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食事をしながら俺は一応お婆ちゃんにお礼を言っておく事にした。もちろん俺のために美紅を東京によこしてくれた事に対してだ。だが、お婆ちゃんは意外な返事をした。
「気にせんでええ。あれは神さんのお告げじゃ」
「え? いや、母さんからは、俺のために母さんが美紅を呼んだと聞いてますが」
「今年の四月のことじゃった。美紅がカンダーリィになった」
「カ……何ですか?」
ここは母ちゃんが代わりに解説してくれた。
「カンダーリィ。病気でもないのに突然倒れてしばらく意識不明になったり高熱にうなされたりするの。まあ二、三日で回復するんだけど、治ったら霊感、霊能が目覚めていた。そういうケースが多いの。そしてこれをきっかけにユタとして覚醒する」
お婆ちゃんがおごそかな表情で後を引き継いで言った。
「美紅はそれ以前からユタの力をある程度発揮しておったがの。その時のカンダーリィ以来、わしも驚くほどの強い力を使えるようになりおった。そしてここが肝心な点じゃが、カンダーリィで寝込んでおる間、美紅はうわ言でこう言ったんじゃ。『ニーニが危ない、ニーニが殺される』とな。あやつに兄がおる事をまだ教えておらんかったにも関わらず……この意味が分かるか?」
俺が呆然として何も言えないでいると母ちゃんが横から助け船を出してくれた。
「雄二。例の連続殺人が始まったのはいつだった?」
「え?ああ、確か今年の……あっ!四月!」
「実はお婆ちゃんの方からあたしに電話があったのよ。お婆ちゃんは雄二の事を知っていたからね。それで美紅がカンダーリィになった日時を聞いてみたら、最初の事件が起きたのと同じ日、ほぼ同じ時刻だったのよ。美紅はあんたに危険が、それもこの世の物ではない何かが絡んだ異常な危険が迫っている事をユタとしての霊能力で感知した。あんたという実の兄が自分にいる事実すら知らなかったのに……そういうわけだったの」
「じゃから、雄二。美紅がおまえの所へ行ったのは琉球の神さんが決めたお告げじゃ。じゃから、おまえが礼を言う事はない」
昼食を取り終えた一時間ほど経った頃、あの小夜子ちゃんが美紅と俺を誘いにやって来た。俺に島を案内してくれるという。母ちゃんが行って来いと言うし、どうもあのお婆ちゃんのそばにいるのも気まずいので、三人で出かける事になった。
まずさっき来た道を逆もどりして港の近くへ行きそれから島の反対側の海岸へ出る。港の近くには人家がまとまった街と言っていい地帯があったが、そこから十五分も歩くと見事に何もない島だ。人とすれ違う事も滅多になくなった。
ただ、海と海岸と島の中央部に森があるだけ。でも俺はちょっと感動していた。「青い海」って言葉、初めてその意味が分かったような気がした。東京だって海に面しているが俺は生まれてこの方、海が本当に青い色をしているなんて感じた事はなかった。でも沖縄の海はマジで青い。同じ海水浴でもこんな海で泳いだらさぞ気持ちがいいだろうな。
俺の前を美紅と並んで歩いている小夜子ちゃんが振り返っていたずらっぽい笑いを顔に浮かべて俺に言った。
「美紅のお兄さん、何にもない田舎だと思ってるでしょ」
一応「そんな事はない」と否定してみたが、小夜子ちゃんはキャハハと笑ってこう続けた。
「気遣わなくていいって。ほんと見事に何もないド田舎だもんね、この島。いいなあ、美紅ちゃんは。ねえ東京ってやっぱりすごい?」
美紅は遠慮も気遣いもへったくれもない返事をした。
「うん、東京って何でもあるし。夜中でもお店はたくさん開いてるし。台風が来ても停電しないし。ええと、それから……」
「あたしも絶対そのうちこんなド田舎の離れ小島出て行ってやる! 絶対都会に行くぞ!」
ま、まあ、こんな綺麗な海のある土地でもそこで毎日生活するとなりゃ、それなりに苦労はあるんだろうな。それにしても美紅! もうちっとましな言い方があるだろうが! この天然ボケめ。