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第十一章 最終日の覇者 ~超越の力と平穏の帰還~
一、神無島七日目 最終日の朝
神無島でのサバイバルも、七日目の最終日を迎えていた。
小高い丘の中腹にある洞窟の中、高木暸は柔らかい苔のベッドの上で、ゆっくりと目を覚ます。腕の中では精霊猫のシロが気持ちよさそうに喉を鳴らしていて、彼の胸元に顔を擦り寄せて甘えてくる。
「…にゃー。」
「うーん…おはよう、シロ。」
暸はあくびを一つ、背伸びをする。洞窟の入り口からは、熱帯の朝日が柔らかく差し込んできて、空気は澄んでいて、どこからともなく鳥のさえずりが聞こえてくる。
――この七日間、彼にとっては、思ったよりもずっと平穏な日々だった。
というのも、何しろ最強のシスコン兄・高木暁が四六時中彼のそばにいてくれたからだ。危険な生物が現れれば瞬く間に蹴散らし、食料が必要になれば木登りも狩りも何でもこなし、夜は「暸が寒くないか」と心配して毛布代わりになってくれる(暸は全力で拒否したが)。おかげで暸は、一度も自分の能力を使うことなく、ただ猫と戯れ、ぼんやりと空を眺め、時々翠やひまわりとおしゃべりするだけの、極楽のような時間を過ごしていた。
もちろん、兄のシスコンぶりは日に日にエスカレートしていた。「暸、今日も可愛い!」「暸、この果物甘いよ、あーんして食べさせてあげる!」「暸、シロよりお兄ちゃんの方が可愛いよね?」と、四六時中暸にまとわりついてくるので、さすがの暸も時々「うるさい」と突き放したくなるほどだった。だが、平穏が守られていることには代えられなかった。
「おはよう、暸!! 今日も可愛い寝顔だね!! お兄ちゃん、朝から幸せだよー!!」
案の定、暁が洞窟の入り口から駆け込んできて、暸の頭をポンポンと撫で回す。彼の手には、朝食として採ってきたらしい、真っ赤で熟れた熱帯果実が幾つもぶら下がっている。
「…兄貴、うるさい。朝からそのテンションは頭痛がする。」暸が面倒くさそうに顔を背ける。
「ひどいよー! でも、そんな冷たいところも可愛いんだからね!」暁はにっこりと笑みを浮かべ、全く気にしていない。
洞窟の奥から、緑川翠と森下ひまわりも目を覚まして歩いてくる。ひまわりは相変わらず明るく、「おはよう! 暁さん、今日も果物採ってきてくれたの? わー、美味しそう!」と喜び、翠は静かに暁に頷いて挨拶する。
この七日間で、翠は暁の圧倒的な強さと、そのシスコンぶりの両方をすっかり受け入れるようになっていた。彼女は時折、暁と暸の兄弟のやり取りを微笑ましく眺めながら、植物たちから情報を集めて三人の安全を守ってくれていた。
「…草たちの話によると、今日は島全体が何だか騒がしいらしいわ。」翠が果物を皮むきしながら、静かに言う。「残りの二人の刺客が、生徒会長たちを追い詰めているみたいね。ずっと島の中心部で戦っているらしいわ。」
「へえ…。まあ、俺たちには関係ない話だね。」暸が果物を一口かじりながら、ぼそぼそと言う。「あっちはあっちで頑張ってくれ。俺たちは、このまま静かに最終日が終わるのを待つだけだ。」
「そうだね! 暸の平穏が一番大事だからね!」暁がにっこりと頷く。「もし万が一、あの刺客たちがこっちに来たとしても、お兄ちゃんが全部片付けてあげるから安心しなさい!」
暸は「はいはい」と手を振りながら、心の底から安堵していた。
――だが、彼のそんな願いは、あっという間に打ち砕かれることになる。
ゴウウウウン――!!
