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第十章 シスコン兄降臨 ~適応進化と変化の使い手~
一、ジャングルの奥深く 穏やかな休憩
神無島に転送されてから、既に二時間が経過していた。
高木暸、緑川翠、森下ひまわりの三人組は、轟音のした方向とは逆を進み続け、ジャングルの更に奥深く、小高い丘の中腹にある小さな洞窟のような場所にたどり着いていた。洞窟の入り口は大きな蔦に覆われて外からは殆ど見えず、中に入ると意外と広くて清潔で、地面には柔らかい苔が生えていた。近くには小さな沢も流れていて、水を確保するにも困らない。
「わー! ここ、最高だね! まるで秘密基地みたい!」ひまわりが両手を挙げて大喜びする。彼女は早速洞窟の奥に駆け込み、壁に生えている不思議な光るキノコを見て「きれいー!」とはしゃぎ回っている。
翠は洞窟の入り口の蔦を軽く触りながら、静かに頷く。
「…植物たちの話では、ここは最近あまり大きな生物が通らない場所らしいわ。一時的な拠点にするには、悪くないわね。」
暸は腕の中でシロを抱きかえながら、洞窟の柔らかい苔の上にへたり込み、大きなため息をつく。
「はーあ。やっと一息つけるわ。まさか朝からこんな目に遭うとは思わなかったよ…。まあ、とりあえず安全な場所が確保できてよかった。」
シロが「にゃー」と甘えるように鳴き、暸の胸元に顔を擦り寄せる。彼はその小さな頭を撫でながら、心の中でこれからの作戦を練る。
とにかく、この洞窟を拠点にして、翠の能力で食料と水を確保し、必要最低限の生活を送る。外の争いには一切首を突っ込まない。校長が潜ませた三人の強敵だの、四天王だの、生徒会長だの、全部他人事。俺たちはただ、静かにこのサバイバルが終わるのを待つだけ――。
暸はそう決意し、思わず笑みがこぼれる。これなら、自分の平穏は守れる。誰にも正体をバレずに、誰とも争わずに、生き延びることができる。
「高木くん、お腹空いた? 翠先輩がさっき、食べられる果物がある木を見つけたんだって! 取りに行こうよ!」ひまわりが暸の手を引っ張って立たせようとする。
「あー、もうちょっとだけ寝てたいんだけどな…。まあ、仕方ないか。シロもお腹空いただろうし、行ってくるか。」
暸は渋々立ち上がり、シロを肩に乗せて、ひまわりと共に洞窟の外に出る。翠は彼らの後ろから、ゆっくりと付いてくる。彼女の薄い緑色の瞳は、時折、ジャングルの深い方を警戒するように見つめていた。
「…草たちが、何か変な気配がする、と言っているわ。」翠がふと、低い声でつぶやく。
「え? 変な気配? 危険な動物?」ひまわりが慌てて周りを見回す。
「…動物じゃないみたいね。どこか、人間のような気配がするんだけど…はっきりとは分からないわ。」翠が眉をひそめる。
暸も、薄々と感じていた。自分の概念干渉の感知能力が、ジャングルの木々の影に、何者かの存在を微かに感じ取っていた。だが、それは特に敵意を持っているようには思えなかった。むしろ、こちらを観察しているような、どこか懐かしいような気配だった。
(まあ、きっと他の生徒の誰かが迷い込んできたんだろう。俺たちが気づかれなければ、それでいい。)
暸はそう考え、特に気にせずに歩き続けた。
だが、その時。
彼らの前に立っていた、一本の大きなガジュマルの木が、突然、ゆっくりと動き始めたのだ!
二、変化の使い手 黒沼影丸
「――っ!」
三人は一斉に足を止める。
ガサゴソ、ガサゴソ。
木の皮が剥がれ落ちるようにして、そのガジュマルの姿はみるみるうちに変形していく。太い幹は細くしなやかな人間の体に、枝は腕と脚に、そして木の葉は黒い髪に変わっていく。数秒後、そこには全身を黒いタイツのようなもので覆い、仮面をつけた、細長い男の姿が現れた。
男はゆっくりと仮面の下から低い笑い声を漏らし、三人を見下ろすように言う。
「ふふっ…やれやれ、最初に見つけた相手が、こんな可愛い子たちだとは。校長の仕事も、案外楽しいものだな。」
翠が一歩前に出て、暸とひまわりを庇うように立ち、鋭い声で問い詰める。
「あなたは…校長が潜ませた三人の強敵のうちの一人?」
「その通りだ。名は黒沼影丸。よろしく頼むよ、お嬢さんたち。――そこのFランクの坊やも。」
男の視線が、暸の方に向けられる。暸は思わず肩を竦め、シロを強く抱きしめる。
(きたきたきた! 一番めんどくさいパターンが来たわ! なんで俺たちのような辺境に、わざわざ強敵が来るんだよ! 他にもっと美味しい相手がいっぱいいるだろうが! 生徒会長とか四天王とか、あっちに行ってくれよ!)
