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可愛い。可愛すぎる。その黒曜石みたいに深みがある瞳。特にハイライトが映し出された時なんかは綺麗すぎて腰を抜かす。濡れたカラスの羽根のようにサラサラとなびくその髪はまさに国宝。いや菊自身が国宝なんだ。きっとそうだな。なんてったってこんなに小柄で仕草もいちいち可愛いくて……。

「お前声漏れてんで」

「マスターもう1杯!」

「俺もコーラおかわりなんだぞ!」


ハッと我に返るイギリスの化身。アーサー・カークランドは、今世界会議後にパブでアントーニョ、フランシス、アルフレッドと酒を交わしていた。

「お前の恋バナは聞き飽きたわ。なんかちゃう話せーへん?」

「じゃあ昨日のHEROアニメについて喋ろうじゃないか!」

「ごめんアルフレッド。親分それ見たことあらへんわ」


「えー」と不貞腐れたアルフレッドの面倒を見るのがアントーニョ。酔って菊との惚気話しか話さなくなるアーサーの面倒を見るのがフランシス。そんな構図が自然と出来あがっていた。

「だってアイツほんと可愛いんだよ……。なんていうかなぁ……とりあえず可愛いんだよ…あれ保護したほうがいいレベルだよな……もちろん俺んとこで…」

「知ってる坊っちゃん?それ監禁って言うんだよ」

「とりあえず、保護したら菊の部屋も作らないとな。やっぱ和室に改造した方が菊も嬉しいと思うし……あ、でもどうせ俺と寝るからそんな部屋必要ねぇな」

「あ、無視?」


フランシスは呆れたような口調でアーサーに現実を投げかけるが、この酔いモードに入ったアーサーは止まらない。多分この時が1番最強なんじゃないかと思う。

「てかこいつ寝たし……まったくねぇ…」

腐っても悪友だ。面倒臭がりながらもフランシスはアーサーをパブの端の席へ運んだ。

「はい!ここでお兄さんが今からアーサーの物真似しまーす」

「いぇーい!」

「題して、菊ちゃんに振られたアーサーの物真似」


『菊、お前が良かったらなんだが、今度うちでパーティーがあるんだ。一緒にどうだ?』

『まぁ。それは素敵なお誘いですが、どうしても外せない用事があって…』

『あ……そ、そうか…じゃあしょうがないな』

『すいません。また次の機会があったら』

『あぁ。楽しみにしてる』


「いや菊もお前がやるん?」

「菊はもっとかわいいんだぞ」

「お兄さん言葉の棘で心が痛いよ」

「でもアーサーは似てたでしょ?」

「アーサーは似てたね!」

「本物かと思たわー!」

酒が入った2人+いつものテンションのアルフレッドはケラケラと笑いながらグラスとコップを口に進める。

「てかその場面見たことあるわ」

「でしょ?傑作だよねあれ」

「菊も悪い子だよ。日付聞く前に断るなんてさ」

「脈無しすぎて笑えてくる」

「逆にかわいそうやわ」

「でも、よくめげないよね。アイツ」

「そうやなぁ。何年目や?」

「176年目だね」

「長!いくらなんでも片想いしすぎやろ!」

「菊ちゃんのことまじで好きなんだろうね〜」

「そのせいでいつも鬱陶しいんだぞ、」

「確かになぁ…いつもあんな惚気話聞かされたら親分参ってまうわ」

「俺はもうすでに参ってるけどね。HEROもお手上げさ」

呆れたような顔(2人目)をしながらアルフレッドはコーラをがぶがぶと飲み干した。

「もっとありがたく飲んでや。親分の金やねんからさ」

「Oh!それはシツレイしたね!マスターもう1杯!」

「反省してへんかぁ」


「俺は振られてない!」

後ろから聞こえてきた声に思わず3人は振り向いた。その声の主は言わずもがなアーサーだ。