突然、洞窟の外から、地鳴りのような轟音が響き渡った。
二、最後の刺客 虚空零と夢魔幻
四人が一斉に洞窟の外に飛び出す。
丘の下の広場に、凄まじい戦闘の気配が広がっていた。空間がねじれ、木々が根こそぎになって飛び散り、どこからともなく絶望的な叫び声が聞こえてくる。
そして、その中心に二人の男が立っていた。
一人は、全身を黒いローブで覆い、顔を深い影に隠した男。彼の周りだけ空間が歪んで、まるで別の次元に繋がっているかのように見える。
もう一人は、薄紫の着物をまとい、仮面のようにいつも笑みを浮かべた男。彼の瞳を見つめると、心が吸い込まれるような不思議な気持ち悪さを感じさせる。
そして、彼らの周りには、生徒会長の神無月凛を筆頭に、四天王の四人が、ぼろぼろになりながらも立ち向かっていた。彼らの体には傷が多く、精霊たちも力尽きかけている様子だった。
「ちぇっ…! なんだこいつら…! 俺のパンチが、空間に吸い込まれて当たらねえ!」黒鉄剛が怒鳴りながら、血まみれになって拳を振り上げる。
氷室雪菜も、絶対零度の氷を次々と放つが、その氷は虚空の男の前でポキリと空間ごと折れて消えていく。「…私の氷も通用しない。この男の能力は、空間を操るものだわ。」
御手洗叡智がタブレットを叩きながら、汗を拭いて叫ぶ。「もう一人の男にも気をつけろ! 私の知恵の精霊が、今にも精神を乗っ取られそうになっている! あいつは精神を操る能力者だ! 彼の目を見つめてはいけない!」
天宮詩織は既に幻覚を使って対抗しているが、相手の幻覚の方がはるかに強力で、彼女は時折悪夢にうなされたように顔を歪めている。「うう…この人の幻覚、すごく重いの…心がぼろぼろになりそう…」
最後に神無月凛が、因果の糸を操って二人に襲いかかるが、虚空の男が空間を切り裂いて因果の糸をぶった切り、夢魔の男が笑みを浮かべて彼女の精神に干渉し、凛は思わず膝をついて苦しそうに顔をしかめる。
「ふふっ…天叢雲学園の頂点、ってこんなものか。がっかりだぜ、校長様。」虚空の男が低い声でつぶやく。
「まあまあ、そう言わないでよ。可愛い子たちが、一生懸命戦っているじゃない。――さあ、次はどんな恐怖を見せてあげようかしら。」夢魔の男が、ねっとりとした笑みを浮かべる。
これが、校長が潜ませた最後の二人の刺客だった。
暁が、丘の上から二人の姿を見て、静かに眉をひそめる。
「…ふむ。二人とも、なかなか厄介な能力を持っているね。」
翠が緊張した面持ちで、彼に問いかける。
「暁さん、あの二人の能力は…?」
「ああ。左のローブの男が『虚空零』。能力は『空間断絶』。空間を自在に切り裂いたり、繋げたり、物体を別の次元に閉じ込めたりすることができる。物理攻撃は殆ど通用しない相手だね。」
暁は静かに、右の男の方を指差しながら続ける。
「右の着物の男が『夢魔幻』。能力は『精神支配』。相手の五感や記憶、感情、思考そのものを自由に操ることができる。直接戦う力は弱いが、精神が脆い相手なら一瞬で奴隷にできる。恐ろしい能力だよ。」
ひまわりが青ざめた顔でつぶやく。「え、そんなの…どうやったら勝てるの…? 生徒会長の人たちですら、あんなに苦戦してるのに…。」
「まあ、普通の能力者なら勝てないだろうね。」
暁は、爽やかな笑みを浮かべたまま、ゆっくりと丘から下り始める。
「――だが、俺は普通じゃないからね。」
「兄貴、行くの?」暸が慌てて呼び止める。
「ああ。あいつら、こっちに気配を感づいているよ。放っておいたら、こっちにも戦いが飛び火してくる。暸の平穏を守るためにも、ここで早く片付けてくるね。」
暁は振り返り、にっこりとウィンクする。
「ちょっと待っててね。お兄ちゃんのかっこいいところ、見せてあげるから。」
三、適応進化 圧倒的な力
暁がゆっくりと広場に歩み出ると、虚空零と夢魔幻の二人が、一斉に彼の方に視線を向けた。
「…お前、誰だ? 校長の派遣した刺客でもないようだが。」虚空零が低い声で問いかける。
「ふふっ、可愛いお兄さんだね。――あなたの精神、きっと美味しいだろうな。」夢魔幻がねっとりと笑みを浮かべる。
暁は爽やかに笑い、手を軽く挙げて挨拶する。
「はじめまして。高木暁だよ。うちの弟を危険な目に遭わせてしまう前に、二人ともここで大人しく負けてくれるかな?」
「…ふざけるな。」
虚空零が手を一振りする。
「空間断絶・裂空!」
ビシッ!