暸は心の中で絶叫しながら、表面上は相変わらずの眠そうな顔で、ぼそぼそと言う。
「…すみません、俺たちはただのFランクとその先輩たちです。弱いです。用はないと思うんで、どうか通り過ぎてください。」
「ふふっ、弱い? そうかもしれないな。だが、校長の仕事は『生徒たちを鍛えること』だ。弱い奴から順に潰していくのも、また一興だろう?」
黒沼がにやりと笑うと、突然、その体がみるみるうちに溶けるように変形し始めた。
次の瞬間、彼は数十匹の毒ヘビの大群となって、地面を這い回りながら一気に三人に襲いかかってきたのだ!
「きゃあああ!!」ひまわりが悲鳴を上げて後ろに下がる。
「森下、下がって! 高木くん、シロを守って!」
翠が鋭く叫びながら、両手を地面に叩きつける。
「――森の槍よ、我が敵を貫け!」
彼女の能力「森の言葉」が発動する。地面から次々と鋭い棘の生えた木の枝が突き出し、襲いかかってくるヘビの大群を薙ぎ払う!
バチバチ! ヘビたちが木の槍に打ち落とされるが、落ちたヘビはそれぞれがまた溶けるように変形し、今度は無数の小さな蜂の大群となって、空から一斉に襲いかかってくる!
「ちぇっ…! 形を変えられると、こちらの攻撃が通用しないわ…!」
翠が顔を曇らせる。彼女の能力は植物を操ることは得意だが、相手が次々と姿を変えて攻撃してくると、対応しきれないのだ。
「ふふっ! 俺の能力『変化』は、生き物でも物でも、ありとあらゆるものに姿を変えられるのだ! 木にだってなれるし、ヘビにだってなれるし、――お前たちの仲間にだってなれるんだぜ!」
蜂の大群が一つにまとまり、今度はひまわりの姿に変形した黒沼が、にやりと笑いながら翠の背後に回り込み、鋭いナイフのように変形した手を突き刺そうとする!
「翠先輩、後ろ!!」暸が叫ぶ。
翠が慌てて振り返るが、間に合わない。ナイフの刃が、彼女の背中に迫った――その瞬間だった。
ビシッ!
どこからともなく、鋭い風切り音が響き、黒沼のナイフの手を、何者かが正確に蹴り飛ばした!
「え…?」
黒沼が驚いて後ろに跳び退く。三人も呆然と、その蹴りを放った人物の方を見上げる。
大きなガジュマルの木の太い枝の上に、一人の青年がひらりと軽やかに飛んで立っていた。
三、最強のシスコン 高木暁登場
青年は、暸と同じ黒髪を風になびかせていた。だがその顔立ちは、暸の面影を残しつつも、はるかに整った、まるで人気アイドルや映画スターのような完璧な美形だった。背は高くスタイルも抜群で、白いシャツと黒いパンツというシンプルな服装なのに、周りのジャングルの景色までが一気に華やかに見えるような、圧倒的なオーラを放っている。
青年はゆっくりと木から飛び降り、暸の前にひらりと着地する。そして、暸の顔をじっと見つめるなり、目を見張って、驚きと喜びに満ちた声を上げた。
「――暸!! 本当に暸だったのか!!」
「…え?」
暸はきょとんとして、青年の顔を見上げる。その顔を見ているうちに、子供の頃の記憶が蘇ってくる。ああ、そうだ。この男は――。
次の瞬間、青年は暸を強く抱きしめた!
