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それから数日。
こさめは前みたいに気軽に話しかけられなくなっていた。
🦈「……おはようございます」
🍵「おはよ」
会話は続かない。
続けようと思えばできる。
でも、“近づかない方がいい”という言葉が頭から離れなかった。
すちは変わらない。
いつも通り穏やかに笑って、本を読んで、静かに過ごしている。
変わったのはこさめだけだ。
(傷つくって、どういう意味……)
考えても答えは出ない。
けれど、距離を取ろうとするほど、すちのことばかり目で追ってしまう。
🦈「……はぁ」
昼休憩。
食堂でため息をつくこさめに、先輩看守が呆れた顔をした。
先輩「またお前か」
🦈「またってなんですかぁ……」
先輩「恋する女子高生みたいな顔しやがって」
🦈「ぶっ!?!?」
こさめは思いっきりむせた。
🦈「な、ななななに言ってるんですか!?」
先輩「うるせぇ」
先輩は雑にお茶を飲む。
先輩「でもまぁ、気持ちは分からなくもない」
その言葉に、こさめはぴたりと固まった。
🦈「……え?」
先輩「すちは人当たりいいからな。あいつに情移す看守は少なくなかった」
胸がざわつく。
“少なくなかった”。
その言い方が妙に引っかかった。
🦈「……だった、って」
先輩は一瞬だけ黙る。
それから、ぽつりと言った。
先輩「みんな辞めたよ」
こさめの指先が冷える。
🦈「え……」
先輩「精神的にやられた奴もいるし、異動願い出した奴もいる」
🦈「なんで……」
先輩は答えなかった。
代わりに、真っ直ぐこさめを見る。
先輩「だから言っただろ。深入りするなって」
低い声。
冗談じゃない。
本気の警告だった。
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こさめは何も言えなくなる。
その日の夕方。
見回りの時間。
独房の前に立つと、すちはすぐこちらに気づいた。
🍵「元気ないねぇ」
🦈「……別に」
🍵「また嘘つく」
くす、と笑う。
その笑顔を見た瞬間、こさめの中で何かがぶつんと切れた。
🦈「すちさんって、なんなんですか」
思わず声が出る。
すちは目を瞬かせた。
こさめは鉄格子を掴む。
🦈「優しいくせに突き放すし、なんか全部知ってるみたいな顔するし……!」
感情が止まらない。
🦈「近づくなって言うくせに、守ったりするし……!」
廊下に荒い息だけが響く。
すちは静かにこさめを見ていた。
怒らない。
否定もしない。
その静けさが、余計苦しかった。
🍵「……こさめくん」
🦈「なに」
🍵「そんな顔しないで」
🦈「どんな顔ですか」
🍵「泣きそう」
その一言で、喉が詰まった。
図星だった。
こさめは唇を噛む。
すると、すちはゆっくり立ち上がる。
鉄格子越しに近づいてきた。
🦈「……っ」
近い。
心臓がうるさい。
すちは静かな目でこさめを見る。
🍵「俺ね」
ぽつりと落ちる声。
🍵「前も言ったけど昔、人をひとりだけ、すごく大事にしてた」
こさめは息を呑む。
🍵「でも結局、その子を一番傷つけた」
淡々とした口調。
なのに、痛みだけが滲んでいた。
🍵「だから、こさめくんには同じ思いさせたくない」
その瞬間。
こさめは初めて気づく。
すちは自分を拒絶してるんじゃない。
怖がってるんだ。
誰かを大事にすることを。
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