目に見えない空間の刃が、暁の首元を目がけて飛んでくる! これまで黒鉄の拳も雪菜の氷も、何もかもを切り裂いてきた一撃だ。
だが――暁は、ただ片手で、その空間の刃を、ひらりと指で挟んだ。
「――っ!?」
虚空零の仮面の下の目が、見開かれる。
「ふむ。なるほど、空間を切り裂く力か。鋭いね。」
暁が指を少し力を込めると、空間の刃はパチンと音を立てて砕け散った。
「だが、こんなもの、俺の体を切ることはできないよ。」
「何を言っている…! 俺の空間断絶は、どんな硬いものでも切り裂けるはずだ!!」
虚空零が怒りを込めて、両手を大きく広げる。
「空間断絶・無数の裂け目!!」
暁の周りの空間が、次々と黒く裂けていく! 無数の空間の刃が、四方八方から暁に襲いかかる!
「ふふっ。」
暁は笑みを浮かべたまま、一歩も動かない。
彼の体の表面が、みるみるうちに透明な輝きを帯び始める。『適応・進化』の能力が発動し、空間を切り裂く力に対して、瞬時に「空間に影響されない体」へと進化していたのだ。
ガシャン、ガシャン!!
無数の空間の刃が暁の体に当たっては、次々と砕け散っていく! まるでガラスのナイフで岩を叩いているかのように、暁の体には一つの傷もつかない。
「次は、俺の番かな。」
暁がゆっくりと足を踏み出す。次の瞬間、彼の姿が消えた!
「――っ! 速い…!」
虚空零が慌てて空間をワープして後ろに下がるが、暁は既に彼の背後に回り込んでいた!
「見つけた。」
暁の拳が、虚空零の背中に軽く――だが、絶対的な力で――叩き込まれる。
ゴウン!!
虚空零は口から血を吐き、そのまま地面に叩きつけられた! 彼の周りの空間がぐちゃぐちゃに歪み、彼は動けなくなっていた。
「一人目、終了。」
暁が爽やかに笑みを浮かべ、次に夢魔幻の方を向く。
夢魔幻は、暁の圧倒的な力を目の当たりにしても、依然としてねっとりとした笑みを絶やさない。
「ふふっ…確かに、物理的な力はあなたの方が上のようだね。――だが、精神の世界では、どうだい?」
夢魔幻が、ゆっくりと暁の瞳を見つめる。彼の瞳が、紫の光を帯びて輝き始める。
「――精神支配・絶望の迷宮。」
ビシッ。
暁の視界が、一瞬で真っ暗になった。
次の瞬間、彼は無限に続く暗い迷宮の中に閉じ込められていた。壁からは次々と彼の心の奥底にある恐怖が具現化して襲いかかってくる。幼い頃、暸が自分の力で周りを傷つけてしまった記憶、暸が自分を嫌っているのではないかという不安、様々な負の感情が彼の心を蝕もうとする。
「ふはははは! どうだい! この絶望の迷宮の中で、お前の精神はぼろぼろになって、いずれ俺の奴隷になる!!」夢魔幻の声が、迷宮の中に響き渡る。
だが――暁は、ただ呆れたように眉をひそめた。
「…はあ。こんな幻覚、何の役にも立たないんだけど。」
彼の能力『適応・進化』が、精神への干渉に対して瞬時に反応する。暁の精神そのものが、どんな干渉も受け付けない、鉄壁の防御力を持つように進化していたのだ!
「――俺の一番の恐怖は、ただ一つ。暸が怪我をすることだけだ。それ以外の何ものも、俺の心を揺るがすことなどできないんだよ。」
暁が静かに呟くと、無限の迷宮がガラスのようにひび割れ、次の瞬間には粉々に砕け散った!
「なっ…!? 俺の精神支配が…効かない…!?」夢魔幻が、初めて恐怖の色を浮かべる。
「さあ、次はお前の番だ。」
暁がゆっくりと夢魔幻に近づき、片手を挙げる。
「精神を操るのが好きなら、少しだけ味あわせてあげる。――俺が今まで受けてきた、暸に冷たくされた時の『悲しみ』を、少しだけ分けてあげるよ。」
ビシッ。
暁の指が夢魔幻の額に軽く触れた瞬間、夢魔幻の体が激しく痙攣し始めた! 彼の口からは、人間とは思えないような絶叫が上がり、彼は自分の頭を抱えて地面に転げ回り、涙と鼻水を垂らして泣き叫び始めたのだ!
