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最高の旦那様

33 - 第33話  旦那様は奴隷を推奨しています。5

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2024年02月19日

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監視というよりは、興味深げに観察されているような数多の視線に晒されながらも目的地へ着く。

距離は歩いていないのだが、迷路のような道を辿ってきたので、ここで置いていかれたら間違いなく迷子になるだろう複雑な道のりだった。

もともと極度の方向音痴だからマッパーも起動させておいたのだが、途中で目的地を現す表示が消え失せてしまったのだ。

恐らくスラム内では有効だが、館の位置を完全に特定するのは無効といった仕様なんじゃないかと思う。


「着きましたよ。ここが闇色の薔薇です」


「これは……何ともこう……ある種の厨二病めいた門構えでいらっしゃる……」


古びた洋館。

ホラーゲームの脱出系、もしくは館物と分類されているジャンルの作品に出てきそうな、おどろおどろしい雰囲気を纏っている館の門には、漆黒の薔薇が咲き誇り隙間もなく絡みついている。


「でもって、あれ、よね? 大きさがおかしいわよね?」


「ふふふ。さすがに御方の奥方でいらっしゃる。大半の人間は気がつきませんよ、この異様さには」


「あれ? 私あの人の妻だって名乗っていない……よね?」


「御方からお言葉をいただきました。想像以上に溺愛されていらっしゃる」


「過保護の自覚はあるよー。まぁ随分なめにあったし、今は離れてるからねぇ。できれば不愉快に思わないでもらえると嬉しいかな。あとは言葉遣いもお友達喋りでお願いしたいかな」


大きく見開かれた瞳がやわらかく細められた。

目が離せなくなる蠱惑的な瞳だ。

さすがは吸血姫。


「不愉快には思わないわよ。ちょっと羨ましいくらいで」


「羨ましい?」


「ええ。私みたいな種族で立ち位置だと、なかなか恋愛も婚姻も難しいのよ。伴侶に先立たれるのは、どれだけ年を経ても寂しいし、ね」


「……今は、一人?」


「アリッサの祈りは誰の祈りよりも効果がありそうだから、良い伴侶が現れるように祈ってくれる?」


「もちろん! 喜んで祈るわ!」


こんな状況になるなら祈とう系のスキルをコピーしておけば最良だったのに。

神との語らいなら完璧だった気もするけど、夫に封印されてしまっている。

解放を望めばいけるかしら?


残念ながら駄目です。

祈とうというスキルがあるので自力で取得しましょう。

奴隷の誰かが持っているかもしれませんよ?


……速攻で駄目だしされてしまった。

祈とうか……持っているとしたら誰だろう?

細かいところは聞いていないから現時点では判断できないかなぁ。

もし持っていなかったら教会か孤児院に訪問すれば、間違いなく取得できるだろう。


「ありがとう。それでは、入りましょう……か」


「ようこそ、闇色の薔薇へおいでくださいました。アリッサ様、アーマントゥルード・ ナルディエーロ様」


アーマントゥルード・ ナルディエーロって? と一瞬思ってしまった。

それだけ沙華という名前が身についていたのだろう。


「……貴女が館の主?」


「左様でございます。 ナルディエーロ様。闇色の館が主レイチェル・ノースロップと申します。どうぞ、お見知りおきくださいませ」


音もなく開かれた扉から現れたのは、しなやかに長い緑色の髪に抜けるような白い肌、深紅の瞳に人間の上半身を持ち、下半身は瞳と同じ色をした、大きな花弁の中に埋まっており、足に値するものは緑色をした太い触手、なかなかの異形。

ちなみにその触手は何本生えているのか分からない。


私は頭の中でオタク知識で培った幻獣・妖精図鑑を捲る。

各種ゲームでも活躍しているその姿は……。


「妖精 アルラウネ?」


「はい。種族はアルラウネでございます。アリッサ様の世界で知られるアルラウネとは少々違うかもしれません。さぁ、どうぞお入りくださいませ」


扉から伺える中は、豪奢な広間といった風合い。

スラムの奥深くに、こんなに大きな洋館があるはずがない。

洋館を見たときに感じた違和感。

沙華も否定しなかった。

何らかの幻術がかかっているのだろう。


足を踏み入れると、濃厚な薔薇の香りに噎せ返りそうになる。

咳が出るかと思ったが、香りが一瞬で好ましい仄かさになったので、小さな深呼吸をして息を整えた。


『闇色の薔薇は、妖精・幻獣の主を探す館。奴隷館と流布した方が分かりやすいので、そうと呼ばせております。世界広しといえど、妖精たちと契約ができるのはこの館しかございません』