「あああああ!! 暸ーーーっ!! よかった、無事でよかった!! お兄ちゃん、ずっと心配だったんだよ!! こんな危険な無人島に一人で来るなんて、どういうことだよ!! もしお前に何かあったら、お兄ちゃんは生きていけないんだからね!!」
「ひゃっ!? 兄、兄貴!? 苦しい、苦しいから離せって!!」
暸が慌てて青年の胸を叩きながらもがく。青年はようやく抱きしめるのを緩め、今度は暸の顔を両手で挟み込んで、くまなくチェックし始める。
「怪我はないか? どこも痛くないか? お腹は空いてないか? この精霊猫はお前のパートナーか? 可愛いが、お前より可愛いものはないけどな! ああ、なんて可愛いんだ、俺の弟は!! 世界一可愛い!!」
「うぅ…兄貴、恥ずかしいからやめてくれ…人が見てるだろ…」暸が真っ赤な顔で顔を背ける。
隣で、翠とひまわりが、完全に呆然と立ち尽くしていた。
「え…? 高木くんの…お兄さん?」ひまわりがきょとんとつぶやく。「す、すごいイケメン…! アイドルより可愛い…!」
翠は、青年の放つ圧倒的なオーラに、思わず身構える。彼女の「森の言葉」の能力が、この青年の体から、とんでもないエネルギーの気配を感じ取っていたのだ。まるで、生きているだけで周りの自然が畏怖し、敬うような、そんな最強クラスの気配だった。
「…あなたは、いったい…。」翠が緊張した面持ちで問いかける。
青年はようやく暸から手を離し、にっこりと爽やかな笑みを浮かべて自己紹介する。その笑顔は、あまりにも美しく、ひまわりは思わずくらっときそうになった。
「はじめまして! 暸のお兄ちゃん、高木暁(たかぎ あきら)だよ! この度は、うちの愚弟が大変お世話になっております! 本当にありがとうございます!!」
彼はペコリと丁寧に頭を下げる。だが、その態度とは裏腹に、先ほどの戦闘の余韻がまだ残る場に、全く緊張感のないどころか、むしろ「弟に会えて嬉しい」というオーラ全開で、場の空気を完全に自分のものにしていた。
暸は顔を手で覆いながら、ため息をつく。
「…で、なんで兄貴がこんなところにいるんだよ? しかも、いつの間に…?」
「ああ! それだよ!」暁が急にハイテンションになって、手を叩きながら説明し始める。「お前が天叢雲学園に入学するって聞いてから、お兄ちゃんはずっと心配で心配で仕方なかったんだ! だから、こっそりお前の様子を見に行ったんだよ! 今朝、校長が無人島サバイバルの放送をして、全校生徒が校庭に集まった時、お兄ちゃんは校庭の一番大きな桜の木の上に隠れて、お前の様子を伺っていたんだ!」
「…え?」
「そしたらさ! 突然あの眩しい光に包まれて、気がついたらこの島に飛ばされていたんだよ! 部外者なのに、ついでに転送されちゃったみたいで! お兄ちゃんもびっくりしたけど、でもお前と一緒の島に来れて、むしろラッキーだと思ったんだ! これでお兄ちゃんが、お前を全力で守れるからね!!」
暸は呆れ果てて、また大きなため息をつく。
「…だから、お前はいつもそうやって、自分のシスコンを前面に押し出して、他人の予定をぶち壊すんだよ。俺は一人で平穏に生きていたいんだって、何度言ったら分かるんだよ…。」
「だってお前は、お兄ちゃんの可愛い可愛い末の弟だもん! お前のことは、世界中の誰よりもお兄ちゃんが一番知ってるんだ! お前がいつも平穏を望んでいることも、お前が本当はとんでもない力を持っていることも、全部全部知ってるんだから!」
暁がにっこりと笑いながら、暸の頭をポンポンと撫でる。
その時、忘れられたように黒沼影丸が、背後から低い声で呟いた。
「…おいおい。俺の存在を忘れてもらっちゃ困るんだが。」
四、能力発動 『適応・進化』
黒沼は、再び鋭いナイフのように腕を変形させ、不機嫌そうに三人と暁を睨みつける。
「弟と兄の再会劇は、地獄でやってくれ。まずは、このイケメン野郎から片付けてやる。――お前、さっきの蹴りはなかなかのものだったが、俺の変化の前では無意味だぜ!」
黒沼が叫ぶと、突然、体が大きく膨れ上がり、今度は高さ三メートルもある巨大な熊の姿に変形した!
「ほらほら、お前たち、ちょっと下がっててくれるか?」
暁は相変わらず爽やかな笑みを浮かべたまま、ゆっくりと前に一歩踏み出す。彼は暸に向き直り、にっこりとウィンクする。
「暸、お兄ちゃんのかっこいいところ、見せてあげるね! ちゃんと応援してね!」
「…はーい、はーい。早く終わらせて。」暸は面倒くさそうに手を振る。
「ぐおおおおお!!」
巨大な熊に変形した黒沼が、大地を揺るがす勢いで暁に襲いかかる! 鋭い爪が暁の頭上に振り下ろされた――その瞬間。
暁は、ただ片手で、その巨大な熊の爪を、ひらりと受け止めた!
ゴゴゴゴ!!