「ひゃあああああ!! こ、この悲しみはなんだ!! 心がぼろぼろだ…! もう、もう嫌だああああ!!」
暁は呆れたように彼を見下ろしながら、つぶやく。
「…まあ、これで二人とも、戦闘能力は失ったね。案外、あっさり終わっちゃった。」
広場全体が、完全なる沈黙に包まれていた。
生徒会長も四天王も、今まで自分たちが苦戦し続けた強敵二人が、この美形の青年によって、あっけなく、そして容易く圧倒された光景に、呆然と立ち尽くしていたのだ。
四、超越の一撃 弟を守る絆
「…ちぇっ…!」
地面に倒れていた虚空零が、まだ動ける手を必死に動かし、暁に背を向けたまま、卑怯な罠を仕掛けた。
彼の能力の残り全てを込めて、空間の刃を――戦いとは全く無関係な場所にいた、丘の上で見守っていた高木暸の方に向けて、飛ばしたのだ!
「ざまあみろ…! お前の可愛い弟が、どうなるか見てろよ!!」
「――っ!!」
暸は、飛んでくる空間の刃を見て、思わず身動きが取れなくなった。あまりにも突然の悪あがきに、彼は一瞬だけ自分の能力を発動することを忘れてしまったのだ。
シロが「にゃー!!」と警戒の声を上げ、翠とひまわりも悲鳴を上げる。
その瞬間。
世界が、一瞬だけ、白く染まった。
バチン――!!
暁の体から、人間の限界をはるかに超越した、圧倒的なエネルギーが爆発した!
今までの爽やかな笑みはどこにもなく、彼の顔は氷のように冷徹になり、瞳は黄金色に輝いていた。周りの空間がぐちゃぐちゃに歪み、重力が逆転し、時間さえも彼の周りだけ遅くなっているかのように見える。
彼の能力『適応・進化』が、「弟が危険に晒された」という最大の刺激を受け、今まで誰も見たことのない領域まで進化していたのだ!
――ありとあらゆる力を宿し、ありとあらゆる法則を無視し、ありとあらゆる存在を超越した、まさに神の領域。
暁が、ただ虚空零の方を見る。
「――お前は今暸に傷をつけようとした、それだけで死刑だ。」
静かな、だが絶対的な一言。
次の瞬間、虚空零の体が、まるでゴミのように、見えない巨大な力でぶっ飛ばされた!
ゴウウウウウン!!!
彼が飛んでいく方向の木々が、なぎ倒され、地面には巨大な溝が刻まれ、虚空零はそのまま数キロ先の山の斜面に叩きつけられて、完全に動かなくなった!
あまりにも圧倒的で、あまりにも理不尽な一撃。
生徒会長も四天王も、翠もひまわりも、誰もが言葉を失い、ただ呆然と暁の背中を見つめていた。この男が、人間の枠を完全に超えた存在であることを、誰もが肌で感じ取ったのだ。
だが――。
次の瞬間、暁の周りの圧倒的なオーラは嘘のように消え去り、彼は慌てたように丘の上に駆け上がってくると、暸の全身をくまなくチェックし始めた。
「暸!! 大丈夫だったか!? 怪我はない!? どこも痛くない!? お兄ちゃんが遅くてごめん!! ほんとうにごめん!! もう二度とこんな思いをさせないから、約束するから!!」
彼の顔は、先ほどの神のような冷徹さとは打って変わって、ただ可愛い弟を心配する、涙目のシスコン兄に戻っていたのだ!
暸はきょとんとした顔で、暁の慌てようを見ていたが、やがて呆れたように笑みを浮かべ、手を軽く暁の頭に置く。
「…はいはい、大丈夫だよ。兄貴が間に合ってくれたから、何ともない。――ありがとう。」
「――っ!」
暁は、暸の笑顔と「ありがとう」の一言に、急に顔を真っ赤にして、にっこりと幸せそうな笑みを浮かべる。
「う、うん! 暸が大丈夫なら、それだけでお兄ちゃんは満足だよ!! 世界一可愛い!!」
まるで何事もなかったかのような、兄弟のやり取り。
周りの者たちは、そのギャップに、更に呆然と立ち尽くすしかなかった。
五、終了のアナウンス 学園への帰還
その時。
どこからともなく、天城蒼校長の声が、島全体に響き渡った。
「――ふふっ。実に見事でした。皆さん、七日間に渡る神無島サバイバル、本当にお疲れ様でした。」
「予定通り、本日をもってこの実習は終了いたします。それでは、全員を一斉に学園の校庭に転送いたします。――さあ、準備をどうぞ。」
校長の声のトーンからは、どこか満足げなニュアンスが滲み出ていた。特に暁の圧倒的な力を目の当たりにして、彼がどれほど興奮しているかは、容易に想像がついた。
バチン!