触手での移動に心をそそられている間にも説明が続く。

想像以上に優美な触手移動です、はい。


「また求める主以外は、この館の存在を認識できません。館の噂を認識はできます。ただし、館まで辿り着けません。万が一、何らかの高等な違法手段を使って辿り着けたとしても、館には入れません」


「……この館の結界内にいる間は、ずっと精神に介入されている……そういうことなんでしょう?」


「はい。その通りでございます。ゆえに館まで来たとしても、結界の力により再び館の存在を忘れてしまうのです」


「なるほどねぇ……」


「ナルディエーロ様ほどこの館が何であるかを御存じの方は、この世界に三人もおりませんでしょう? どうぞ、お座りくださいませ。御希望の者を連れて参りましょう」


闇色に相応しく調度品は漆黒で統一されている。

置かれたティーセットは白一色、ケーキスタンドは銀一色なので、黒いレースのテーブルクロスに良く映えた。


「……食べたら怒られると思うよ?」


沙華が苦笑しながら指摘すれば、ケーキスタンドに乗せるお菓子を運びながら摘まんでいた妖精たちが硬直したあとで、そっと食べかけのお菓子を置く。


「食べかけを置いたらもっと怒られると思うよ-」


妖精たちがあわあわと涙目で狼狽えるので、救いの手を差し伸べてみる。


「……食べかけの物は食べてしまって証拠隠滅。新しいお菓子を持ってくればいいんじゃないかな。同じ物がたくさんあるんでしょう?」


お礼の声こそ小さすぎて届かなかったが、涙は止まったようだ。

揃って頭を下げた妖精は、ばひゅん! と音だけを残して消え失せた。

まさしく目にも止まらぬ早業だ。

食べかけのお菓子を囓りながらなので、思わず声を上げて笑ってしまった。


「全く。アリッサは甘いなぁ」


「妖精は自由なものでしょう? これぐらいで怒ったら可哀相じゃない」


「まぁねぇ。目くじらを立てるものでもないとは思うけど、注意するのがあの子たちのためでもあるわけよ。寛容な客ばかりじゃないからねぇ……」


館に入れる以上、全員良識を弁えているとは思う。

多少不愉快になる客はいるかもしれないが。


「お待たせいたしました……お二方には御迷惑をおかけしてしまったようで、大変恐縮です。何時もはもっと教育の行き届いた者が準備に参るのですが、主立った者が一時貸し出しとして王宮へ詰めておりまして……」


レイチェルが背後に妖精たちを伴って現れる。

こちらの要望は一切伝えていないが、事前に情報収集を行っているのだろう。

その数は四体。

妖精や幻獣を統括しているのであれば、情報収集どころか未来予知すらもやってのけるに違いない……と推察してみる。

私や沙華が妖精たちに注意するのも許容するのもきっと、全て織り込み済みなのだ。

そうと思わせる絶対王者の雰囲気を、レイチェル・ノースロップは全身に纏っていた。

彼女もまた、種の頂点に立つ者の一人なのだろう。


「それでは、順番に御説明いたします。まずは、妖精シルキー。家事妖精としてあちらの世界でも知られているとか?」


「ええ。そうですね。あちらの世界のとある国では、確かに認識されているようですね」


紅茶好きなメシマズ国では妖精が広く認識されている。

シルキーがいればメシマズ国じゃないはず? との議題が出た際に、料理上手のシルキーですら慣らされたメシマズ味覚を矯正できないとか、かの国のシルキーに限りメシマズが標準装備になっているとか、そもそもシルキーは料理をしたっけ? などと、壮絶な議論がなされたとか。


「家事妖精のシルキーでございます。現在闇色の薔薇で一番能力が高いシルキーということで、私が立候補させていただきました。どうか、末永くお使いくださいませ」


足首まであるロングスカートの裾を摘まみ深々と頭を下げるシルキーは、知的系熟練メイドといった雰囲気を纏っている。

私好みの清楚系メイド服が眼福だ。

シニョンにつけられたシンプルなヘッドドレスが最高すぎる。


「仕えた家は三家と少ないですが、それぞれ百年以上勤めあげておりますので、妖精特有の気まぐれさは皆無に等しいでしょう。その点でもお手を煩わせることはないと思われます」