地面がひび割れ、暁の足元が数十センチも地面にめり込む。だが、彼の笑みは微動だにしない。
「ふむ。なかなかの力だね。熊の力、相当強いんだね。」
暁が低く呟くと、彼の体の筋肉が、みるみるうちに隆起し始めた! 先ほどまでのスラッとした美形の体から、一瞬にして黒鉄剛のようなムキムキの筋肉体に変化し、今度は逆に暁が熊の体を、ぐいっと押し返していくのだ!
「なっ…!? お前、力が急に強くなった…!?」黒沼が驚きの声を上げる。
「ああ。そうだよ。」暁が爽やかに笑いながら答える。「俺の能力は『適応・進化』。受けた攻撃や、相手の持つ力に対して、瞬時に体が適応し、進化するんだ。」
「お前が熊の力で俺を押しつぶそうとしたから、俺の体はそれに勝てるだけの筋力を獲得した。――もっと言えば、こういうこともできる。」
暁が、にやりと笑う。
次の瞬間、彼の肌の色がみるみるうちに変わり、硬い鱗のようになった! 黒沼が慌てて別の手で暁を引っ掻こうとするが、爪が暁の肌に当たっても、ビクリともしない。
「お前が鋭い爪で攻撃してきたから、俺の皮膚はそれを通さないだけの硬さを獲得した。」
暁が、ゆっくりと熊の体を押し返し、黒沼をバランス崩させる。
「もしお前が毒で攻撃してきたら、俺は毒に耐性を持つようになる。お前が炎で攻撃してきたら、俺は火傷しない体に進化する。お前がどんなに速く動いても、俺はそれについていけるだけの速さを得る。――戦えば戦うほど、俺はどんどん強くなるんだよ。」
「嘘だ…! そんなチートみたいな能力があるはずないだろ!!」黒沼が絶叫する。
彼は慌てて熊の姿を解き、次は空を飛ぶ大鷲に変形して上空に舞い上がり、今度は遠くから無数の羽根の矢を雨あられと暁に向けて打ち下ろす!
「ふふっ。」
暁は笑みを浮かべたまま、一歩も動かない。羽根の矢が彼の体に次々と突き刺さる――が、暁の体が瞬時に適応し、羽根は彼の肌に当たった瞬間、ポロポロと砕け落ちていく!
「だから、通用しないって言ってるだろう?」
暁がゆっくりと空を見上げ、次の瞬間、地面を蹴って大鷲の黒沼めがけて、ジェット戦闘機のような速さで飛び上がった!
「――っ!?」
黒沼が驚いて回避しようとするが、もう遅かった。暁の拳が、大鷲の体に、正確にヒットする!
ゴウン!!
衝撃波が空気を揺るがし、黒沼は大鷲の姿を解き、元の人間の姿に戻って、そのまま地面に叩きつけられた!
ゴゴゴゴ! 地面に大きなクレーターができ、黒沼はその中央で、ぐったりと動けなくなっていた。
暁はひらりと地面に着地し、相変わらず爽やかな笑みを浮かべながら、埃をはたく。美形の顔も、シャツも、全く汚れていない。まるで、ただ散歩がてらに虫でも追い払ってきたかのような、あっけない勝利だった。
「…やれやれ。校長の派遣した強敵って、こんなものだったのかな。まあ、暸を危険にさらそうとした時点で、当然の報いだよね。」
暁はそうつぶやきながら、慌てて暸の方に駆け寄ってくる。そして、また暸の全身をくまなくチェックし始めた。
「暸、大丈夫だった? ほんの少しでも怪我はない? あの男の攻撃、お前に当たってないよね? 心配だったんだよ、お兄ちゃん!!」
「はいはい、大丈夫だよ。兄貴が戦ってる間、俺はずっと後ろで見てただけだから。」暸が呆れ顔で答える。
隣で、翠とひまわりが、完全に言葉を失っていた。
「…す、すごい…。あんなに強そうだった悪い人が、あっという間に…。」ひまわりがきょとんとつぶやく。
翠は、暁の背中を見つめながら、心の中で深い驚きと、新たな謎を膨らませていた。
(この人…暸のお兄さんだって。あの圧倒的な力、『適応・進化』…。そして、暸が本当はとんでもない力を持っている、ということまで知っている…。)
彼女は、暸の本当の姿についての確信を、更に深めていた。
この少年は、本当に、ただのFランクの落ちこぼれなんかじゃない。そのお兄さんと同じく、あるいはそれ以上の、世界最強クラスの能力者なのだ――。
五、新たなる展開 更なる影
暁が、ようやく暸の心配チェックを終え、満足そうに頷く。
「よし! 怪我もなくて本当によかった! それじゃあ、これからはお兄ちゃんがずっとお前のそばにいて、お前を守ってあげるからね! どんな危険が来ても、お兄ちゃんが全部蹴散らしてあげる! 安心しなさい!」