再び眩しい光が、島全体を包み込んだ。
暸は思わずシロを強く抱きしめ、暁がそんな彼の肩をそっと支えてくれる。
次の瞬間、重力の変化と共に、懐かしい学園の空気が肌を包んだ。
ゴソッ、ゴソッ。
校庭には、ぼろぼろになった生徒たちが次々と転送されてくる。怪我をしている者も多く、不安そうに周りを見回す者も少なくない。だが、誰もが「生きて帰れた」という安堵感に包まれていた。
暁は、暸の周りをぐるりと一周して、再び怪我がないことを確認してから、少し寂しそうに笑みを浮かべる。
「…そろそろ、お兄ちゃんはここで帰るね。」
「え? もう帰るの?」暸が少しだけ驚いて言う。
「ああ。お兄ちゃんは部外者だから、学園の中に長居するわけにはいかないんだ。それに、お前も自分の平穏な生活が戻って嬉しいだろう?」
暁はにっこりと笑いながら、暸の頭を優しく撫でる。その手は、先ほど虚空零をぶっ飛ばしたあの手とは思えないほど、柔らかかった。
「…だけど、いつでもお兄ちゃんはお前のそばにいるからね。もし何かあったら、すぐに駆けつけるから。絶対に一人で悩まないで、お兄ちゃんを頼ってね。――世界中の誰よりも、お兄ちゃんがお前の一番の味方なんだから。」
「…うん。分かった。」暸は少しだけ照れくさそうに頷く。「ありがとう、兄貴。今回は本当に助かったよ。」
「きゃあああ!! 暸がお兄ちゃんにありがとうって言ってくれた!! お兄ちゃん、今すぐ死んでも後悔ないよー!!」
暁が感激して暸を抱きしめようとすると、暸は慌てて横に避ける。
「やめろ、人目があるだろ。恥ずかしいから、早く帰れ。」
「ひどいよー! でも、そんな突き放すところも可愛いんだからね!!」
暁はそう言い残し、にっこりと手を振ると、風のように校庭の外に去っていった。あの美しい背中が、人混みに消えるまで、暸はぼんやりと見送っていた。
心のどこかで、少しだけ寂しいような気もしたが、それ以上に「やっと平穏が戻る」という安堵感が大きかった。
六、結果発表 豪華景品の行方
全員の転送が完了し、怪我人の手当ても一段落ついた頃、天城蒼校長が演台に立ち、マイクを叩いて全校生徒の注意を引きつけた。
「――さて、改めまして、七日間に渡る神無島サバイバル、本当にお疲れ様でした。多くの生徒が、命の危機と向き合い、大きく成長してくれたことと思います。」
校長は穏やかに笑みを浮かべながら、続ける。
「それでは、今回の実習で最も活躍した者たちに、特別な表彰と豪華景品を贈呈いたします!」
「まず、生徒会長 神無月凛、そして四天王の皆さん。七日間を通して生徒たちの安全を守り、最後まで刺客たちと戦い続けたその勇気に、特別表彰と、各々に学園費用一年間免除の特典を贈ります!」
会場から拍手が沸き起こる。凛たちは少しだけ複雑な表情を浮かべながらも、礼を述べて表彰を受け取る。彼らは心知っていた。最後の刺客を倒したのは、自分たちではなかったということを。
「――そして、今回の最大の功労者。校長が派遣した刺客三人を、全て一人で打ち負かし、多くの生徒の命を間接的に救ってくれた、あの方。」
会場がどよめく。校長はにっこりと、暸の方をちらりと見やって、続ける。
「――残念ながら彼は既に学園を後にしておりますので、表彰と景品は、彼の弟である高木暸くんに代理で受け取っていただきます!」
「…え? 俺?」
暸は突然名前を呼ばれて、きょとんと立ち尽くす。周りの生徒たちも「え? Fランクの高木?」「彼の兄が、あの刺客を全部倒したの?」と驚きの声を上げる。
暸はしぶしぶ演台に上がり、校長から手渡された分厚い封筒と、何やら豪華な楯を受け取る。
「高木くん、お兄様によろしくお伝えください。景品は、賞金一千万円、そして学園費用三年間全額免除、更に白銀財閥の特別招待旅行券です。どうぞ、兄弟で楽しんでくださいね。」
「…は、はい。ありがとうございます。」
