから一番近い山でも片道一時間かかる。往復二時間。山で何かするとて帰りが遅くなることが少し憂鬱だった。念の為母にメールで帰りが遅くなることは伝えた。一応一人息子だし何も言わなければ心配してしまうのだろう。なんてことを考えながら窓の外をぼーっとながめているといきなりおじさんが話しかけてきた。
「コイツ見てから身体に違和感ないか?」
別になんともないとはいえなかった。さっきまであった恐ろしさが今は何も感じないのだから。寧ろ愛おしいというか魅了されたというかそんなよく分からないな感覚が身体中を巡っている。
「怖くは、無くなりました」
愛おしいなどいえるはずがない。けれどおじさんには僕が嘘をついていることがバレていた。そう感じた。いや、バレていただろう。
「これは不味いことになったな――――。」
やはり僕の身には何かあったのだろうか。不味いと思うようなことがあったのだろうか。少し心配に成りながらも僕は窓の外を見つめた。するとおじさんは話を続けた。
「いいか、決してその死体に向かって話しかけるなよ。下手したら帰って来れなくなるぞ」
『帰って来れなくなる』とはどういう意味なのだろうか。よくある霊に攫われる的なやつなのだろうか。僕はそんな大袈裟ななんて思ったのでおじさんに聞いた。
「どういうことですか?」
「まぁいつか全て教えるさ。けど今教えるには時間がかかる。」
おじさんの言うことは全て理解できなかった。が大人しく頷くことにした。漁師のおじさんには父が居なくなった日から色々とお世話になっているのだ。居なくなったあの日から関わることなど無かったおじさんは第二の父のように僕を育ててくれたのだ。何故漁師のおじさんなのかは謎だった。僕は余計に口を開いても悪いので一人黙ることにした。沈みゆく太陽がなんだか寂しく感じた。大陽が沈むと共に見かける車や人は一気に居なくなっていった。外を眺めている間、疲れたのか急に物凄い睡魔が襲ってきた。気づくと僕は深い眠りに落ちていた。
三、鱗
二時間くらいだろうか。しばらくだったあと僕は眠りから目覚めた。寝起きのせいか、何故かあまり気分は良くなかった。緊張しているのか?いつもより早く脈打つ心臓がら少し不気味だった。辺りは暗くおじさんの車は止まっていた。一応森の入口には着いていた。何度かここには訪れたことはあったが、毎度行く度に不気味さは増している。少しでも恐怖心を抑えるために大きく僕は深呼吸した。大きく深呼吸した後目を開けた。驚いたことに隣にはおじさんが居ないことに気づいた。寧ろ何故今まで気づかなかったのだろう。おじさんの安否が心配に成りながらも僕はスマートフォンの電源ボタンを押した。ホーム画面には0時2分と映し出されていた。眠りについたのは日が沈む頃。6時頃だったはず。片道一時間なので着いたのは約七時。僕は五時間も寝ていたのだ。言葉にならないこの気持ちを僕はどうにか理解しようとしていた。だが今はそんなことよりもおじさんの身が心配だ。シートベルトを外す。スマートフォンのライトで足元を照らしながら車を降りる。スーパーへ行くだけだと思っていたので薄着な為、夜風が寒い。木の葉が揺れる音がする。僕以外人は居ないため葉の音や足音が森に響く。薄暗い森の中僕はとりあえずおじさんに電話を掛けてみることにした。おじさんの電話番号を思い出しながら電話を掛ける。なんとなく繋がらなさそうだと思いながらしばらく待っていた。すると、通話は繋がっていないはずなのにスマホから水の音、?海中の音が聞こえてきた。幻聴でも聞いたのだろうか?けれどついさっき起きたばかりで疲れてはいないはずだ。咄嗟にスマートフォンを地面に落とした。薄暗い森の中で気味の悪い出来事が起こるなんてつくづく運が悪いのだと思う。そういえば「あの」人魚はどうなったのだろう。僕はあの音に恐怖しながらも軽トラックの荷台を確かめに行った。無い。あの死体がない。何処に行った?おじさんが持ち出したのか?それなら何処へ?色々な疑問が頭の中をぐるぐるとしながら僕は一点を見つめていた。するとおじさんの僕を呼ぶ声が聴こえた。おじさんは無事だ。と安心しながら人魚の行方が気になりおじさんの元へ走る。
「おじさん!無事だったんですね、良かったです、。あの、人魚の死体は何処へ行ったんですか、?」
おじさんをよく見ると手から血が流れている。まるで人魚の鱗で切ったかのように。
「おじさん、手、大丈夫、 ですか?」
「今は手のことなんてどうでもいい。いいから着いてこい」
一体何処へ行くのだろうか?人魚の元へ行くのだろうか?何故こんなこと考えているのが不気味だが何故か「人魚に会いたい」と少しばかり楽しみにしている自分がいた。
好評だったら続き描きます。
コメント
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少し読みずらかったので、空白とか使って欲しいです!