「俺は振られてないからな!」


「時差ありすぎやろ。怖いわ」

「あーそうだねー」

「もう何十年も目立つ関わりがないのによく言うよ」


普通に引くアントーニョ。

適当に流すフランシス。

毒舌を吐くアルフレッド。

それぞれがアーサーの討論魂に火をつけた。


「あのなぁ!確かに最近は関わりが減ったが、仲はちゃんと続いてるんだからな!」

「あぁ…あの曖昧な仲がかい?」

「同盟当時の仲だ!」

「確かにあん時”は”2人共めっちゃ仲良かったよなぁ。ムカつくぐらい」

「そん時”は”惚気話も少なくてまだマシな時期やったわぁ」

「いちいち”は”を強調すんな」

「でもお兄さん最近お前が菊ちゃんと話してるところ見たことないんだけど」

「あれだよ。仲が深まるにつれて口数が減るケースがあるだろ?俺達もそれだ。話さなくても心が通じ合ってるんだよばぁか」

「え?殴っていい?」

「良いように解釈しとるな」

「まぁ俺は菊の家にあがったからな」

「ふーん。俺なんて先週菊と同じ布団に寝たんだぞ!」

「……………は、」


爆弾を投下したアルフレッドに3人の体は固まった。宇宙猫状態だ。

「え、アルフレッド…それってどういう……」

「え!?アルフレッド菊ちゃんとヤったの!?え!?」

宇宙猫状態を先に抜け出したのはアントーニョとフランシスだった。出てくるなり、2人は驚きながらアルフレッドに質問攻めをする。

「おま!俺の菊になにしてんだよぉ!!」

2人のあとに続いた国。案の定1番お怒りなのはアーサーだ。アルフレッドの肩を掴むなり、ブンブンと揺さぶった。

「俺なんて、俺なんて……菊に泊めて貰ったことすらねぇのに……」

どんどん言葉に覇気がなくなる彼に同情しながら真実を打ち明けた。

「勘違いしなでよ。別に一緒に寝ただけだぞ」

「え、なんで一緒に寝ることになったん?」

「それは内緒なんだぞ!」

遊びに行った際、夜菊と一緒に怖い映画を観てしまったアルフレッドは、怖いから一緒に寝てもらったなど口が裂けてもいえない。

「あぁ……もう駄目だ…俺も菊みたいに鎖国する……」

「ちなみに200年……菊と一緒な人生を歩むんだ…」

「お会計はじめよかー」

「誰かお兄さんのコート知らなーい?」

「丁度飲み終わったんだぞ!」


完全に諦め返った3人は口々に帰る準備をしようとするが、まだ惚気話をしたりないアーサーはそれを許すはずがなく……酔いに酔ったアーサーはしつこく彼らにしがみつき、なんとか引き止める。

「はぁ、そのしつこさを仕事に発揮してほしいよ……」

そんな希望は彼に届くことなくアーサーの惚気話に付き合わされる3人であった。





「ほんっと、菊は昔も今も可愛すぎるんだよ。なんなら可愛さ増してる。なんでだろうな?俺にも分かんない。やっぱ菊だからだな。うん絶対そうだ。菊だから可愛いんだ。」

「だって開国後は俺の国の文化を習うためにいっぱい会いに来てくれたんだぜ?それはもう一生懸命にアーサーさんアーサーさんって。は?もう可愛いすぎてキレそうだった。まぁ菊にキレることなんて夏に雪が降るぐらいありえねぇんだけど。」

「菊って今と変わらず飲み込みも早いし、勉強熱心だし、謙虚で優しいし料理も美味いし……。初めて会った時は可愛すぎて鼻血が出るかと思ったぐらいだ」

「いや出てたよね?」

「貧血になりそうなぐらい出てたんだぞ」

「同盟を結んだ時はあのまま結婚しようと思ったけど、流石にそれは早とちりすぎだろ?だからアイツとちゃんと付き合ってからしようと思っててだな……。式場のアドバイスをくれないか?やっぱ薔薇が一面に咲いているガーデンか、日本の式場でもいいな!」

