テラーノベル
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私は帰路にある居酒屋に立ち寄った。お酒を飲む気はなかった。ただ焼き鳥を食べたかっただけ。
店の中は食べ物とお酒の匂い、楽しそうな笑い声や話し声で賑わっていた。
私はカウンター席に座った。その日はやけに店の内装がどんな感じか気になり、横を見てみた。
「…え。」
自分の意思と関係なく声が出た。
美しい
この言葉しか出てこなかった。
高い鼻、長いまつ毛、何かを抱えていそうな読めない瞳、綺麗な肌、綺麗な手、仕事後のネクタイ、肩までの薄い黄色の髪の毛。
わかりやすいように例えるなら…ハウルとかクラピカみたいな感じ。
全てが私の好みだった。
これが一目惚れか。そう、理解した瞬間だった。
私が見蕩れていると、彼は私に気づいた。私は彼を無意識にずっと見ていた。ハッとして目線を前に戻した。
「…何見てるんだ。」
私に目を合わせて、警戒気味な声でいった。
やばい、完全に見とれてた。
「…あ、えっと、す、すみません!」
すぐに謝った。心臓はバクバクしていた。おそらくその時の私の顔は真っ赤だっただろう。お酒のせいだと思ってくれただろうか。お酒は頼んでいなかったが。
彼は私に悪意があった訳ではないと察したのか、先程に比べ穏やかな声で言った。
「いや、別に怒っているわけではない。ただ、そんなに見られたら私になにかあるのかと気になるものだろう。」
…たしかに。良かった、怒ってなかった。私は安堵した。
「…確かに、そうですよね、すみません。」
私は気持ちを誤魔化すためか、頼むはずではなかったお酒をいっぱい頼み、ひとくち飲んだ。好きな訳では無いのに。
いっぱい飲み干し、会計をして店を出ようとした時。彼に話しかけられた。
「…こんな時間に女性一人で帰るのか。危なくないか。 」
彼はおそらく、他人にもこうして心配する性格なのだろう。声色でわかった。
「大丈夫です、ありがとうございます。いつもの事ですので。では、おやすみなさい。 」
そう挨拶して、店を出ようとした。彼は私の手首を掴んだ。
「…送っていく。心配という訳では無いが、どうも心が落ち着かない。」
多分私は耳まで赤くなっていたと思う。こんな一目惚れした相手に手を掴まれ、さらには送っていくと言われる。…夢のまた夢だった。
「…あ、ありがとうございます。」
私はそれしか言えなかった。
外はすっかり暗くなっており、街灯が私たちを照らした。鈴虫の鳴き声が心地よかった。私と彼は無言だったが、気まづくはなかった。逆に、何故か落ち着いた。
「ここまでで大丈夫です、わざわざありがとうございました。」
私は丁寧にお辞儀しながら挨拶をした。
「…私がしたくてしたことだ。気にするな。今日は冷える。早く家に入れ。」
彼は最後まで口調に反して優しかった。
「ありがとうございます。おやすみなさい。」
「…あぁ。」
彼はそう返事をして私に背中を向けて帰っていった。一目惚れした相手が、こんなにしてくれるなんて思わなかった。私は外見にだけ惚れていたが、内面にも惚れてしまった。人はこういうものなのだろうか。
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