「美桜、味噌はそこに準備してあるから、あと出汁の素はそこの小さい引き出しに閉まってあるよ」
(た、助かったぁ……)
私はホッと胸を撫で下ろした。味噌を入れて出汁の素を入れる……粉末の出汁の素。こ、これは一体どのくらい入れればいいんだろうか……適当とは本当に恐ろしい言葉だ。
「りゅ、隆ちゃん。出汁の素はいつもどのくらい入れてる?」
(この聞き方ならおかしくないよね……)
「俺も実家暮らしだったからそんなに料理しなかったからなぁ、適当でいいんじゃないか?」
ガクンと膝から崩れ落ちそうになる。適当って……もうこうなったら……適当に入れてやる! 思い切って計量スプーンなんて使わずに袋から直にサラサラサラ〜と適当に入れてみた。味の保証は出来ません。
チンっとグリルの中のお肉と野菜が焼き終わり香ばしい匂いが更に強くなる。適当お味噌汁も完成した。私達はお米の存在をすっかり忘れていたので今日はスーパーで非常用に買っておいたレトルトのご飯早速チンする。明日の仕事帰りに隆ちゃんがお米を買ってきてくれることになったので一安心だ。
出来た料理をダイニングテーブルに運び向かい合って手を合わせた。
「「頂きます」」
自分の作った味噌汁には怖くて手をつけられず、まず最初にグリルで焼いた鶏肉と夏野菜。味付けは塩と胡椒だけらしいが、茄子、ズッキーニ、トウモロコシも塩だけなのにしっかりと味が出ていて、それでもって鶏肉も柔らかく、焼き目はこんがりしていて美味しい。「おいしぃ〜」とむしゃむしゃ頬張っていたら反対側からの優しい視線にハッと気づき、チラリと見るとまるで母が沢山食べる我が子を微笑ましい表情で見ているような顔をして隆ちゃんは私を見ていた。
「りゅ、隆ちゃん?」
「ん?」
「いや、なんか見られてるような気がして……」
自意識過剰だったらどうしよう!? と言った後に後悔した。
「はは、見てたよ。だって美桜が凄く美味しそうにたくさん食べてくれるから」
ふにゃっと笑い味噌汁に手を伸ばす隆ちゃんを私はゴクリと息を呑んでどんな反応をするか恐る恐る彼を見ていた。
野菜を一口……表情は特に変化なし。そしてお汁を一口……表情に変化は……なしぃぃぃいい!!! 心の中で私は良かったぁ、とガッツポーズを繰り返した。
「味噌汁も美味しくできたな」
まるで私が味に不安がっていた事がバレていたかのように美味しいと言葉に出して言ってくれた。どうしてこうも彼は私の欲しい言葉ばかりくれるのだろう。私ももっと隆ちゃんの事を知って、彼がその時に欲しがっている言葉を見逃さずに、言葉にしていきたい、そう思った。
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