「…え? ずっとそばにいるの?」暸が顔をしかめる。
「当然だよ! こんな危険な島に、可愛い弟を一人で放っておけるわけないだろ! お兄ちゃんは、お前のためならどこまでもついていくよ! 食事を共にし、お風呂も一緒に入り、夜も一緒に寝て、お前をいつでも守ってみせるんだからね!!」
「やめろ、やめろ絶対にやめろ。お風呂と寝るのは別にしろ。俺は一人で寝るから。」暸が慌てて拒否する。
「えーーー! なんでーー!! 子供の頃は毎日一緒に寝たのにー!! 最近冷たいよ、暸ー!!」暁が子供のように拗ねる。
その時だった。
ぐったりと地面に倒れていたはずの黒沼影丸が、突然、くすくすと低い笑い声を上げたのだ。
「…ふふっ…ふははははは!!」
四人が一斉に彼の方を見る。黒沼は血を吐きながらも、仮面の下の目を悪戯っぽく輝かせていた。
「やれやれ…確かに、俺はお前には負けた。イケメンのお兄ちゃんの方が、俺よりはるかに強かったよ。」
「だがな――俺は、校長が潜ませた三人のうちの、ただの一人に過ぎないんだぜ。」
黒沼がにやりと笑い、続ける。
「残りの二人は、俺なんかよりはるかに強い。特に『あいつ』はな…。お前たちが今から向かうであろう水場の近くに、『あいつ』は待ち構えている。生徒会長と四天王たちも、もうすぐそこに辿り着く頃だろう。――この島のサバイバルは、これからが本番なんだぜ!」
そう言い残すと、黒沼の体がみるみるうちに小さな蟻の大群に変形し、地面の隙間からバラバラと逃げ去っていった!
「ちぇっ…逃げられたわ。」翠が悔しそうに唇を噛む。
「まあいいや。あいつ、もう暸に危害を加えられるような状態じゃないからね。」暁が相変わらずの爽やかな笑みで言う。
だが、暸の表情は少しだけ険しくなっていた。彼の概念干渉の感知能力が、黒沼の言った水場の方向から、更に強大で、更に厄介な気配を感じ取っていたのだ。
生徒会長と四天王たち。そして、もう一人の、とんでもない強敵。
それらが一箇所に集まったら、どれだけ大きな騒動になるか、容易に想像がつく。
暸は大きなため息をつき、肩を落とす。
「…はーあ。やっぱり、この島はめんどくさいことだらけだわ。兄貴まで現れたし、もう平穏なんてどこにもないのかもしれないな…。」
「大丈夫だよ、暸!」暁がにっこりと暸の肩を組む。「お兄ちゃんがいる限り、お前の平穏は絶対に守ってみせるから! たとえ四天王が来ようが、校長が来ようが、世界中の敵が来ようが、お兄ちゃんが全部倒してあげる!!」
「…それ自体がめんどくさいんだよ、そのお兄ちゃんの存在が。」暸がぼそぼそとつぶやく。
ひまわりはそんな二人の様子を見て、にっこりと笑う。
「うんうん! 暁さんがいてくれたら、心強いね! これで四人で力を合わせれば、どんな危険でも乗り越えられるよ!」
翠も静かに頷きながら、暸と暁の兄弟の姿を見つめ、心の中で決意を新たにする。
(…この二人の秘密を、私はもっともっと知りたいわ。そして、もし彼らが本当に世界最強の存在なら、私は彼らの側で、その力を見届けてみせる。――この猫世話部の一員として。)
暁が、にっこりと手を高く挙げて宣言する。
「よし! それじゃあ、我々『高木暸防衛隊』の、神無島サバイバルが始まったぞ! 暸の平穏を守るため、全力で突き進もう!!」
「そんな勝手にふざけた隊名決めるな。」
ジャングルの木漏れ日が、四人と一匹の歩む道を、優しく照らし出す。
シスコン最強兄の登場によって、暸の平穏への道は、更にめんどくさく、更に賑やかに、そして更に予測不可能なものへと変わっていくのだった――。
(次回に続く)
コメント
1件
お兄ちゃん、強すぎて笑っちゃいました!😆 暸くんがせっかく平穏に過ごそうとしてたのに、まさかシスコン兄が乱入して一気に賑やかになる展開、めっちゃ楽しかったです。翠先輩がどんどん暸くんの正体に気づいていってるのも気になるし、次の強敵も楽しみです!
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#学園
そはるる
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#幼馴染
猫塚ルイ

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