「シルキーは妖精の特性として家事が好きなだけであって、必ずしも主人に従順なわけじゃないから、熟練は有り難いと思うわ」


「え! そうなの?」


「はい。個体差がありますが、新人シルキーは自分が好ましい形での家事を優先してしまうのです。それがたまたま主人の嗜好にあえば問題ないのですが、そうでなかった場合は厄介な存在となってしまいます」


知らない話だった。

 この世界限定のシルキー話かもしれないが、一緒に生活するなら特性について知っておくのが雇い主の義務だろう。


「えーと。妖精には、人と同じようなスキルってあるの? あ、あとは種族的に駄目なこととか嬉しいこととかも教えてほしいです」


「本人たちに聞かないのですか?」


「遠慮して言えないこともあるでしょう?」


主《あるじ》に対して不敬とか、契約を結ぶ前だとしても、否、前だからこそ気にするだろう。

優秀な妖精なら尚のこと。


「それではまず、ステータスから。こちらを御覧ください」


妖精 シルキー


HP 10000

MP 10000

SP 10000


スキル サバイバル料理

どんな過酷な状況でも、味&栄養的に満足できる料理が出せる。

家庭料理 一般的な料理を美味しく料理できる。

宮廷料理 高級料理を美味しく料理できる。

特殊清掃 アンデット系を殲滅させる攻撃スキル。

休憩小屋召喚 高級宿屋レベルの休憩小屋一軒を召喚できる。

結界機能搭載。

育児 人間よりも良い子に育てられるらしい。

介護 受けた者は死の間際まで幸福でいられるらしい。

救急 一通りの応急手当ができる。

使用後休憩小屋で休憩させれば完治。

指導 主に家事指導。

戦闘指導もできる。

スパルタ。


魔法 *生活魔法 家事妖精につき、類を見ない充実の生活魔法。

着火 火をつけることができる。

火種を必要としない。

浄水 無制限に水を生み出すことができる。

汚れた水の浄化、塩水を飲料水に変換も可能。

清掃 各種道具を使いこなし短時間で清掃が行える。

風呂 数人がゆったり入れる浴槽を短時間で設置できる。

簡易結界&覗き防止機能付。

シャンプー、リンス、ボディーソープ、入浴剤常備。

灯火 明かりを灯すことができる。

明るさの調節も可能。

霊的なものを寄せ付けない効果有。

洗濯 武器防具まで新品仕上げ。


熟成魔法 望むアイテムを一瞬で熟成できる。

発酵魔法 望むアイテムを一瞬で発酵できる。

蟲殺《ちゅうさつ》魔法 敷地内の害虫を瞬殺する。

蟲系モンスターにも有効。


固有スキル 素材鑑定 素材の良し悪しを判別できる。

家結界 庭を含めた敷地内を結界で保護できる。

想像料理 主の想像した料理を作れる。

主との信頼関係で出来が左右される

明朗会計 家計を良い感じにやりくりしてくれる。

節約上手。

倉庫 アイテムボックス。

時間停止&瞬間選択機能搭載。

無限収納。


称号 家事を極めし者。

規格外家事妖精。

戦える家事妖精。

アンデットに恐れられし者。

蟲殺しを極めし者。


「……シルキー?」


「お仕えいたしました主に冒険者の方が、お前がいれば冒険中も快適に過ごせるだろうと申されまして……励みました」


「普通はどれだけ励んで取得できないから! 攻撃スキルも魔法も無理だから! 種族的に!」


「ええ。彼女は既に家事妖精の域を逸脱しております。また彼女のスキルや魔法には彼女独自の進化を遂げたものすらございます。ゆえにアリッサ様に御推薦申し上げるのです」


「蟲&蟲系モンスター瞬殺は嬉しいなぁ……ダンジョン攻略にシルキーを連れて行くとか、どんなラノベだろう……」


彩絲と雪華とシルキーがいれば、どんなダンジョンも攻略できる気がしてきたのは思い込みでもないだろう。

攻撃は二人が、それ以外は全部シルキーが受け持ってくれそうだ。


「妖精・幻獣との契約は名づけで成立いたしますので、全員説明後に名前をお決めくださいませ」


断られるとは思っていない口調。

最初にどどーんとハイスペックな人材を持ってくるという手を使われたのかもしれないが、このシルキーとは是非とも契約したい。

スペックもさることながら、性格が良さそうだ。

彩絲と雪華や奴隷たちが万が一暴走しても、一人で止めてくれる予感がある。


「続いて、妖精ブラックオウル。妖精の中でも一、二を誇る頭の良さで知られている種族です。また索敵上手なので旅のお供にはもってこいですね」


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