「早とちりってレベルちゃうやろ」

「しかも早とちり直ってないしな」

「意味分かってないんじゃないかい?」


「あと昔の日本って、写真に写ると魂を抜かれっていう風潮があったろ?そん時俺、冗談で言ったんだよ。怖いなら手を握ってやろうか?って。したらだぞ?菊がお願いしますって。涙目で!上目遣いで!震えながら!俺を求めて来たんだよ!可愛すぎだろ!!何なんだよあれ!?」

「はぁぁ…菊が可愛すぎて辛い。もう毎日が気が気じゃねぇよ、変なやつに目付けられてないかとか、誘拐でもされちまったら国家権力を使ってでも止めてみせるからな。安心しろよ菊!」

「お兄さんも気が気じゃないよ。お前がいつ菊ちゃんに危害加えるんだろって」

「こんなに綺麗なブーメランする奴おるんやなぁ」

「君さっきまで誘拐側に居たよね?」


「てかいつまで続くわけ?これ。菊ちゃんの話は別に良いけど、お前から聞くのは嫌だわ」

「なんでだよ。もうちょっと付き合ってくれてもいいだろ?」

「俺達何時間付き合ってると思ってるんだい?もうかれこれ2時間は経つんだぞ」

「てゆうか、こんなに語ってんのに進展はないんやな。俺らに語ってる暇があったら菊君に電話でもしたらどうなん?」

「ったく、あるに決まってるだろ?このネクタイと手帳は菊とお揃いなんだ。この前買いに行ってな」

「確かに…菊ちゃんも同じのを持ってたような……持ってなかったような…」

「まぁ、お前らが知らないだけで俺らはちゃんと進んでんだよ」

「あ、お揃いと言ったら昔菊にあげたペアのティーカップ。アイツ、俺が来るたびそれしか使わなくて…。可愛いよな?もう好きだろ俺のこと。告白してもいい頃合いだと思わないか?」

「あーいいね。そのままフラれろ」

「また始まったわー、」

「終わった起こしてくれよ」

3人が解放されたのはアーサーが酔いつぶれた3時間後だった。





「おはよう菊ちゃん」

「おはようございます。フランシスさん」

3日ぶりの世界会議。たまたま早く来たフランシスは、いつも早い菊の隣に座った。菊の顔を見るたび思い返される。アーサーに付き合わされたあのパブでのことを。散々話されておいてそこで終わるお兄さんじゃない。彼の意地悪な部分が出てしまい、少しからかおうと、あの時の話題を振った。

「そういえば菊ちゃん、ネクタイ変えた?」

「はい。気分転換にと思って、仕事帰りに買ったんです。似合ってますか?」

「菊ちゃんに似合わないモノなんてないって。でも嘘は駄目だと思うよ〜?」

ニヤニヤと笑いながら、フランシスは菊の顔を覗き込んだ。

「?……はて、何のことですか?」

「そのネクタイ、アーサーとお揃いにしたんでしょ?誤魔化しなんて世界のお兄さんに通用しないんだから!」

なんて自信満々に言い張るが、当本人の菊はずっと頭に”?”を浮かべたままだった。

「……アーサーさんと…お揃い…なんですか?知りませんでした。今度見てみますね」

「…え?2人で買ったんじゃないの?」

「いえ、先程も言った通り仕事帰りに買ったものなので…1人、ですが…」

フランシスは違和感を覚え、3日前の会話を思い出した。そうだ、あいつ。買ったとは言ったけど一緒にとは言ってないじゃん。

え?てことは待てよ?なんで菊ちゃんとお揃いとか言って……。



(アイツただのストーカーじゃねぇかああぁぁ!!!)


心の中で叫ぶフランシスであった。

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ふーん。へー。ほーん。....ニヤニヤ

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