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🍌ばななの国からやってきたNanaです✨
あだ名はごりら。
てことでやってく
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春の風がスタジオの窓をゆらした。
穏やかな日差しの中、
3人の音が静かに重なっていく。
外から見れば、何も問題なんてない。
笑い合い、音を鳴らし、
同じ未来を見ている――
でも、それぞれの心の奥には、
誰にも言えない“影”があった。
[mtk side]
「せーの!」
若井のギターが鳴り、涼ちゃんのピアノが重なって、
元貴の声が空気を満たした。
完璧なリハーサル。
音が綺麗に混ざって、まるで呼吸みたいに一体だった。
……なのに。
(俺、本当に必要なのかな。)
歌いながらふと思う。
若井のギターは言葉より雄弁で、
涼ちゃんのピアノは気持ちを全部伝えてくる。
(俺がいなくても、
この2人ならきっとやっていけるんじゃないか。)
そんな考えを、
「もう一回サビやってみよう!」という明るい声で 胸の奥に押し込めた。
笑って、何でもない顔で。
だって自分が不安だなんて知られたくなかったから。
[wki side]
元貴が笑っている。
涼ちゃんがそれに合わせて笑う。
スタジオはいつもどおり穏やかだった。
でも、若井は自分の指先を見つめながら、
小さく息をついた。
(俺、何してるんだろうな。)
元貴の声が響くたびに、
心の中で思う。
(俺の音なんて、
ただの飾りみたいなもんなんじゃないか。)
みんなが「若井のギター、最高!」って言ってくれても、
それが本当かどうか信じきれない。
元貴が歌えば空気が変わる。
涼ちゃんが弾けば空間が満たされる。
でも自分は――何を残してるんだろう。
ふと視線を上げると、
元貴と目が合った。
「若井、今日めっちゃいい音してる。」
「……マジ?」
「うん。若井の音、好きだよ。」
元貴は何気なく言った。
だけどその一言で、
若井の中のざらついた不安が少しだけ消えた。
[ryok side]
2人が話している。
元貴は少し照れて笑って、
若井は「うるせーよ」と言いながらも笑ってる。
(ほんと、仲いいなぁ。)
そう思いながら、
涼ちゃんは静かに鍵盤に触れた。
でも、心の奥は少しだけ冷たかった。
(僕の音なんて、 ただ隙間を埋めるだけのものなんじゃないか。)
元貴の歌には感情がある。
若井のギターには魂がある。
じゃあ、
僕のピアノには――何がある?
そう思うたびに、
音を強くしてしまう。
“聞いてほしい”という気持ちを隠すように。
でも、ふと元貴が笑った。
「涼ちゃんの音があると、
全部がちゃんと繋がるんだよな。」
若井も言う。
「うん、涼ちゃんの音が入ると落ち着く。」
涼ちゃんは、
「ありがと」とだけ言って笑った。
でも胸の奥は、あたたかくなっていた。