暸は呆然と封筒を抱えながら、演台を下りる。一千万円だって? 旅行券だって? 兄貴のせいで、何故俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ? 目立つし、めんどくさいし、平穏が遠のくじゃないか――と、暸は心の中でため息をつき続けた。
だが、彼のそんな不平をよそに、会場は大盛り上がりだった。最強の美形兄の話題で、生徒たちは沸き立っている。
七、平穏な日常へ そして新たなる予感
その後、解散式が行われ、生徒たちはそれぞれの寮や教室に散っていった。
暸はとにかく一目散にFランク寮に駆け込み、賞金の封筒と楯を部屋の奥深くにしまい込んで、ベッドにバタンと横になった。シロが彼の胸の上に乗り、気持ちよさそうに喉を鳴らす。
「…はーあ。やっと終わったわ。本当に長かった…。」
七日間のサバイバルは、思ったより平穏だったとはいえ、やはり精神的に疲れた。兄のシスコンぶりには、さすがにくたくたになっていた。
「まあ、とにかく、明日からはまたいつもの日常が戻ってくるんだ。Fクラスでいつも通り雫先生の授業を受けて、放課後は猫世話部で猫たちと戯れて、誰にも邪魔されずに昼寝をする。――それだけが、俺の望む幸せなんだよ。」
暸はそうつぶやきながら、自然と眠りに落ちていった。
翌日から、本当に平穏な日常が戻ってきた。
サバイバルの話題は一週間も経てば次第に下火になり、生徒たちはまたいつもの能力授業や部活に打ち込むようになった。暸の兄の話題も、「伝説の美形最強兄」として語り草にはなったものの、本人が現れない以上、それ以上の騒動にはならなかった。
暸は相変わらず、Fクラスで机に突っ伏して眠り、放課後になれば猫世話部でシロと二十匹以上の猫たちに囲まれて過ごす。翠は時折、意味深な瞳で暸を眺めることがあったが、それ以上踏み込んでくることはない。ひまわりは相変わらず明るく、猫の話題で盛り上げてくれる。
白銀雫は、サバイバルで暁の力を目の当たりにしてからというもの、時折更に熱い視線を暸に送ってくるようになった。彼女の心の中では、「暁の弟である暸が、もしかして…」という疑念が、更に強く膨らみ始めていたのだ。
そして、校長室では。
天城蒼校長が、窓の外を眺めながら、にっこりと悪戯っぽい笑みを浮かべていた。机の上には、暁と暸の兄弟の調査資料が広げられている。
「…ふふっ。やはり、高木家の兄弟は、実に興味深い存在ですね。兄の『適応・進化』も、そして弟の『概念干渉』も、人類が長きに渡って夢見た、神の領域の力です。」
校長は杖で床をコンと叩き、更に笑みを深める。
「さあ、これから彼らをどうやって更に成長させてやろうかな。次のイベントは、何にしようか。――私は、とても楽しみにしていますよ。二人がこの学園で、どんな風に羽ばたいていくのかを。」
夕暮れの光が、校長の白い髪を黄金色に染め上げる。
暸が望む平穏な日常は、確かに戻ってきた。だが、その平穏の水面下では、既に新たな波が静かに蠢き始めていたのだ。
最強の落ちこぼれと、最強の白猫精霊、そして彼を取り巻く人々の物語は、まだまだ終わらない――。
(次回に続く)
コメント
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みぅだよ🤍🥀 第11話、最終日…ついに日常に戻ったね。 暁兄の圧倒的強さとシスコンぶりのギャップが毎回すごくて、今回も「弟に危害=即死」の覚醒シーンは鳥肌立ったよ…。あの冷徹な神モードからの、涙目で暸をペタペタ触るギャップ萌えがたまらんかった。 でも何より、暸が「平穏を愛する怠惰系」を貫き通してるのが好き。最強の兄に守られながら、自分は微動だにしないスタンス、最高だね。 校長の意味深なニヤニヤで次も気になる…続き、楽しみにしてるよ。
122
#学園
そはるる
933
#幼馴染
猫塚ルイ

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